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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第1章:Descendants of The Imperial Dragon
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第45話:決戦⑤

 しかし、その感情を抱くのは何もクオンだけではなかった。シャルエルもアルピナも、多少の差異はあれどもそれぞれ類似した感情を持ち合わせていた。


 やはり、アルピナ公は格別だな。あの小さな体躯の一体何処にこれだけの魔力を保持していやがる?


 大柄で筋肉質なシャルエルに対して、アルピナはかなり小柄な女性型。人間社会に溶け込めば間違いなく稚い少女として処理されてしまうほどの童顔。シャルエルが思い切り殴りつければ一撃で粉砕できそうな細身の肉体は非常に弱々しい。しかし、その内実はシャルエルすら恐怖に顔を引き付けるほどの大悪魔。際限なく膨れ上がるのではと思ってしまうほどに大量の魔力は、彼女の魂から止めどなく湧出する。

 対してアルピナは、シャルエルの魂から放たれる聖力に感心の面持ちで瞠目していた。彼女がシャルエルと最後に会ったのは、今から凡そ10,000年前。長い長い時の移ろいが齎した彼の成長量は、アルピナの想像を絶するほど。彼女が想像していたそれを数倍以上に上回る上昇量は、ハッキリ言って奇妙とすら思えるほどに格別だった。


 一体何がシャルエルをここまで変えた? ヒトの子の文化文明の発達具合からして、ワタシが留守にしていた10,000年は比較的平和だっただろう。だとしたら、それほど大規模な戦争は発生していないはず。


 例え戦争が天界や魔界、龍脈で生じていたとしてもその余波は必ず地界まで到達する。その痕跡すら見えないということは、即ち大規模な戦争が行われなかったということ。

 天使も悪魔も龍も生きた時間が保有する力に比例するが、それに加えて戦いが経験値となってその成長を促進させる。それは人間が技術の発達に経験を伴うのとは訳が異なり、彼ら彼女らの成長は遥かに速い。しかし、戦争が発生した痕跡がないということは経験を積む機会がなかったということ。つまり、シャルエルが成長の可能性を得る機会はないはずなのだ。

 故に、アルピナはシャルエルの急成長についてその法外な理由があるのではないかと訝しがる。しかし、いくら蒼穹中の凡ゆる世界に散らばる全悪魔達を統べる悪魔公とはいえども知らない事もあるのだ。皆目見当がつかないアルピナは、己の無知に唾棄するとともに更なる力に警戒の色を浮かべる。


 ……候補を上げるとすれば神の仕業か天使長の謀か。前者なら兎も角後者となれば面倒だな。あの低能(ノータリン)の尻拭いなど勘弁したいところだが、しかし可能性がゼロとは言い切れないのが現実。いや、寧ろその可能性の方が高いまであるか。


 やれやれ、とばかりに溜息を零すアルピナ。何時の時代も不正と謀が絶えない現実に辟易としつつ、それでも世の理を円滑に運ぶための管理者としての体裁を保つ。そして、言外に警告の意を含ませて魔力を放つ。閉塞した室内に疾風が巻き上がり、三者の髪を三様に靡かせる。

 不敵な笑みを浮かべて三者はそれぞれ構えを取る。魔力を手に宿した悪魔アルピナ、聖剣を手にした天使シャルエル、遺剣を手にした人間クオン。それぞれがそれぞれの意志と覚悟を胸にして、それぞれがそれぞれの目的達成のために衝突する。

 激しい閃光と衝撃波が部屋を満たし、激震する空気が張りつめた雰囲気を増強させる。

 超常の力を惜しみなく発散させ、人間の理解の範疇を遥かに上回る技量と能力で戦いの場を形成するアルピナとシャルエル。足手まといになるまいと必死に食らいつくクオンだが、最早ついて行くのがやっとの状態。そこから更に理論で戦術を組み立てることは到底不可能なほどの窮地に立たされていた。


 くそッ……辛うじて食らい付くのがやっとだな。この二柱、一体どれだけ力を隠し持ってるんだ?


 神の子が持つヒトの子とは隔絶された超常の力、そしてそれを振るう二柱の技量。驚愕と感嘆の影に微かな嫉妬を混ぜ込んで、クオンは心中で本心を吐露する。しかし、いくらそれを希っても彼自身がヒトの子である以上その力を手にすることは敵わない。

 契約で授けられた魔力はあくまでも内部に宿る補助手段。借り物としての範疇を決して越えない力程度では、彼がヒトの子の壁を越すことは不可能。ヒトの子はヒトの子としての生きる道を模索しなければならないのだ。


「なかなかやるようになったな、シャルエル」


「舐めるなァ‼」


 クオンを気に掛けつつシャルエルと相対するアルピナ。守りながら戦うことに身体が馴染み、戦い始めた当初と比較して余力が増えたことを実感する。そして、その余力をすぐさま口撃に変換して彼の心を揺さぶる。クオンですら彼女が味方であったことを心の底から安堵するほどの挑発は、(なまじ)彼女が小柄な少女であるが故に効果が高まる。稚さと純粋さが齎す口撃の先鋭化は、いかに天使としての矜持を高く保つシャルエルであっても痛いほどに刺さる。


 チッ……こいつはマズいな……。


 シャルエルは、口腔から流出する血液を忌々しい感情と共に吐き捨てる。鉄の味が口腔一杯に広がり、その劣勢を否が応でも感じ取ってしまう。リリナエルの魂が神界へと帰還した今、必然的に置かれる一対二の状況は何としても避けたかった未来そのものだった。そして何よりただでさえそのような危機的状況に置かれているのに、肝心の相手がその悪さに拍車をかける。

 それは、たとえ天使と悪魔という本来絶対的であるはずの相性差を容易に覆し得るほどの力を秘めた存在。アルピナという名を持った稀代の大悪魔は悪魔公という称号を冠し、悠久の時を生きたと客観的に認められるシャルエルすら赤子同然に遇らう生きた歴史書。


「先程までの勢いは何処へ忘れた、シャルエル?」


「うるせェ‼」


 感情に身を任せた直情的行動を嘲笑されたシャルエルは咆哮を轟かせる。剥き出しにした感情は却って冷静さを奪い、結果的にクオンですら辛うじてながら追いすがるまでに動きが鈍る。感情の乱れと同胞を失った喪失感が噛み合い、徐々にではあるがクオンとアルピナはシャルエルを追い詰める。彼の体表に刻まれる裂傷が戦いの行方を表現し、対して傷一つ負っていないアルピナの涼しげな相好がその実力差を物語る。


「我が君の為にも、ここで負けるわけにはいかん‼」


 金色の聖眼をより一層鮮明に輝かせて、シャルエルは一層の覚悟と決意を一人滾らせる。その覚悟に応える様に、アルピナは魔爪を黄昏色に輝かせて微笑むのだった。

次回、第46話は11/12 21:00公開予定です

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