表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
480/511

第480話:ラムエルとクィクィ

 足を組み、頬杖を突き乍ら、彼女は暢気にそう呟いた。生欠伸を一つ添え、死と隣り合わせを強要される殺伐としたこの環境とは全く以て正反対な雰囲気を身に纏い、彼女は悠々と過ごす。宛らテーマパークに来た子供の様であり、部分的に切り取ればまさか此処が戦場だとは誰が疑えられるだろうか?

 少なくとも、当事者としてこの場に居合わせている者でなければ、それは不可能だろう。或いは、当事者としてこの場に居合わせていたとしても、場合によってはそう勘違いしてしまい兼ねない程には、彼女が身に纏う雰囲気は異様だった。

 一方、そんな彼女に見られているとは露とも知らない当事者たるヴェネーノ及びワインボルトは、自身らより遥かに強大な存在である智天使級天使ラムエルを相手に、如何にか尤もらしい戦いを繰り広げていた。

 実力的不利と相性的不利。それを如何にか数的有利だけで補う彼らの姿は、正に決死の態度振る舞いだろう。一歩間違えれば、或いはそうでなくとも、彼らにとって死は眼鼻の先のものとして捉えられる。

 死神が今正にでも手招きして死へ誘おうとしているのが、彼らの脳裏に何度も何度も過ぎる。神は絶対唯一の一柱しか存在しない、と本能レベルで知ってはいるものの、思わず信じ込んでしまいたくなるくらいには、それは鮮明に写っていた。

 一方、そんな彼らを相手にする天使ラムエルは、決して負ける気はしないものの、中々決定打になる一撃を与えられずに悶々といた気分を募らせていた。それは、腹立たしい程に小賢しく、面白い程に滑稽なもの。自分にも相手にも言える事だが、とても神龍大戦の延長線上の抗争とは思えない程に、それは限りなく茶番劇に等しかった。

 しかし、何時迄もこんな事を続けている訳にはいかない。抑として、この戦いは決してメインディッシュではない。此方では無く、アルピナやアウロラエルがいる彼方側の方が、このサバト内は疎か今回の一連の抗争に於けるメインディッシュなのだ。

 その為、なればこそ、こんなくだらない端役的な戦いなどに長い時間を掛けてはいられない。メインディッシュたる彼方側の戦いを手助けする為、或いは盛り上げる為にも、少しでも早く彼方側に合流するのが適切だった。

 その為、ラムエルは、自身が相手より実力的にも祖茂祖としての階級的にも上位である事を活かし、ヴェネーノ及びワインボルトとの闘いに終止符を打とうとする。

 幸いにして、神の子の不死性は魂に対してのみ作用するのであり、肉体はヒトの子より幾分か頑丈なだけである、その為、上下関係的な差を駆使すれば、そう遠くない未来の内に、戦いは自然と終止を迎える筈だった。

 しかし、幸か不幸か、環境要因の都合もあり、聖眼が魔眼と異なり正常に機能してしまう。そして、機能してしまうからこそ、それが悪い方向へと作用してしまう。

 それこそ、つまり、クィクィの存在。悪魔が魔眼を上手く使えない様に、この状況下に於いて聖眼が機能しなかったら決して見えなかった存在。自分達の戦いに対して高みの見物を決め込む彼女の姿が、彼女の聖眼にハッキリと映し出されてしまったのだ。尤も、距離や位置関係の都合から、肉眼でも普通に見えるのだが。

 此方から彼方が見えるという事は、即ち彼方から此方もまた同様に見えるという事。そして、見えたからには無視する訳にはいかない。

 確かに、種族的にみて、相性はラムエルの方が上。年齢的に見ても、階級はラムエルの方が上。つまり、単純な総合力で比較すれば、ラムエルの方が上である。

 しかし、ことクィクィが比較対象ともなれば、特別話が変わってしまう。確かに、クィクィは、天使で換算すると座天使級天使と同等。そこに相性差も加わるのだから、普通に考えればその実力関係は非常に単純である。

 だが、クィクィは特別なのだ。才能は勿論そうだし、穏健派ではなく武闘派に属する性格特性なのも大きい。加えて、彼女は生まれた時からアルピナやスクーデリアと行動を共にしており、それ何処か当時の悪魔公や皇龍とも非常に関りが深く、極めて仲も良い。

 そして、そこへアルピナとジルニアのくだらない小競り合いをスクーデリアと共に制止していた経験も合わさる事で、彼女の実力は純粋な年齢や階級以上の高みへと押し上げられていた。

 それは最早、智天使級天使の中でも最古に近いラムエルでさえ、到底無視出来無い程。それ処か、上回っているかもしれない始末。決して油断や慢心を抱いたまま戦える相手ではなく、況してや他の悪魔と戦い乍らのへ移行作業などまっぴらごめんだった。

 だからこそ、ヴェネーノ及びワインボルトとの闘いとクィクィとの戦いの二つを、如何にかして切り離したかった。何方か一方に注力すればまだ可能性は無きにしも非ずだろうが、確実性の向上の為にも、それは最優先課題だった。

 チラチラ、とラムエルはクィクィがいる方を見る。肉眼と聖眼の両方で誅殺し、如何なる微細な反応にも対応出来る様に、その全てを捉える。環境要因にも勿論の事気を配る事で、最大減の勝機を手繰り寄せようと必死になって藻掻くのだった。

次回、第481話は3/11公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ