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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第477話:其々の行動へ

 その為スクーデリアもクィクィも、其々互いに目配せをして己の言いたい事を伝える。長い長い時を共に歩み続けてきた間柄なのだ。今更事細かに言語で伝える必要は何処にも無かった。互いの事を誰よりも深く知っているからこそ、それに反比例する様に誰よりも直接的交わりは少なかった。

 とはいえ、この儘何も言わず黙々と作業に移ってしまうのは、少々味気ない幕引きの様に感じられてしまう。何より、他者の心に寄り添う悪魔という種族的特性があるからこそ、仮令不要とは雖も言語的な交わりは無意識の内に欲してしまう。だからこそ、彼女らは、そんな無言の頷きで共有された意思を照らし合わせるかの様に、穏やかに会話を弾ませる。


「それじゃあ、私達も私達で、其々行動に移すとしましょう」


「そうだね。こっちの事はボクに任せて、スクーデリアお姉ちゃんはあっちの事御願いね」


 バイバイ、と一時の別れを惜しむかの様に、しかしそれでいて欠片程の悲しみを感じさせない明朗な態度振る舞いで、クィクィはスクーデリアの許から離れていく。それは、決して大事には至らないであろう、というスクーデリアに対する圧倒的な信頼の表れであり、同時に自分もまたそんな悲惨な目には合わないという絶対的な自信によって土台されている結果。稚さと幼さの背後を支える彼女の強大な自我と自信は、何時如何なる時も輝きを失わない太陽の様に眩く輝いていた。

 そして、そんな彼女の背中を静かに見守るスクーデリアは、彼女に対して並々ならぬ愛情と信頼を抱く。それは、単なる同族としての垣根を超え、替えの効かない唯一無二の大親友としての壁を越え、少なくともヒトの子では決して想像する事の能わない深い紐帯で結ばれているかの様でもあった。

 幾星霜の彼方より間歇的に繰り広げられていた悪魔公と皇龍の小競り合いと言う名の戯れ合いに巻き込まれつつも制止し続けてきた、という特殊な過去が織り成すその情は、この様な殺伐とした状況だからこそ、敢えて強く輝くのかも知れない。真相は誰にも分からないが、少なくとも彼女達の魂は、彼女達の無意識領域にそれを吐露していた。

 軈て、クィクィの姿形が肉眼では捉えられない所迄消えたのを確認した後、スクーデリアもまた漸く動き出す。やれやれ、とばかりに小さく息を吐き零し、少し離れた場所から放たれる猛烈な殺気を捉える。

 それは、彼女が誰よりも深く長い友情を紡いできた幼馴染から零れるもの。クィクィとの付き合いよりも遥かに長いそれは、仮令何者であろうとも決して侵してはならない神聖なものへと昇華されてさえいるだろう。

 尤も、彼女自身としてはそんなに崇高なものではないと思っているが、しかし客観的にはそう見えてしまう。時間という神でさえ逆らう事の能わない絶対的な基準がそこに土台している限り、それは決して覆せないのだ。


「私も急がなければならないわね。アルピナが無茶をしていなければ良いのだけれど……」


 スクーデリアが向かわなければならないのは、アルピナとエフェメラが対面している箇所。正確に言えば、アルピナとエフェメラが対面しているというその場面。場面こそが肝要であり、場所はこの際如何でも良かった。

 加えて、そこにはクオンも一緒にいる。恐らくアルピナが連れて行ったのだろう、とスクーデリアは予想しているが、だからこそ、警戒すべきなのだ。アルピナが一緒にいる以上大事には至らないだろう、という信頼こそしているものの、一度天使に攫われた手前、一切合切を安全だと慢心する訳にはいかないのだ。

 また、何より、アウロラエルもそこへ向かっている様子。抑、アウロラエルは、その正体こそ天使長の側近という立場を有しているが、人間社会で活動する上での表向きの立場は、国教の主席枢機卿。詰まる所、天巫女の側近という事。その為、仮令彼女が天使長の側近という立場でその場に合流しようとも、国境の主席枢機卿という立場で合流しようとも、何方にせよ事態をややこしくさせる要因にしかなり得ない。

 だからこそ、少しでもアルピナの負担を軽くする為にも、スクーデリアはそこへ赴かなければならなかった。クオンを護りつつのそれは流石の彼女にも荷が重いだろうし、抑として悪魔は天使に対して相性的に不利である。それを加味しても、スクーデリアがそこへ行く価値は十分あるだろう。

 或いは、心の奥底では、この状況を楽しんでいる節があるのかも知れない。悪魔公代行として、同時に悪魔公アルピナの幼馴染として、スクーデリアはこの天使-悪魔間の抗争に関わる殆ど全てを知っている。それこそ、対立の根本的主格である天使長セツナエルでさえ知らない事も、彼女は知っている。

 だからこそ、果たしてこの対立構造がどの様な転換を遂げ、どの様な終局へと向かっていくのか、それを知りたいという好奇心が、彼女の心にしつこく絡み付いているのだ。人的物的損害が生じている手前、決して褒められるべき好奇心では無いかも知れない。しかし、それでも、常日頃冷静沈着な彼女にしては、思わず瞠目してしまう様な好奇心だった。

 そして、彼女は素早く、それでいて優雅に、アルピナの元へと向かっていく。物語の結末をその目で捉えられる様に、一切の取り零しも見逃しも怒らない様に、彼女は改めて気を引き締めつつ、抗争の根幹へと足を踏み入れるのだった。

次回、第478話は3/6公開予定です。

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