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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第448話:打開する術

「放っておけ。それより、早速始めるとしようか」


 そう言い乍ら、アルピナは悠々と足を動かす。大胆に、そして傲慢に、その所作は隙だらけであり、或いは隙が服を着て歩いていると言える程のもの。とても歴戦の大悪魔とは思えない無防備具合であり、とても歴戦の智天使を前にしているとは思えない余裕っぷり。或いは、そういう状況だからこそ、性格的にそういう倒錯した油断や傲慢が曝け出されてしまうのかも知れない。

 何より、クオンが無事手元に戻って来たという事実が、彼女の心に安堵と安寧を齎しているのだろう。先程迄の様な、大丈夫だとは思っているものの確信は持てない、という不安定で不正確な状況ではないからこそ、安定した土台の上でドッシリと構えていられるのだろう。

 一歩、また一歩、と踏み出すその足は、非常に繊細にして非常に撓やか。そして何より、コツコツと反響する靴音が、宛ら緊張感に包まれた心臓の鼓動音の様に理性を揺さ振る。敵対している訳ではない完全な味方であると分かっているにも関わらず、クオンはそんなアルピナの態度振る舞いに対して確かな恐怖を見出していた。


「えー、ヤだよ。真面に戦っても勝てる見込みなんて無いじゃん」


 ラムエルは、まるでとぼける様に、そして同時に飄々と、アルピナの戦意を躱す。まるで悪戯好きな子供の様な純粋でいじらしい態度振る舞いをその儘に、それに相応しい相好を顔面に貼付する。アルピナという恐怖に対してこれっぽっちも怖気づいていない事が誰に目から見ても明らかなそれは、正しく何か裏があると考えて良さそうな代物だった。

 それは、彼女の持って生まれた性格故のものなのか? 或いは、魂に宿る天使としての本能故のものなのか? 或いは、何かしらの理由は目的がそれを為しているのか? その全てが正しくある様で、同時にその全てが誤りの様にも感じさせられる。それ程迄に、どっちつかずであいまいな態度振る舞いを、彼女はその身に纏っていた。


「ほぅ、随分と素直だな。それとも、何か打開する術を持ち合わせているとでも?」


 アルピナは分かり易くラムエルを挑発する。若しそんなものが存在するのなら見せてくれ、と言わんばかりなその発言は、それこそ血と魂の香りを待ちわびる狂者のそれ。遥か彼方よりジルニアと戦い続け、神龍大戦でも先陣を切って天使達と戦い続けてきた、そんな武闘派筆頭といっても過言では無い彼女らしさに、それは満ち溢れていた。

 時日、彼女は飢えていた。別に戦闘行為そのものを渇望しているではなく、クオンに危害を加えて彼女に対して合理的且つ確実な罰を与えられる状況に焦がれていたのだ。

 だからこそ、この状況は正しく好機だった。そして、好機だからこそ、より効果的且つより徹底的に叩きのめしたくなるのが彼女としてのサガ。その為、敢えて挑発し、敢えて智荒を引き出させ、そしてそれを正面から一切の欺瞞も詐称も無く潰してやろうとしていたのだ。

 そして、それは当然の様に、ラムエルも理解している。アルピナとは数十億年を超す年月を跨ぐ長い付き合いなのだ。幾ら種族が異なるとは雖も、根本的な神の子という枠組みは同じだし、何より何方も各種族で上から数えた方が早い程の枢要。故に、互いの考えている事や思っている事は、全てお見通しだし嘗て幾度と無く見てきた光景なのだ。


「さっすがアルピナ公。そんなに言うんなら、折角だしそうしちゃおうかな?」


 ふふっ、とにこやかな笑みを零すラムエルは、同時に身の毛も弥立つ様な恐ろしさも内包する瞳を輝かせる。この状況で彼女の正体は天使なのだと吹聴した所で、果たして何人の人間がそれを信じるだろうか? 確かに、人間の文化文明に於いて天使の存在は非現実的な宗教上の存在だとされていたり実在する雲上人だとされていたりして千差万別なのだが、恐らく今の彼女を見てそれを信じる者はいないだろう。

 何方かと言えば、悪魔と呼んだ方がそれらしいかも知れない。実際、宗教を利用して民草の心に巣食い、目的の為に法を犯し、対立種族と死闘を繰り広げているその様は、とても天使とは呼べないだろう。救国救世の具現化とも称される事もある天使としての驪塑像は、それは正に対極する代物だった。

 とはいえ、こうして実在する天使を予てより知っている側の者からすれば、最早それはくだらない御伽噺にすらならない。天使とはこういうものである、という常識が既に刷り込まれている彼彼女らにとってみれば、今のラムエルの言動でさえももはや正常と断じられるのだ。

 だからこそ、アルピナもワインボルトもクオンも、ラムエルの言動に対して何も言う事は無い。彼女がそう言うという事はつまりそれが為せるという事であり、つまりは今正にそれが実施されるという事。決して嘘偽りや虚飾や出鱈目では無い真実である、と理解していた。

 加えて、そんな自分達を取り纏めるアルピナがそれを止める事を良しとしてない事もまた、同時に理解していた。その為、本音としてはそんな危険を冒したくないと思いつつも、アルピナがそれを望む限り、ワインボルトもクオンもラムエルの行動を全て受け入れるしか出来無かった。

次回、第449話は1/26公開予定です。

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