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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第471話:不安と心配

 とはいえ、どれだけ心配した所で、クオンに出来る事などたかが知れている。それ処か、クオンに出来る事はヴェネーノにもワインボルトにも出来る事である。

 片やヒトの子、片や神の子。仮令どれだけ彼が悪魔と龍の力を同時に行使出来ようとも、どれだけ上位階級の悪魔と複数同時に契約を結ぼうとも、根本的な立場がまるで異なる。経験も、実力も、思考も、立場も、それ処か本質も、凡ゆる事物に於いて、クオンは今尚大きく劣っている。

 そんな彼が不安と同情に由来する心と視線を向けようなどと、烏滸がましいにも程がある。それこそ、赤子が老人に人生の意義を教え諭すかの如き歪さであり、寧ろ一周回った初々しさすら感じてしまう程。

 その為、クオンは、そうしてアルピナに問い掛けつつも、同時にそう問い掛けた事を後悔する。俺が利く様な事じゃなかったな、とばかりに心中で苦笑し、今直ぐにでもその問い掛けを口腔に巻き戻したくなる。

 しかし、一度口から出た言葉は、如何なる手技を用いても戻す事は出来無い。それは、万物普遍の原理であり、時の流れに逆らうかの如き無謀である。神の子だろうがヒトの子だろうが、それ処か仮令神であろうとも覆す事の能わない、絶対の理なのだ。


「君がそれを心配するのか、クオン?」


 当然とも言うべきか、アルピナはクオンに問い返す。ヒトの子が神の子を心配する、という前代未聞の光景を前にして、アルピナの悪戯心が黙っていられる筈も無かったのだ。

 とはいえ、確かに、クオンがそう心配してしまう理由もまたアルピナには理解出来る。幾ら彼がヒトの子とは言え、神の子とつるむ様になってそれなりに時間が経過しているのだ。そうなれば、ある程度神の子同士の実力差だったり相性差だったりその他関係性というのも思ずと理解出来る様になってくる。

 今回だって、ヴェネーノとワインボルトが挑む敵が雑多な天使だったら、クオンも此処迄心配心を膨らませる事は無かっただろう。幾らワインボルトとは今回が初対面であり、本質として悪魔は天使に対して相性上不利だとは雖も、此処迄散々天使と悪魔の魂を見てきたのだから、自然と力関係や凡その結果というのも想像が付いてくる。

 しかし、今現在ヴェネーノとワインボルトが戦う事となった相手は、他でも無い智天使級天使。熾天使級天使が常に一柱しか存在しない事を考慮すれば、最上位階級と言っても過言では無い存在。

 それに対して、ヴェネーノとワインボルトは、共に伯爵級悪魔。しかも、その中でも限り無く若手であり、彼ら以降に生まれた者は漏れなく子爵級以下に区分されている程。あのセナやエルバ、アルテアよりも若いのだ。

 これは天使でいうなれば、精々力天使級か能天使級と言った所であり、詰まる所中位三隊に属する階級。逆立ちしても敵う筈の無い格差であり、蟻が恐竜に勝てない様なものである。

 だからこそ、やれやれ、とばかりにアルピナは苦笑する。クオンの心配心を嘲笑うかの様に、或いはそんな重たい心情を杞憂だと吹き飛ばす様に。何れにせよ、アルピナの視座では、クオンが思っている程この状況は危機的状況だとは言い切れない様だった。


「君の気持は分からないでもない。彼我の実力差とこれ迄君が得た知識とを鑑みれば、先ず間違い無く勝てる戦いではない事は明白だからな。」


「だったら——」


「君は知らないだけだ。ヴェネーノとワインボルト、あの二柱はそこ迄軟な悪魔ではない。神龍大戦を無事に生き残った実力は決して伊達ではないという事が、何れ分かるだろう」


 それに、とアルピナは付け加える。その声色と口調は非常に真面目な代物であり、今の今迄彼女が身に纏っていた余裕や遊び心は何処にも感じられない。それ処か、クオンが彼女と初めて会ってから今この瞬間に至る迄の全ての時間に於いて、未だ嘗てクオンが見た事も聞いた事も無い様な、そんな冷たさを内包していた。


「そうして余所に意識を向けていられる程、此方としても余裕が無い。何せ、今からが此方としての正念場なのだからな」


 冷徹な眼差しを傲慢に輝かせ、アルピナは黙々と歩いていく。その背中は非常に昂っており、改めて彼女が人間ではない事がありありと伝わってくる。それ程迄に、彼女は並々ならぬ覚悟を滾らせており、だからこそクオンもそれに引き摺られる様に気を引き締める。

 一体この先に何が待ち受けているのか、クオンには分からなかった。ラムエルとの戦いよりも優先すべき物事が果たして何なのか、確信が持てなかった。

 きっと、天使-悪魔間の対立の根幹を決める程のものなのだろうか? 智天使級天使をも超える何かともなれば、それは最早そういった根本的且つ本質的な問題へと考えを移行しなければならなかった。憖、普段飄々としている彼女がこれだけ意識を研ぎ澄ませているだけに、これが余程の事態である事だけは確実だった。

 クオンの額に冷汗が滲む。悪魔と契約を結び、神の事関わりを持ち、天使と戦う様になってからというものの、価値観や認識や感覚が神の子に近くなったのだろうか? 只の人間だった頃には知覚出来無かった緊張の糸が、今やはっきりと近く出来る様になった気さえしてくる始末だった。

次回、第472話は2/27公開予定です。

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