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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
456/511

第456話:悪魔と天巫女の契約、そしてその対価②

「対価?」


 しかし、至って当たり前の事を聞いたつもりのクオンだったが、それに反してアルピナの返答は予想外なもの。まるでその質問の意味が理解出来無かったかの様に、彼女は只クオンの質問を鸚鵡返しにしただけだった。


「お前何時も言ってただろ? 悪魔の基本は契約と対価であり、対価無しで他者の願いや希望を叶える事は無いって」


 クオンは数か月前にアルピナと契約を結んだ。加えて、スクーデリアともクィクィともヴェネーノとも其々契約を結んでいる。その為、言い換えれば、悪魔達が挙って用いる契約と対価の関係性には人一倍詳しい立場とも言える。勿論、悪魔やその他神の子そのものに比べたら未だ無知寄りではあるものの、しかし自身にも深く関係する事だという事もあって、その認識や知識は只のヒトの子としては十分過ぎる程に備わっていた。

 だからこそ、アルピナが直ぐにその問に答えなかったのは、少々疑問を抱いてしまう。抑として、契約と対価の関係性やその内容に関しては、別に決して他者に対して公表してはならないという決まりは無い。若しそんなものがあれば、クオンが悪魔達と其々結んでいる契約の内容が他の悪魔やアルバートに知らされているという現実に矛盾が生じてしまう。

 だが、だからこそ、何故アルピナがまるで誤魔化す様にして彼の問いをはぐらかそうとしているのか、彼の心は敏感に反応した。或いは、別にはぐらかそうとしている訳では無いのかも知れない。彼女の性格を考えれば気紛れや冗談の一つや二つや三つや四つがあっても何ら不思議ではない。

 それでも、クオンの心中には、アルピナが決して嘘を付いていないという謎の信頼があった。この長くも短い濃密な旅路の中で形成された信用と信頼の関係がそれを土台しているのかも知れないが、何方にせよ何か裏がある事だけは確信していた。

 誤魔化すなよ、とでも言いたげな瞳を輝かせ乍ら、クオンはアルピナをその瞳で見据える。人間としては恐ろしく、しかし悪魔としては愛おしく感じる程度の覇気がそこには内包されており、アルピナの魂を面白可笑しく擽る。幾らクオンがこの対美辞の中で神の子の中間層に匹敵する程度の力を身に着けたとはいえ、所詮はその程度でしかないのだ。況してや、アルピナはその力の根本に位置する契約主。加えて、全悪魔を統括する悪魔公。流石のクオンでも、アルピナの心を威圧する事は出来無かったのだ。

 それでも、アルピナはその境遇上乃至性格上の理由から、それを無視する事は出来無い。クオンの魂がクオンとしてアルピナの前にこうして存在している限りは決して逃れられない宿命であり、それを仕組んだのが彼女自身であるからこそ、尚の事それに縛られざるを得なかったのだ。


「やれやれ、相変わらず君はそういう所だけは敏感だな。まぁ良い。ワタシはあの子と協力関係を結ぶ際、何ら契約を結んだりなどしていない。故に、何一つ対価を受けてもいなければ差し出してもいない。単なる口約束だ」


「口約束?」


 そんなまさか、という思いが、クオンの脳裏を満たす。クオンにとって、アルピナはそういった種族的な約束事には非常に五月蠅い質だと思っていた。実際、自身のこの特異な生活に関わる一切は全て契約に土台された円舞曲であるし、実は旅の合間のちょっとした約束事でも都度契約と対価を結ばされている。

 それ自体は別に決して嫌では無いし、多少面倒だと思う事はあっても、それが悪魔としての宿命なのだと思えば如何という事は無い。寧ろ、ちょっとした同情の思いすら浮かんでいた程だった。

 だからこそ、実際のその場面を見ていないとはいえ、アルピナが契約や対価を交わさない口約束だけの協力関係を結ぶとは思えなかった。それ相応の対価を支払わせて人間社会に楔を打ち込むのだろうという確信しか無かったのだ。


「あぁ、少々事情が重なっていてな。とはいえ、今の君ではその表面因子こそ考察出来たとしても、深奥の事情には到底触れる事すら能わない筈だ。考察するだけ徒労に終わるだろう」


「……それって、天巫女が天使を崇拝する宗教の最高権威者なのと関係があるのか?」


「表面的にはそういう事だ。しかしその背後の真相には気付く事が出来無いだろう? つまりは、そういういう事だ。とはいえ、何れ分かる。それこそ、ラムエルを大人しくさえしてしまえば、もう間も無くだろう。役者は全て揃っているのだからな」


 アルピナの瞳は妖しく輝き、その口元には冷たく猟奇的な笑みが溢れる。それは、この先に待ち受けるその深層が全て確信出来ているからこその代物であり、同時にそれが彼女にそれだけの感情を抱かせるに足る代物であることの証左でもあった。

 とはいえ、アルピナがこれだけの表情を表立って浮かべるという事は、それは即ち戦いの予兆であることは確実。それも、神の子三種族間で巻き起こされるそれなりに大きな戦いの前兆である。

 だからこそ、クオンは無意識に緊張の糸を張り詰める。未だその時ではないし、それよりも先ずはラムエルを如何にかしないといけないのだが、完全に無意識だった。ラムエルにすら勝てるか怪しいのにこの為体は完全な慢心でしか無いが、しかし良くも悪くもアルピナに全てを預けているという事でもあるのだろう。

次回、第457話は2/6公開予定です。

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