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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第467話:戦闘の再開③

 そんな心理的背景は兎も角として、彼女が眼前の戦闘以上に他の事物へ意識を寄せている事は紛れも無い事実だった。戦闘に支障の無い様に、それでいてその見たいものを見逃さない様に、絶妙な意識バランスの許で、それは間断無く行われていた。

 彼女が見ていたものとは、ズバリ天巫女エフェメラ・イラーフの動向。一時的な協力関係の下、魔王基悪魔公アルピナと行動を共にしていた彼女は、今現在どこで何をしているのか? アルピナと離別する際、彼女は現れ出た天使シャフリエル達と〝お話〟をすると言っていたが、果たしてその真相は如何なものなのか?

 勿論、その場に居合わせていなかったアウロラエルにとってみれば、アルピナとエフェメラがそんな会話を為した事など知る由も無い。しかし、少なくとも、彼女が天使と対面して単独で何かを為そうとしている事だけは紛れも無い事実。

 だからこそ、アウロラエルは、エフェメラが為す一挙手一投足を、一欠片たりとも見逃さない様に、その聖眼を凝らす。彼女を彼女足らしめる緑白色ではなく、その天使としての力の根幹を成す金色に輝く瞳は燦然と輝くのだった。

 幸い、周囲一帯を満たす聖力の靄の直中に会っても、聖眼だけは正常に機能する。魔眼や龍眼や龍魔眼と異なり、互いに手を取り合って協力し合えるからこそ、寧ろ只普通に使うよりも使い易い迄ある始末だった。

 果たして、彼女がそこ迄してエフェメラの行動を把握しようとするのは、彼女が天使アウロラエルだからこそだろうか? それとも、枢機卿エール・デイブレイクだからこそだろうか? 一体何方の意識や建前を振り翳して、彼女はそれを為そうとしているのだろうか?

 しかし、それはスクーデリアやクィクィには分からない。確かに智天使級天使アウロラエルと枢機卿エール・デイブレイクという立場や見た目を見るなら相異なる存在だが、しかし同時に魂や色と言った本質を見るなら同一の存在でもあるのだ。その為、そういった細かな視座に於いて明確な差異を導き出す事は難しく、客観的に見て彼女が何方の自我を前面に出しているのかを把握する事は事実上困難なのだ。

 とはいえ、実際の所、何方でも正解であり、何方でも不正解であるのだ。確かに、スクーデリア及びクィクィと戦っている意識の上では彼女は智天使級天使アウロラエルなのだが、しかしエフェメラを見る意識の上ではアウロラエルとしての自我とエールとしての自我が両立している。より正確に言えば、明確な境界線が消失しつつあるのだ。

 その為、彼女の主観的視座に於いてでさえ、それを把握する事は事実上困難なのが実情である。とはいえ、最早この状況となってしまえば、彼女がアウロラエルであろうともエールであろうとも大した違いは無い。何方にせよやらなければならない事はやらなければならない事として存続するし、そうでない事はそうでない事として消失するのだ。


 ……まだ当面動き出しそうにはない……か。それとも、私とラムを待ってるのかな?


 チラリ、とアウロラエルはラムエルの方を見る。此処からでも分かるくらい、ラムエルは空間に干渉する聖法によって生み出した幻影巨体の中に潜んでアルピナ達を相手にしている。いや、正確に言えば彼方も彼方で大きな動きは見せていない様子。

 だが、別の場所で戦っていたヴェネーノがアルピナ達のいる方角へ動き始めたという事から、恐らくはその合流を待っているのだろう。一体何が如何なっているのかさっぱり分からないが、少なくとももう暫くは彼方戦いが終わる気配もまた無い事だけは確実だった。


「ねぇねぇ、さっきから意識があっちこっちしてるみたいだけどさ、もっとボク達との闘いに集中してくれないかな?」


 やや不貞腐れる様に、クィクィは言葉を漏らす。アルピナ程では無いとはいえ、彼女もまた戦う事は好きな性格。あくまでもヒトの子の方がもっと好きだからそれを楽しむために戦闘行為を控えているだけであり、ヒトの子という種族そのものに不可逆の被害が生じない上でそれが必要な戦いだったら、彼女がそれをとことん楽しむ。

 今回だって、この宗教施設跡地という限られた敷地範囲内だからこそ、これだけ好き勝手暴れているのだし、あくまでもレインザード攻防戦が例外的だっただけに過ぎない。あれは、自身がルシエルの天羽の楔に囚われていたという怒りの発散やそんな不手際を隠そうとしているだけなのだ。

 改めて、それは彼女が純粋な悪魔である事を再認識させられる瞬間でもある。人間で換算すると10代前半の様にしか見えないあどけなさと可愛らしさで全身を包み込み、人畜無害な小動物の如き人懐っこさがそのまま具現化したかの様な態度振る舞いからは想像出来無い様な内面性格である。

 尤も、今この場にいるのは、彼女の事を彼女が神界の生命の樹から産み落とされた瞬間から知っている者しかいない為、誰一柱として驚く事は無い。寧ろ、彼女持ち前の本質的な性格が表出した事言対して母親の如き微笑ましさすら感じている始末だった。

次回、第468話は2/21公開予定です。

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