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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第483話:ラムエルとクィクィ

 軈て、その視界は静かに晴れ上がる。そしてその先、つまりラムエルの深く重たい一撃が放たれたその場所に対して、彼女は鋭利な瞳を輝かせる。

 確かに手応えはあった。殺し切れたかは兎も角、少なからずのダメージは与えられた事は確実それが彼女の主観であり、長い長い時を生き抜いてきたが故に身に付いた経験値。主観的にも客観的にも信頼度が高いと太鼓判を押されて然るべき思考回路であり、言い換えれば、彼女が此処迄行き抜けてこれた事の根拠でもある。

 だが、そんな確信と同時に、彼女の心には一抹の不安が過ぎった。それは、何かを見落としているかの様な不安であり、或いは漠然とした不吉な予兆の様でもあった。

 果たして、それが何なのか? 彼女は瞬間的にそれに思い当るものへ至らなかった。何時もならこんな事には成らない筈なのだが、ヴェネーノ及びワインボルトという圧倒的な格下を相手にしていた事もあってか、無意識の内に油断や慢心を心中に溜め込んでいたのだろう。結果として、その漫然とした態度は漫然とした思考回路を形成する事となってしまったのだ。

 とはいえ、それは極一瞬の出来事。その一瞬の空白を経た後に、彼女はその漠然とした不安の原因に気が付いた。聖眼が悪魔の魔眼と異なり正常に機能するからこそ、それは直ぐ様発見出来たのであり、或いはこうなる可能性もあるだろうとある程度考慮出来ていたのかも知れない。


「やっぱり、見てるだけじゃ我慢できなくなったんだね、クィクィ?」


 攻撃の為に放った拳を引き乍ら、ラムエルはその着弾地点に話し掛ける。金色の聖眼を燦然と輝かせ、しかしその声色と口調はこの状況とは裏腹の陽気で微笑ましいものだった。とても戦闘中とは思えないそれによって修飾されたその雰囲気に対して、そう語り掛けられた張本人もまた、それに負けず劣らずの陽気で天真爛漫な態度振る舞いを返す。


「えへへ。だって、見てるだけだったら暇なんだもん。それに、あの儘だとヴェネーノもワインボルトも死んじゃってただろうし。まぁ、この距離ならこの子達が死んだ所で魂の回収には十分間に合うし、抑として死んでも死ななくてもボクとしてはどっちでも良いんだけどね。ただ、アルピナお姉ちゃんもスクーデリアお姉ちゃんも、そういうは望んでないみたいだから」


 それより、とクィクィはッ小さく息を吐き零して気持ちを切り替える。自身を遥かに上回る巨大な幻影体を眼前に捉えて尚、彼女は一切物怖じする事無く、悠々とした態度で以て彼女を見上げている。一応、年齢的にはラムエルの方が年上なのだが、それを感じさせない互角の雰囲気であり、改めてクィクィが実年齢以上の力を兼ね備えた特異な存在である事を認識させられる。


「次はボクと殺ろうよ、久し振りにさ」


 魔力を昂らせ、それを全身に纏わせ、クィクィは微笑む。そのあどけなく可愛らしい見た目からは想像が付かない程の覇気は、改めて彼女が悪魔である事を知らしめてくれる。同じ神の子として太古の時代より顔見知りであるラムエルですら、改めて彼女が超武闘派で並外れた力を持つ悪魔である事を実感する。


「そうこなくっちゃね」


 ラムエルもまた、クィクィと同様に微笑み、幻影巨体に身を包んだ儘戦う姿勢を見せる。彼女もまたクィクィと同じく武闘派に数えられる神の子であり、天使の中では彼女程の武闘派は他にいないだろう、とされる程。比較的穏健派の方が多い天使としてはまさに異様とも呼べる存在であり、彼女とシャルエルに関しては、武闘派の多い悪魔や龍からも取り分けて注目を集めていた。

 そして、ヴェネーノとワインボルトの事などまるで意に介さない態度振る舞いで以て、ラムエルとクィクィは戦闘を開始する。片や聖法によって実態を隠した幻影であり、片や真面に魔眼を開く事すら儘成らない只の侯爵級悪魔。只でさえ相性と実力的に優劣をつけるのは容易であるにも関わらず、この状況なのだ。本来であれば真面な戦闘になる事すら怪しいだろう。それ程の格差が此処には存在している。

 また、何より、幻影聖法は文字通り幻影である。これは認識阻害の聖法や魔法が実体を残しているのとは異なり、実態を持たない。それこそ、触れる事すら不可能であり、まるで霧を掴むかの様にスルリとすり抜けてしまう。

 その為、幾らクィクィが龍に匹敵するだけの腕力を兼ね備えていようとも、それは全て無意味となってしまうのだ。どれだけ拳を振り上げようとも、どれだけ足を蹴り上げようとも、それらは全て夢幻の前に於いて風を切るだけだった。


「むぅ~面倒だなぁ、相変わらず」


 だからこそ、クィクィはラムエルの幻影を前に頬を膨らませて不貞腐れる。自慢の力が全て無意味と化され、空を切るだけの徒労へと変質させられてしまうのだ。それは無理も無いだろう。

 その為、宛ら我儘な小娘の様に、彼女はその苛立ちと行動へ乗せてラムエルへとぶつけようと藻掻くのだった。魔力の波が迸り、聖力の幻影に透かされ、激しさとは裏腹の静けさだけが、その戦いを不気味に修飾していた。

次回、第484話は3/14公開予定です。

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