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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第478話:睨み合い

 一方その頃、そんなスクーデリア達の注目の的となっているアルピナ達はというと、取り分け変わり映えも無く相対し続けていた。他愛の無い雑談を交えつつ、互いの出方を窺う様に瞳を輝かせ、周囲に漂う戦いの香りから独立した奇妙な空気を生み出していた。

 片や、悪魔。片や、人間。外見的差異が一切存在しない異種族という事に表向きはなっている彼女達。しかし、それでいて、彼女らから漂う並々ならぬ空気感は、決して彼女らが同一種族では無いと誰もが口を揃えてしまいたくなるもの。

 一体、何が彼女らを此処迄空恐ろしいものへと変質させてしまうのか、それは誰の口にも言語化出来無い。只不思議と、そんな気がしてしまうだけである。

 況してや、エフェメラは聖職者という建前こそあるものの本質的には只単なる人間として世間では通っている。決して、アルピナが魔王と世間一般から恐れられている様に、非人間的存在だと思われている訳では無い。

 それは、この状況に半ば巻き込まれる形で相席しているクオンも認める所。彼は、元々只の人間として生活していた事もあり、また仕事の兼ね合いで国家の枢要とそれなりに緊密だった事もあり、エフェメラの事は昔から認識している。直接面識があった訳では無いが、互いにその存在を把握している程度の付き合いはあった。

 その為、彼女が人間として人間社会に存在していた事に対して、彼は何ら疑問や不信は持たない。事実としてそうだったのだから、今更それを否定されても如何しようも無い。実際に目で見て耳で聞いた以上、それを覆すのは並大抵の事では不可能である。

 しかし、同時に、こうして天使の企みに対して都合良く関わっている事もまた、事実としてクオンの瞳には映っている。

 勿論、四騎士という立場だったり、天使を信仰の対象とする宗教の頂点という位置付けだったり、そういった柵が存在する以上、こう都合良く関わる事もまた当たり前だと断じる事だって出来る。それでも、このサバトに於ける今の所の成り行きを考慮すれば、些か都合が良過ぎるというか裏がある様にしか感じられないのだ。


「如何切り抜けた、と尋ねられましても、私としても如何答えたら良いか……」


 冷徹な瞳で魂を見透かす様に睥睨するアルピナに対して、そんな事などまるで意に介さないとばかりな朗らかさを発揮する。先程から如何押し問答しても答えが一向に変わる気配は無く、まるでアルピナを弄んでいるかの様。とても聖職者らしいとはいえない程の聞く力の無さであり、寧ろ清々しさすら感じられてしまう。


 やれやれ、埒が明かないか……面倒な事だ。やはり、力尽くで如何にかするべきか……?


 飄々とした態度振る舞いに対して明白な苛立ちを募らせるアルピナは、心中で溜息を零しつつ心情を吐露する。それは、何時もの彼女らしくない消極的な態度であり、何処か尻込みしているかの様でもある。悪魔としての威厳云々という話では無く、彼女自身の本質に関わる何かが、まるで魚の小骨の様に喉に刺さっていた。

 だからこそ、そんな異常事態に対して、クオンは如何する事も出来無いもどかしさと共に困惑の色を顔面に貼付する。これ迄の短くも濃密な旅路に於いて一度も見かける事が無かったその態度振る舞いに対して、今現在彼が持ち得る知識と経験では対処の方法がまるで見当つかなかったのだ。

 いや、寧ろ、何もしない方が良い迄あった。何もせず只単なる静観者として立ち尽くしておいた方が良い様な気さえしていたのだ。アルピナとは疎か、神の子という種族自体此処最近初めて会ったばかりだし、当然何一つ知識や経験など持ち合わせていない筈なのだが、彼の魂がそれを無意識の内に思考へ刻み込んでくれていた。

 輪廻及び転生の理に則る限り、魂は一世一代の記憶しか刻まれず、輪廻及び転生の度に、その魂に刻まれた個としての特徴は全て白紙に戻されるのが原則。神の子が辿る復活の理とは異なるその原理原則により、クオンの魂に刻まれた記憶は全てクオンのもののみであり、前世や前前世やその前といった過去の記憶は残っていない筈。

 また、加えて、仮令それが何らかの不手際で残っていたとしても、神の子と直接的且つ相互認識上の関りが無い限り、そんな知識や経験が魂に刻まれる筈は有り得無い。

 だからこそ、クオンはふとそれが義民として脳裏を過ぎった。今この状況に置いては何ら必要としない無駄な疑問であるが、しかし不思議と強く心にしがみついてしまい中々離れなかった。まるで今この場面を楽しんでいる童の様な、そんなしつこさだった。

 とはいえ、何時迄もそれに気を取られている訳にはいかない。エフェメラ・イラーフという得体の知れず掴み何処の無い不思議な聖職者が眼前にいて、あのアルピナが並々ならぬ執着を見せているのだ。レインザードでチラリと見かけた時からそうだったが、だからこそ、クオンとしても、決して油断や慢心や余所見をしていられる余裕など何処にも存在していなかった。

次回、第479話は3/7公開予定です。

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