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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第470話:連携と提案

「確かに、幾ら魔眼が機能しないとはいえ、ワタシなら一柱でもラムエルには勝てるだろう。しかし、それでは意味がない。この先、もう間も無く、間違い無く大きな戦いが待ち控えている。その時、君達が無事でいられる保証は無い。神龍大戦こそ辛うじて君達だけは守れたが、今度ばかりはそうとも言い切れない。ワタシやスクーデリアなら自分で自分を護る事は造作も無いが、相手次第ではワタシ達以外魂諸共全滅する可能性だって十分有り得るだろう」


 故に、とアルピナは改めて息を大きく吐き零す。そして、瞳を輝かせ、意地悪な微笑を携え、魂を穿つかの如き最上位悪魔としての威厳を容赦無く差し込む。


「ヴェネーノ、ワインボルト。ラムエルの相手は君達だけでしてみると良い。幸いにして君達は幼馴染にして友人同士。連携も取り易いだろう」


 アルピナの提案。それは、真っ当な様でハッキリ言って異常。とても、この場を取り仕切るリーダーととして命じるべき指示では無い。それ処か、徒に死者を増やすだけでしかない悪手。幾ら魂が無事な限り時間さえ掛ければ復活が可能とはいえ、大事な最終局面の直前の戦いで行うべき采配では無いだろう。

 その為、ヴェネーノもワインボルトも、其々同時に目を見開いて困惑する。アルピナの事だからそういう無茶な命令が下されても不思議ではない、とは心の片隅で薄々と感じてはいたものの、実際にそれがお出しされるとなると、やはり動揺は隠せない。

 況してや、此方や伯爵級悪魔であるのに対して、彼方は智天使級天使。これ迄生きてきた時間だって、凡そ100倍近い差がある。只でさえ相性的に不利なのだから、幾ら連携を取って共闘できるとはいえ、到底勝てる戦いだとは思えない。


「アルピナ、それは流石に無茶な提案だ。幾ら俺とヴェネーノとが連携を取り易い間柄だとは言っても、覆せる実力差には限度がある。それは、お前が一番分かっている事だろ?」


 葡萄酒色の髪を微かに戦がせ、同色の瞳を仄暗く灯らせ、鉛色の感情でアルピナの言葉に反論する。魂と魂が静かに衝突し合い、互いに一歩も引かない意地と意地のぶつかり合いによる意思の押し付け合いが繰り広げられていた。

 幾ら相手が悪魔公とはいえ、それだけは譲れなかった。自分やヴェネーノの命が絶対優先な程自己愛に長けている訳では無いが、しかしだからといって徒に命を投げ捨てられる程に自己嫌悪に染まっている訳でも無い。あくまでも一個体として本来有すべき必要最低限の生存本能に基づいて行われた基本的反駁だった。

 その為、勿論、アルピナもまたヴェネーノからそんな反駁が来ることは百も承知。寧ろ、来ない筈が無いとさえ考えていた。若し、こうした反駁や或いは反論が一欠片たりとも帰ってこないのだとしたら、それはそれで不安になってしまう。己の命を消耗品として擲てるだけの覚悟を決めなければならない状況に何時追い遣られてしまったのだ、という不安と心配心が、沸々と湧いて出て来るであろう。

 だからこそ、まるで場違いな様に、アルピナの相好は何処か柔らかに、予想通り過ぎる反駁に対して、それとなく面白さを感じていた。何が面白いのかは彼女自身良く分かっていないが、恐らく悪魔公という階級に跪いて唯々諾々と命令を聞き入れる様な仲間ではなかった事に対する微かな安堵もそこには込められていたのかも知れない。


「ワタシはそうは思わないがな。君達の実力はワタシも高く買っている。確かに、一柱一柱では穏健な智天使級天使は疎か穏健な座天使級天使にすら敵わないだろう。しかし、これ迄もそうして手を取り合う事で数々の危機を脱してきた。それもまた事実だ。今回だって、それが出来無い道理は無い」


 それに、とアルピナは一言付け加える。本当は言う積もりは無かったのだが、余りにも不安げな顔色と相好を崩さないものだから、仕方無しの判断だった。余りにも心が弱々しくなり、それが却って本来のパフォーマンス発揮を阻害する様なら、寧ろ本末転倒だろう。だからこその判断だった。


「若しもとなればスクーデリアとクィクィを呼び寄せれば良い。暫くは、ワタシやクオンと共にこの場を離れているが、あの二人なら、少しばかりは此方にも手を貸せるだろう」


 では宜しく頑張ってくれ、とアルピナhヴェネーノ及びワインボルトに瀬を向ける。最早彼女の口からは何も言う事は無く、彼女の耳もまた何も聞く事は無い、とでもいいたげなそれは、持ち前の傲慢で自分勝手な性格が如実に反映されている例だった。場を共有する人間のクオンでさえ、何処か同情してしまう程には、それはかわいそうで理不尽な現場だった。


「良いのか、アルピナ?」


 思わず、クオンはアルピナに問い掛ける。琥珀色の瞳を不安げに輝かせ、人間としての価値観と中途半端な神の子関連知識を振り絞り、チラリとヴェネーノ及びワインボルトを軽く一瞥する。

 同情するには少々彼方の方が実力的にも経験的にも優れている為に失礼な気もするが、それでも同情せずにはいられなかった。憖、アルピナと常日頃の行動を共にし、契約を盾に理不尽に振り回され続けているからこそ、何処か心情的に思い当る節があったのかも知れない。

次回、第471話は2/26公開予定です。

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