表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
451/511

第451話:脱出②

「君と一緒にされては困るな。神龍大戦の時程に死は身近ではない。天魔の理によって抑え込まれている都合上、余程の直接的殺意が無い限り、あの子達が死ぬ恐れは無い」


 確かに、ラムエルは智天使級天使であり、天使種全体で見ても最上位に限りなく近い存在。単純な年齢で比較すればクィクィより年上だし、ヴェネーノよりも遥かに年上である。年齢と実力が比例する神の子の性格特性を考えれば、スクーデリアは兎も角としてクィクィやヴェネーノが危険だと思ってしまうのは無理ない話だろう。

 加えて、ラムエルにしろアルピナにしろスクーデリアにしろクィクィにしろヴェネーノにしろワインボルトにしろ、誰もが揃いも揃って神龍大戦を経験している。あの死がすぐ身近に存在する殺伐として日常を知っていれば、この程度の危険を危険とは呼べないのだ。

 そうか、とクオンはアルピナの返答を受けて一応は理解し納得する。

 人間として生を受けて人間として生きてきたこれ迄の人生に於いて、彼はそれ程死を身近に感じる様な状況に置かれた事が一度も無かった。確かに魔獣による各種被害は屡々耳にしていたし、武器職人の家で育てられていた事もあってその手の不幸話は頻繁に齎される。それでも、彼が初めて死の恐怖を実体験として記憶に刻み込んだのは、ラス・シャムラで魔獣に襲撃されたあの時だ。

 その為、だからこそ、如何しても死を身近にした者特有の余裕や冷静さというのは同意し辛かった。頭ではそれに対して理解も同意も及ぶのだが、心がそれをしてくれなかったのだ。

 だが、スクーデリアやクィクィやヴェネーノの実力がどれ程のものなのかは、クオンもよく知っている。この短くも濃い旅路の中で、それこそ飽きてしまう程には良く見てきたし恩恵を受けてきた。

 その為、彼女らを信用しない事や信頼しない事は、彼女らに対して申し訳無い心情にもさせてくれる。あれ程迄に、彼女らは彼に対して信用と信頼を置いてくれるのだ。その反対が出来無いのは我儘が過ぎるというものだろう。


「それじゃあ、兎に角早い所とこんな地下通路から出るとするか。道は分からないが、彷徨っていれば何時かは外に繋がってるだろう」


 とはいえ、余りにも計画性の無い行き当たりばったりな逃走劇に対して、それを発したクオン自身がつい無意識的に溜息を零してしまう。とはいえ、こんな場面は大体何時も通りな気もするのだが、だからこそ余計に、改善が見られない現状には溜息が零れてしまう。

 いや、或いは、アルピナ達には何か考えがあるのかも知れない。実際、普段だって、アルピナ達も含めて誰も何も考えていないばかりではなく、考えていて且つクオンにだけは何も教えない事の方が圧倒的に多い。

 若しかしたら今回も同じなのではないか、という疑問が、クオンの脳裏を過ぎる。何時もそうだから、という信頼出来る様で信頼出来無い自信を前に、彼はアルピナの魂を訝しむ。

 しかし、アルピナという悪魔は非常に強大であり、非常に繊細な存在。それこそ、本質的にはたかがヒトの子でしかないクオンでは、如何頑張ってもその深層を窺う事は出来無い。

 況してや、アルピナとクオンは契約による主従の間柄。従者が主人に対して何かしら行為を企ててそれを為そうというのは、実に不釣り合いであり不都合な現実である。

 確かに、悪魔が他者と結ぶ契約には、そんな奴隷契約の様な絶対の主従関係は存在しない。あくまでも願いと対価の価値関係を保存する為に用意された契りでしない。

 それは兎も角として、アルピナの考えている事が全く以て読み取れないのは事実である。事実だからこそ、果たしてこれが何の考えも無い無計画な逃走なのか、或いは何か考えての事なのかが予測すら出来無い。

 それでも、如何にかしてその深層を捉えようと、クオンは考え込む。場所故に全く機能しない龍魔眼を輝かせ、遠くで今尚強大な力を零すラムエルの様子を窺う合間でアルピナの態度振る舞いを注視するのだった。


「フッ、そんな顔をするな、クオン。智天使級天使と戦うのは何も今に始まった事では無いだろう。シャルエル、ルシエル、バルエルと戦い生き残った君なら、仮令ラムエルが相手であろうとも何ら心配する必要は無い」


 それに、とアルピナは付け加える。蒼玉色の瞳を輝かせ、宛ら猫の様に可憐で自由奔放な陽気さを曝け出す様にして、クオンのその燻る心を宥めるのだった。


「何度も言った筈だ、如何なる理由があろうとも、君を死なせる様な事はしない」


 ……それがあの時の約束だったからな。


 心中でアルピナはそう呟いた。果たしてそれは誰に対して言っているのか? クオンに言っている様でありつつも、同時にそうでは無い様な。もっとより深奥に位置する、彼女が心の底から希っている何かに対してそう語り掛けているかの様だった。

 遥か彼方から続く約束、もう間も無く手の届く約束。彼女が誰よりも切望し、誰よりも藻掻き、誰よりも喜ぶ彼を魂の深奥に捉え、彼女は無意識に微笑んでいた。

次回、第452話は1/30公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ