表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
466/511

第466話:戦闘の再開②

 その為、彼女もまた、スクーデリアと同じ様に、肉眼による戦闘を強いられるこの状況には思考も肉体も追いついていなかった。


「もぅ、面倒臭いなぁ……」


 頬を膨らませて不貞腐れつつ、クィクィはアウロラエルとの戦いを継続する。魔力を魂から迸らせ、それを己の拳に纏わせ、小柄で可憐で稚い見た目にそぐわない肉弾戦を繰り広げようとする。

 クィクィは基本的に魔法の類が苦手なのだ。別に出来無い事は無いし、何ならヴェネーノやワインボルトやセナといった中堅世代より余程洗練されている。あくまでも、同世代と比較した上での苦手であり、只普通に過ごす上では何の支障も無い。

 また、彼女が有す彼女最大の武器は、他でも無いその驚異的な力なのだ。魔力による補強が無くとも龍と渡り合える程の力は、とてもその華奢な躯体から齎されるものとは思えない程の脅威。寧ろ、その見た目に囚われてしまうからこそ、龍と正面から殴り合うより余程脅威と成り得る。

 だからこそ、クィクィはそうして魔法や魔剣といった類の代物に頼る事無く己の拳で戦う事に対して、何ら抵抗を覚えていない。寧ろ、そんな自分に対して確固たる自信を抱いており、それこそが己を己足らしめる最大の長所だと自慢げにさえなっている始末だった。

 また、そんな彼女の力は、龍にも匹敵するからこそ、智天使級天使であるアウロラエルにとっても当然の脅威に脅威足りえる。仮令年齢や相対的な階級で比較すればアウロラエルの方がクィクィより格上だとしても、それは揺るぎようのない真実だった。

 元々、年齢や階級による実力の上下関係は、そこ迄厳格厳密ではない。努力や工夫や相性次第では多少なら逆転出来る。事実、アルピナとジルニアの小競り合いをクィクィが仲裁していたという過去があるのだから、今更それを疑う余地は存在しない。

 故に、アウロラエルとしても、こうしてクィクィが自身と互角に戦えている事に対して、何か思う所があったりする訳では無い。何なら、アルピナとジルニアの小競り合いを仲裁していたのだからこれ位はやってもらわないと拍子抜けでしかない、とさえ思っている始末だった。


「クッ……」


 とはいえ、幾ら相性上有利であり聖力による誤魔化しが作用しているとは雖も、アウロラエル一柱でこの二柱を相手取るのは無理が過ぎる。只でさえクィクィの力はアウロラエルであっても手に余るというのに、スクーデリアに関しては抑として格上なのだ。尚の事だろう。

 かと言って、周囲にいる他の天使の手を借りようにも、彼彼女らでは多勢に無勢が過ぎる。たかが中位三隊に属する彼彼女らでは、どれだけ群れようともスクーデリア及びクィクィに明確な損失を与える事は出来ず、寧ろアウロラエルにとっても邪魔になり兼ねない。

 その為、多少苦しくても、多少無理をしてでも、アウロラエルはこの状況を自力で打破しなければならなかった。ラムエルの力を借りたくなる自身の心に蓋をして、その代わりに彼女の無事を心中でひっそりと祈るだけだった。


「あら、先程から何を気にしているのかしら?」


 そんな折、スクーデリアがアウロラエルに問い掛ける。消せなくなった不閉の魔眼を眩い金色に輝かせ、アウロラエルの魂を捉えようと睥睨する。狼の様な妖艶さと氷の女王の如き冷徹さを醸し出し、柔らなウェーブを描く鈍色の長髪を静かに靡かせる。

 それはまるで、アウロラエルの全てを見透かしているかの様。この敷地一帯を満たす聖力の障壁によってそれは不可能な筈だが、不思議とそう思わせてくれる程に、彼女の瞳は鋭利だった。憖、彼女の魔眼が凡ゆる神の子の瞳の中で突出して強力だからこそ、そう感じさせられるのだろう。

 冷たい風が夜空の星々を掬い上げるかの様に、アウロラエルの魂は無意識に萎縮する。安全だと分かってい乍らも決してそうでは無い事を予知しているかの様であり、只でさえ少ない心の余裕が一気に消失するのを自覚した。

 しかし、だからと言って、それを馬鹿正直に打ち明ける訳にはいかない。確かにスクーデリアの魔眼を前にすれば凡ゆる秘匿が無意味になるのが神の子全体で共通する常識となりつつある。しかし、だからといってそう簡単に負けを認める訳にはいかない。今は平時では無いのだ。多少無理矢理でも意地と矜持だけは最後まで絶やすべきではない。


「ん~何の事かな?」


 やっぱり、スクーデリア卿には気付かれてるよねぇ……。


 表向きでは適当に誤魔化しつつ、心中ではそんな現状に溜息を零す。確かにわざとらしい誤魔化しであり、余りにも分かり易過ぎるだろう。その為、別にそこ迄悔しくはないし、特に支障は無い。それでも、スクーデリアの魔眼を出し抜けられないという現実には如何しても溜息が零れてしまう。

 それは、言ってしまえば、倒錯的な感心の様なものかも知れない。或いは、羨望によるものかも知れない。何方にせよ、ネガティブな感情よりもポジティブな感情の方が大きく前面的である事だけは事実だった。

次回、第467話は2/20公開予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ