表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
453/511

第453話:幻影と実体

 だが、如何しても、現在のラムエルの動向と周囲環境の変化が結びつかない。いや、全く以て結びつかない訳では無く、結びつく様で何処か結びつかない様な、そんな曖昧であと少しなむず痒さだった。

 それは偏に、経験の不足だろう。天使にしろ悪魔にしろ龍にしろ、所謂神の子と呼ばれる者達に対する認識や理解に、彼の常識や知識が追い付いていないのだ。余りにも違い過ぎる種族の差を埋める為には、たかが数ヶ月程度の付き合いではあまりにも不足していたのだ。

 また、単純に、クオンの人間としての人生経験も不足していた。未だ未だ大人になり切れていない子供でしかない彼では、非言語的な背後因子を察する力が余りにも不足していた。その為、如何しても、思考回路の未発達さが如実に現れ出てしまっていたのだ。


「それなりに力を付けたとはいえ、やはりまだまだだな、クオン。もう一度、ラムエルの様子を見てみると良いだろう」


 アルピナは、地上へ向けての足取りを落とす事無く、遠く背後のラムエルをチラリと一瞥する。意識を自然な流れの儘に促すその視線に土台される様に、クオンは明白に視線を動かす。それこそ、寧ろ心配になるくらいには分かり易く、或いは彼の彼女に対する信頼の高さが良く現れ出てる一例かもしれない。


「ラムエルの様子……? そうは言っても、魔眼も龍魔眼も機能しないこの状況でどれだけ見たって——」


 そう言い掛けたクオンは、しかし魔眼も龍魔眼も機能しないにも関わらず、とある違和感を感じた。それは肉眼に映っている様でも映っていない様に感じられる独特の違和感であり、寧ろ何故自分がその違和感を抱いたのかすら曖昧な程だった。


「……ん? ……なんというか、ラムエルの姿が曖昧な気が……?」


 如何いう事だ、とばかりに首を傾げ、彼はアルピナに問い掛ける。絶えず地上へ向けて通路を進み乍ら、その金色の龍魔眼はアルピナの金色の魔眼を確かに捉えていた。疑問に振り回されつつも、しかし同時に明確な強い意志だけは、決して消える事無く強く燃え滾っている様だった。


「その儘の意味だ。一見してラムエルがその姿を変えている様に見えているが、所詮は実体を伴わない幻影に過ぎない。空間に干渉出来る事を良い事に、自身の姿形をあの子の思うが儘に変えているだけだ」


 故に、とアルピナは溜息を零す。やれやれ、という声がその儘聞こえてきそうな程に何度も見てきたその顔色は、正しく何時もの彼女らしさそのものだった。それをしっかりと見て取れている現状に対して、改めてクオンは自分がアルピナの庇護下に戻ってこれた事を実感するのだった。

 とはいえ、悪魔の傍にいられる事にこれ程の安堵を得られるというのは、これ迄の人生では考えられなかっただろう。無垢の民草が宗教的思考の基に天使に対して安寧と極楽を願うのと同じ様に、彼は今や悪魔に対してそれを見出していたのだ。


「実体を伴わない幻影? ……つまり、闇雲に攻撃しても無意味という事か?」


 限られた情報を如何にか整理しつつ、クオンはそれと無く予想を口に知る。果たしてこの予想が正解なのかは全く以て自信が無かったし、何方かと言えば当てずっぽうに近い。幾ら暫くの期間を神の子と共に過ごし、神の子と戦い続けてきたからと言って、そこ迄神の子に詳しくなれる訳では無いのだ。

 だが、彼の予想は案外的外れとは言い切れない。それ処か、寧ろ正解を射抜いている。あんな雑な思考でよく正解を言い当てられたものだった。確かに特に騙しや誘導がある訳でも無い単純明快な真相ではあるが、だからと言って賞賛出来無い訳では無い。


「ほぅ、中々如何して、良く見えているようだな、クオン。確かに、あの状態になったラムエルに対しては、真面な攻撃は通用しない。こうして目に見えるあの巨人体の中の何処かに存在する彼女本体を叩くしかない」


 だが、とワインボルトがアルピナの言葉に割って入る。その顔は何処か暗く、まるで何かを憂慮している様でもあった。宛ら、ラムエルとの戦いに対して何かを危惧しているかの様であり、或いは自信を喪失しているかの様だった。


「魔眼も龍魔眼も機能しないこの状況で、如何やってそれをする積もりだ? 神龍大戦の時は常に魔眼を開きっぱなしだったから少しはマシだったが、魔眼も無しに本体を捉えられる程の力は俺には無いぞ」


 ワインボルトの意識は、遥か過去である第二次神龍大戦を見ていた。セツナエルとアルピナとジルニアによる対立を発端として行われた天使と悪魔による抗争に於いても、ラムエルの力はそれ相応の脅威として認識されていた。

 しかも、あの時は、今回と異なり、立地的な制約が殆ど存在しなかった。地界全域を舞台として行われていた事もあって、どれだけ大きくなってもそれを妨げる障害は何処にも存在していなかった。

 対して、今回は、地界の中に浮かぶ一つの星の中という事もあり、如何しても大きさには限界がある。しかもクオンが持っている龍魂の欠片と遺剣が必要という事もあり、余り無作為に何もかもを破壊する事が許されていなかった。その為、如何してもある程度力を抑えた状態を維持しなければならないという制約を抱え込まなければならなかった。

次回、第454話は2/1公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ