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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第472話:目的との対面

「今からが?」


 アルピナの思っている所、即ちこれから待ち受けている事が果たして何なのか? クオンにはイマイチ理解が及ばない。全く以て予想が付かないという程に困惑している訳では無く、朧気に何か脅威が待ち受けている事だけは理解出来ている。それでも、未だ確信を得るには何かとパズルのピースが不足している様だった。

 故に、今現在のクオンの心中はというと、得体の知れない不気味な恐怖に舐められているかの様な恐怖がこびり付いていた。背筋も凍り付く様なそれは、純粋に天使と正面から剣を交えている時とはまた異なるベクトルの脅威。何方かと言えば、此方の方がその正体が分からない分、一層の底知れなさに土台された恐怖が憎悪してさえある始末だった。


「なに、行けば分かる。今迄ワタシ達が君に隠していた事も、これから打ち明けようとしていた事も、そして過去も現在も未来も、その全てが、この先に待ち受けている」


 躁発言するアルピナの瞳を、クオンは改めて目に捉える。女性型の人間のとしてはそれなりに小柄であり、未成年の少女と言われても遜色無い彼女を見下ろす様に、彼はその琥珀色の瞳を宛ら日輪の様に輝かせる。

 そんな眼差しに映る彼女は、しかし何時もの彼女と一見して何ら変わりない。寧ろ、普段より何処と無く大人しい様な気さえする。それ程迄にこの先に待ち受ける目的のそれが警戒すべきものなのだろうか? そう思ってしまいたくなる様な態度振る舞いだった。

 だが、同時に、そんな空恐ろしい態度振る舞いの背後には、極微かだが穏やかな期待が隠されている様だった。よく見ないと分からない、或いはよく見ても大抵見逃してしまいそうな程に上手く隠されている。

 それは、普段の彼女から決して窺う事の出来無い優しさ。彼女と同じ神の子は疎か、種族的な本質として比較的穏やかで弱々しいとされるヒトの子からすらも中々見る事が出来無い程の慈愛の感情。当然、クオンにとっては初めて目にする彼女の態度振る舞いだった。

 だからこそ、それはこの先に待ち受けている事物よりも、余程空恐ろしい代物。あのアルピナがこんな顔をするなんて、という驚愕が彼の思考を駆け巡り、真面な感情が立ち処に何処かへと吹き飛んでしまう。

 果たして、これが何に由来するのか? 当然、何も分からない。只でさえ、この天使-悪魔間の対立に関わる諸々に背景因子を理解し切れていないのだ。その上で、彼女は彼に対して様々な隠し事をしている。個人因子レベルは勿論の事、悪魔という種族単位に於ける話、そして神の子という根本的な大枠に於ける話に至る迄、それは非常に幅広い。

 寧ろ、知っている事よりも知らない事の方が多い迄ある。尤も、ヒトの子は疎か人間レベルの文化文明であっても、クオンは知っている事よりも知らない事の方が遥かに多い。況してやそれより長大な歴史を持つ神の子に関わる事を正確精密に知っている筈も無いだろう。若し知っていたら、今頃こんな苦労はしていないし、アルピナ達だって初めから隠し事をしたりなんかしないだろう。

 そいういう訳で、クオンはアルピナの発言の裏に隠されたそんな態度振る舞いを前にして、何を言ってよいのか分からなくなる。それ処か、彼女が今正に何を言ったのかさえ良く分からなくなってしまった。ただ漠然と彼女の口が動いた事しか覚えておらず、彼女の底知れない本心を前にして、深淵の淵に飲み込まれたかの如き混沌に苛まれる事となってしまっていた。


「え……あ、あぁ……」


 クオンは、言葉に成らない声を上げて如何にかそれを誤魔化す。別に隠し通す必要がある間柄ではないし、何より何を如何隠した所で彼女には全て筒抜けにされてしまうのだから、今更それはそこ迄重要では無かった。

 それよりも、それ以上の事が漸く彼の前に到来した。アルピナが望み、警戒し、今正にこうして出向いた目的が、こうしてクオンの視線の範囲に到来したのだ。


「あら、無事に地上にでられたのですね、魔王アルピナさん?」


 穏やかな口調と声色でアルピナに呼びかけたのは、只の人間。暁闇色と黄昏色が入り混じった髪を結い、猫の様に大きくやや垂れ下がった茜色の瞳を輝かせ、純白の法衣を纏った彼女、即ち天巫女と呼ばれるこの国の宗教における最高権威者エフェメラ・イラーフが、穏やかで平和的な雰囲気をその儘にそこに立っていたのだ。

 それは、とても戦場の直中にいるとはとても思えない程に穏やかで御淑やか。宛ら教会の中で宗教的拠り所である天使に対して祈りを捧げているかの如き雰囲気であり、寧ろ空中を漂いこのピリ付いた緊張感の方が場違いな気さえする程。

 やはり、聖職者というのは特別存在。そう再認識させられてしまいそうな光景。クオンは人間的価値観に於いては神や天使と言った宗教的存在の実在性を余り認めていない為、だからこそ倒錯的にその異質感には本物感を見出してしまいそうにある。勿論、こうして神の子を知った今となっては、そんな感情も全てチグハグになってしまい、自分でも何をそこに見出しているのか良く分からなくなっているのが現状だったりするのだが。

次回、第473話は2/28公開予定です。

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