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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第458話:地上へ②

 しかし、どれだけ焦っても、出来るものは出来るし出来無いものは出来無いのだ。それ処か、徒に焦ってばかりでは出来るものが出来無くなる可能性だって大いに秘めている。ともなれば、そんな如何しようも無い事に一々気を取られて焦るくらいなら、先ずは眼前の問題に注力するべきだろう、という考えを彼女は抱いていた。


「スクーデリア達は、未だ戦っている様だな。まったく、たかが天使を相手に何を苦戦しているのかは知らないが……」


 やれやれ、とばかりに、アルピナは溜息を零す。猫の様に大きな瞳を蒼玉色から金色へと染め替え、しかしこの状況下では全く役に立たない為、音と肌感覚で状況を読み取る。

 如何やら、スクーデリアもクィクィもヴェネーノも未だ天使達と戦っている様子。敷地内の彼方此方から轟音と振動が齎され、此処が平和と対極する戦場である事を窺わせてくれる。

 アルピナが地下に潜ってから、未だそれ程時間は経過していない。それこそ、十数分から数十分程度であり、少なくとも一時間未満である事は確実である。

 その為、別に戦いが終結していなくても、それは別に何ら可笑しな事ではない。其々誰を相手にしているのかは定かでは無いが、それでもこの短時間で必ずしも余裕を以て戦闘を終わらせられるとは限らない。スクーデリアこそ例外だろうが、クィクィとヴェネーノに関しては、彼彼女より格上の天使と戦っている可能性だって否めない。草創の108柱でもない彼彼女より古い世代の天使というのは、別に珍しくも何ともないのだ。

 実際、ラムエルだってその内の一柱である。彼女が生まれたのは、歴史が草創期から旧時代へと転換された頃。つまり、クィクィより遥かに年上である。それこそ、クィクィの年齢を5倍したってラムエルの足元にすら及ばない。

 だが、それでも小言を吐き零すのがアルピナである。傲慢で勝手気儘な彼女の性格は、そんな環境因子に対して盲目となるのだ。仮令相手が格上であろうとも、或いは格下であろうとも、彼女が思った事は彼女にとって絶対であり、強要こそしない迄もそうあれかしとはつい思ってしまうのだ。

 とはいえ、それは圧倒的な信用と信頼に土台された彼女なりの情である。彼女は友人であるスクーデリアやクィクィやヴェネーノの事を誰よりも深く信用し信頼している。だからこそ、倒錯的に、多少の無理難題を押し付けてしまうのだ。

 尤も、それは今に始まった事ではない。クオン処かヒトの子という種が生まれるより遥か以前、未だ天使も悪魔も龍も神界と蒼穹で仲良く暮らしていた頃から変わらない、彼女の本質である。その為、それによって誰かが不快を抱く事も無ければ不都合を押し付けられる事も無い。よくある日常の一ページとして、淡々と処理されるだけだった。


「まぁ、そう無理は言えないだろう。魔眼も使えないこの状況なんだ、一方的にならずに戦えているだけでも十分じゃないか? 少なくとも、ヴェネーノは相手次第では苦戦しているだろうな。俺だって同じ状況だったら苦戦させられるだろうし」


 無理難題を押し付ける様に溜息を零すアルピナに対して、ワインボルトはそれとなく咎める様に言葉を返す。数千年振り故にすっかり変わってしまった地上の景色に対して興味関心を見出しつつも、同時に彼は親友であるヴェネーノに対して同情の色を窺わせる。

 ヴェネーノとワインボルトが生まれたのは殆ど同時。数百年程度だけワインボルトの方が年上だが、しかし神の子全体の歴史で見れば、数百年程度は誤差に過ぎない。実際、千年単位で生まれた時期に差があるセナ——及びエルバ——とアルテアだって、対外的には幼馴染として通っているのだ。ともなれば、尚子の事だろう。

 そして、だからこそ、必然的に、ヴェネーノとワインボルトの実力やそれを土台する保有魔力量に関しても、大体同じという事になる。時間が力を底上げする性質上、それは如何しようも無い結果であり、疑いようのない事実でもある。

 故に、ついつい心配の声と相好で辺りを見渡してしまったのだ。生き残った数少ない同胞として以前の、純粋無垢な友情によって形成された、人間社会に根付く悪魔としてのステレオタイプから大きく逸脱した思い遣りだった。

 とはいえ、同時に、彼なら大丈夫だろう、という思いもまた同時に抱いてしまう。何かしらの根拠や客観性を伴う訳では無いが、単純な友人としての楽観的視座が無意識の内に生み出されていたのだった。


「ほぅ、他者の心配とはずいぶんな余裕だな、ワインボルト? それよりも、先ずは自分達の心配をした方が良いのではないか? 何せ、今から君が戦わなければならないのは、他でも無い智天使級天使ラムエルなのだからな」


 フッ、と悪戯色に染まった微笑を投げ掛けつつ、アルピナはワインボルトの態度を挑発する。それは決して悪意を以て行われている訳でも無ければ、かと言って考え無しに行われている訳では無い。彼女なりの不器用な心配心と忠告心の感情によって行われていたのだ

次回、第459話は2/8公開予定です。

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