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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
455/511

第455話:悪魔と天巫女の契約、そしてその対価

「確かにそうだが……まぁ、良いか。やれるだけの事はやってやるさ。これ以上言い返した所で、お前が意見を翻す訳も無いだろうからな」


 さて、とばかりに、ワインボルトは意識を切り替える。何時迄もアルピナの態度振る舞いに溜息を零してばかりではいられない。そうこうしている間にも、状況は刻一刻と移ろいつつあるのだ。只でさえ敵が強いお陰もあって余裕の無い状況を強いられているのだ。これ以上徒に時間を浪費する訳にはいかないだろう。

 それに、地上がもう間も無く迄迫りつつある。クオンにとっては一日ぶり、ワインボルトにとっては数千年振りとなる地上の光なのだ。解放感に近い喜びや安堵の感情を抱かない筈は無い。

 尤も、星の下に生きるクオンにとっては有り難くもあり喜ばしくもある地上の光だが、ワインボルトに対してもそれが当てはまるかと言えば、実の所は決してそんな事は無い。

 ワインボルトは悪魔である。悪魔という事は神の子であり、つまり地界の生命では無い。ともなれば、当然、陽光に対しての基本的な耐性が備わっている筈も無く、寧ろそれは肌を焼く害悪としての側面が強く働いてしまう。

 事実、他の神の子と比較しても例外無く、ワインボルトの肌は雪の様に白い。これはつまり、日光に対しての備えが備わっていない事の表れであり、詰まる所日光に対しする有り難味や喜びとは対極の感情を抱かされる要因でもあった。

 それでも、アルピナ達を見れば分かる通り、魔力で身体を保護すれば、その程度は如何とでもなる。これ迄にも幾度と無く地界には降りてきたし、何なら魂の管理という業務の都合上から地界には如何しても降りなければならないのだ。

 だからこそ、それらを総じて勘案すれば、ワインボルトとしては地上の光など別に感情をゆらぶる要素には成らなかった。それに関しては、地下でアルピナと再会出来た瞬間に全て満たされ切った。だからこそ、残される憂慮と待ち侘びる感動は、ラムエルを無事に排除出来た時迄のお預けなのだ。


「所で、地上にいるのはスクーデリア達だけなのか?」


 クオンは何かを想い出す様にしてアルピナに尋ねる。もう間も無くの地上。今尚肥大するラムエルの力。それらを眼鼻の先に捉えても、それでも未だ解消し切れていない不安事というのは残っていた。今この状況下でイチイチ気にしている余裕があるか如何かは別として、ふと疑問に思ってしまったのだ。

 それは、レインザード攻防戦やベリーズでの抗争による影響かも知れない。特にレインザード攻防戦に於いて、あの時は天使との抗争に合わせて他の人間達との関りも強いられてきた。取り分け、天巫女と他称されるエフェメラ・イラーフには、アルピナを始めとした一部の悪魔達がやたらと目を掛けていた事もあって、それが如何しても記憶にこびり付いていたのだ。


「初めはその積もりだったのだが、あのエフェメラ・イラーフという天巫女と再会してしまってな。幸い利害が一致していたという事もあり、一時的な協力関係を築く事となった。果たしてこれは偶然か必然か、或いは幸か不幸かは、この際蓋を開けて観なければ分からない事だがな」


 数十分だが数時間前だか定かではないし気にした事も無いが、アルピナはエフェメラと協力関係を築いた時の事を思い出す。傍から見れば完全な偶然でしかない再会と話の流れで決まった一時的な協力関係にしか見えないが、アルピナにしろエフェメラにしろ、両者ともその心にはそれなりの思いが潜んでいた。何方も複数の同胞を束ねている立場として、或いは色々な意味で並列しつつも対極している存在として、無意識の内に相互の事を意識しているのかも知れない。


「天巫女と? 確かにあれは聖職者だし、宗教的な兼ね合いから天使との繋がりもそれなりにあった気もするが……良く協力関係が結べたな。対価は如何した?」


 小首を傾げ乍ら、クオンは感心する様に問い掛ける。人間として生まれ、人間として育てられ、人間として生きてきた彼の一般常識には、この国の国教やそれに従事する聖職者、そしてそれらを束ねる天巫女という存在についての基本的な知識が存在している。

 そして、この短くも濃密な旅路を経て、神の子という存在そのものやそれに関する粗方の知識もまた、あれは新たに獲得していた。

 その結果、だからこそ、彼として、天巫女と悪魔が手を結ぶという状況には如何しても納得がいかなかった。確かに、レインザード攻防戦に於いてセナとルルシエとアルバートが一時的にエフェメラと協力関係を結んだが、あれはあくまでも人間として接している為、数える必要は無いだろう。

 加えて、彼自身もまた、アルピナにしろスクーデリアにしろクィクィにしろヴェネーノにしろ悪魔と接する時は、基本的に契約に対して対価を支払ってきた。確かに、旅路の兼ね合いか彼女らなりの思惑かによって彼が差し出す対価は多少の時間を捧げる事に留まっているものの、或いはそうだからこそ、天巫女と呼ばれる存在が果たしてどの様な対価を差し出したのか、或いはアルピナが彼女に対してどの様な対価を要求したのかそれがつい気になってしまたのだ。

次回、第456話は2/5公開予定です。

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