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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
452/511

第452話:脱出③

 それから程無くして、アルピナ達は地上近くに迄到達する。勿論、地図などという便利なものは持ち合わせていない為、何となくの肌感覚でしかない。それでも、朧気にもそれなりに地上に近い所迄上って来た様な空気感なのは誰の意見でも一致していた。


「思ったより地上からは近い場所だったんだな。てっきり、もっと奥深くに閉じ込められていたのかと思っていたが……」


 クオンはそれとなく呟く。別にもっと奥深くに居たかった訳では無いし、こうして直ぐ地上に出られたのだから寧ろ有り難い方なのだが、しかしラムエルの性格を考えれば何処か不思議な気もした。

 尤も、丸二日にも満たない、しかも明確な敵対関係にあった彼女の事を果たしてどれだけ知っているのか、と言われたら殆ど知っていないというしかない。しかも、ヒトの子と神の子との間の価値観の相違は明確であり、知ろうと思って知れる間柄には無い。

 その為、そういう違和感乃至疑問を抱くのはハッキリ言って御門違いだったり余計なおせっかいだったりするのだが、しかし今更そんな細かな事は些細な事だろう。何より、クオンはアルピナ達とそこそこの関係性を築いている。そこから何かしら学習している可能性だって否めない。


「ワタシが下りて来る時はもう少し複雑な構造をしていたのだが……恐らくラムエルが構築した聖法が緩んだのだろう」


「聖法が?」


 クオンは首を傾げる。何故この状況で聖法の影響を考慮しなければならないのかが、クオンには咄嗟に理解出来無かった。魔眼や龍魔眼が機能しない事やそれに関連する何かだったら、それも十分納得のゆく考察なのだが、しかし単なる地下通路の構造そのものに対して、何故そういった力の関与を疑うのかが、彼には飲み込めなかったのだ。

 確かに、聖法や魔法や龍法というのは特別な力である。神を神足らしめる神力によって構築される神通力程では無いにしろ、それ相応の奇蹟をそれらは容易に生み出す。それこそ、ヒトの子がヒトの子としての文化文明を築く上で最も重視する、この世をこの世足らしめる物理法則をも超越出来るだけの力が、それには宿っている。

 だからこそ、クオンが頭と心で理解出来る範疇に存在しない何かを為す事の出来る力がそれには含まれているのだ、という事を、彼自身は頭では理解出来ている。自分だって魔力や龍魔力を使っているのだ。況してやそれが出来無い道理も無い。

 だが、頭がそれを理解していても、心がそれを受け付けてくれない。人間として生まれ人間として育った、人間としての枠組みに収まるだけの人間性だけを宿しているからこそ、その枠組みから逸脱する彼是に対して、無意識的に拒絶してしまっているのだ。


「そういえば、ラムエルは空間に干渉する聖法が得意だったな」


 パラパラと欠けた瓦礫が雨となって降りしきる天井を眺めつつ、ワインボルトは思い出す様に呟く。彼はラムエルとはずっと昔にちょっとばかしの面識があり、神龍大戦時の彼是も相まって、頭の片隅にそれが刻み込まれていたのだ。

 尤も、ラムエルはシャルエルやルシエルやバルエルと殆ど同じくらい有名な天使だった事もあり、彼女を知らない神の子の方が思いの外少ない。それこそ、草創の108柱に次ぐくらいには有名な存在なのだ。だからこそ、彼女の聖法の特徴を知っているというワインボルトの認識は、別に不思議でも何でもないのだ。


「空間に干渉? でも確か、神でも逆らえない絶対の概念とかいう話じゃなかったか?」


「神でも干渉出来無いのはあくまでも時間概念だけであり空間は我々神の子でも可能だ。抑、時空間とは本来、合わせて一つの四次元構造ではない。時間は時間、空間は空間で、其々独立して存在する概念だからな。それに、空間に干渉出来無ければ、界を挟んだ転移も出来無いだろう?」


 忘れたか、と過去の出来事を思い出させる様に、アルピナはクオンに促す。それを受けてクオンは改めて、アルピナ達の過去の言動を咄嗟に振り返る。

 確かに、アルピナ達は屡々魔界へ行くのに転移魔法を使用していた。何より、クオンが初めてアルピナと出会った時も、彼女は転移魔法を使用して現れ出た。

 その為、よくよく考えれば、空間に干渉出来無い道理は無いのだ。悪魔が使う転移魔法と天使が使う転移聖法とではその詳細な原理は若しかしたら異なるのかも知れないが、しかし同じ神の子が使う同じ転移術式なのだから、その根幹は変わらないだろう。

 そういえば、とばかりに思い出したクオンは、当時に彼女達の言動を脳裏に思い描き乍ら納得する。神と会った事が無い為に、そんな神でさえ干渉出来無い時間という概念にはイマイチ認識が及ばないが、しかし空間に干渉するという言葉の意味が理解出来ただけでも良しとしよう。



「だが、何で急にそれが緩んだんだ?」

 クオンは、龍魔眼で地下通路の最奥部、つまりつい先程迄自分達が囚われていた場所を探る。相変わらず不可視の聖力に阻まれて何も見えないが、しかし今尚強大な力を視覚的にも膨れ上がらせているラムエルだけは捉える事が出来た。

次回、第453話は1/31公開予定です。

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