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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第481話:クィクィの動向

 クィクィも来てるみたいだし、如何にかして決着を付けないと……。


 焦燥感に背中を追われる様に、ラムエルは少しばかり決着を早めようとする。幻影によって構築された巨体を振り翳し、物理的な優位性を存分に活かす立ち回りを披露する。

 対して、目に見えて攻撃の展開が変化した事を認識したヴェネーノとワインボルトは、それに最大限迅速に対応しようとする。相性的不利と階級的上下関係がある事を承知した上で、それを如何にかして覆そうと躍起になる。

 とはいえ、抑として、こんな戦いが真面に成立する筈が無いというのは常識。幾ら此方が数的優位性を確保しているとはいえ、根本的な上下関係が絶対的な理として存在しているのだ。どう考えても、それを覆せるだけの秘策も無しにそれを覆せる筈が無い。

 実際、何も秘策は無いのだ。アルピナがそれっぽくヴェネーノとワインボルトに戦いを任せてはいたが、だからと言って彼女がヴェネーノ達に何かを与える訳でも無ければ、ヴェネーノ達だって何かしらを隠し持っている訳では無い。

 ヴェネーノ達自身でさえ、何故アルピナが自身らにこの戦いを丸投げしたのかが分かっていない始末なのだ。何時もの事、と言ってしまえばその通りではあるのだが、だからと言ってその全てが容易に受け入れられる筈も無いというのが現実である。

 その為、ヴェネーノもワインボルトも、何かしら取って置きの秘策を勿体ぶって提示する訳でも無く、只我武者羅になってこの状況を突破しようと藻掻くだけだった。

 それは、何も知らない者から見れば非常に滑稽なもの。出来もしない事を無理矢理にでも出来ると言い張る第一次成長期の子供と何ら変わらない態度振る舞い。

 しかし、それを観戦するクィクィからしてみれば、それはそれで見ごたえのある劇である。自身より格下の同胞が自身より格上である共通の敵に対して真っ向から手練手管を駆使して挑もうとするのは、興味関心を掻き立てる創作物の様な興奮を与えてくれるのだ。況してや、紙面の上では無く直接的な視界の先。五感全てでそれを味わえるのだから、その興奮度合いは一層だろう。


 ……う~ん……やっぱり、そんなもんだよねぇ。


 やれやれ、という溜息が微かに漏れて聞こえてきそうな声色と口調で以て、クィクィは心中に吐露する。緋黄色の瞳で静かに見据える先には、目に見えて苦戦している同胞が二柱と敵が一柱。余程の素人でも決して見誤る筈も無い、と確信出来る程に明白なそれは、だからこそクィクィの視座にとってみれば尚の事だった。

 幾ら長年共に歩んできている同胞とは雖も到底擁護し切れない程のそれを前にして、最早なんと言葉を掛けてあげれば良いかが分からなかった。勿論、声を掛けただけで状況が好転する筈も無いし、するのならとっくにしているのだから、だからと言って特別落胆する事は無かったのだが。

 とはいえ、予想通り過ぎるこの状況を前にして、それでも尚落胆の感情が隠し切れなかったのは事実だった。実力差を考えれば十分及第点だし、寧ろ上出来だと賞賛してあげるべき成果だが、それでもその感情を隠す事は不可能だった。


 やっぱり、ボクも出てあげるしかないかな、この感じだと。


 それでも、仕方無いなぁ、とばかりに微笑む彼女のの心情は、決して落胆でも無ければ失望でも無ければ、健気に頑張る若手を可愛がる感情であり、宛ら親心にも似た微笑ましい感情だった。

 実際、クィクィとヴェネーノ達とではかなり大きな世代の差が存在する。見た目こそクィクィの方が遥かに幼いし、人間的価値観による外見年齢に照らし合わせれば、年の離れた兄妹というか、叔父と姪の関係に近い。だが、抑として神の子はその特性上から見た目年齢が基本的に変化しない事もあり、実際の所は全く以て正反対なのが真相である。

 その為如何しても歪な関係に見えてしまう。本能的にそれを知っている神の子同士であればそんな違和感は起きないのだが、此処がヒトの子の生活領域であるという事もあってか、少々その歪さが浮き彫りになっている様だった。

 そうして、クィクィは重い腰を上げる。足を組んで仰々しい態度で戦いを観戦した儘でいたかったが、それはそれでサボっている様にしか見えない為、覚悟を決めなければならない。一応、スクーデリアから此方側の戦いを任されているのだ。任されてる以上、それを放棄する訳にはいかない。悪魔は契約に基づいて役割を遂行する種族なのだ、幾ら今回が単なる口約束だとは言っても、それを放棄するのは余り良い気分では無いだろう。

 その儘、クィクィは微かに浮かび上がる。魂から魔力を産生し、それを全身に纏わせ、戦いを前にした高揚感をより一層昂らせる。

 後首部で細く長く纏めた緋黄色の髪を風に靡かせ、同色の瞳を燦然と輝かせる。雪の様に繊細で眩い細い四肢を軽く動かし、太陽の下で撓やかに伸ばす。それは一見して純朴な子供。背も低い上に骨格的にも幼い事もあり、とてもヴェネーノ達を子ども扱い出来る程の年長者には見えなかった。

次回、第482話は3/12公開予定です。

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