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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
447/511

第447話:再会③

「どの口が言う? 君達がこれだけの事をしなければ、ワタシも乱暴なマネをする事は無い。我々は立場を反するとはいえヒトの子の魂を管理する者同士。対立すべき間柄ではないのだからな」


「私達が? まさか。抑の原因はそっちでしょ? そうやって何でもかんでも天使に押し付けるのは良くないと思うよ、アルピナ公?」


 比較的静かで落ち着いた口調と声色。言葉の内容に反して、彼女らは共に冷静そのもの。それこそ、今正に戦闘行為が繰り広げられていた、と言われてもそうは思えない程。まるで日常の一コマを適当に切り取ったかの様な、そんな朗らかさすら滲出している。

 だからこそ、或いはそうでなくとも、クオンには彼女らの会話の真意がつかめない。一体彼女らは何について話しているのか? 会話の節々に表れる手掛かりに自身の持つ知識と認識をすり合わせ、彼は如何にかそれを掴もうとする。

 しかし、どれだけ思考を深めようとも、どれだけ思考を回そうとも、何ら進展する事は無い。恐らく今回の事件や抑となる天使-悪魔間の対立について話しているのだろう、という事だけは朧気に掴めているのだが、何かしらの含蓄ある言い回しについては何も理解出来無かった。

 やはり、この短い旅路で得られる基礎的な知識や認識では、如何しても限界がある。幾ら生活を共にしているのが悪魔公だとは雖も、遥か数十億年を超す神の子の歴史と比較すれば、この程度の付き合いは殆ど誤差程度にしかならないのだ。

 そんな彼に対して、ワインボルトはというと、やはりアルピナと同じ悪魔だからこそ、クオンと同じ態度振る舞いという訳にはいかなかった。幾らかなり若いとはいえ、ヒトの子であるクオンとは異なり、神の子全体の歴史や時代背景には深く精通している。しかも、アルピナという最重要因子と比較的近しい間柄でもある。

 その為、アルピナの言葉にもラムエルの反論にも、その全てに対して思い当る節々が存在するのだ。存在するからこそ決して無視する事は出来ず、しかも無視出来兼ねるからこそその相好に感情の全てが現れ出てしまうのだ。

 とはいえ、立場上ワインボルトには如何する事も出来無い。それは時の流れを遡って過去を変える事が出来ない様に、抑としてそれが起きた当時未だ生まれていなかったからこその仕方無さ。

 加えて、何より、今現在彼女らが話している会話の裏に秘められた真意については、触れる事も憚られるやんごとなき事情が秘められている。それこそ、アルピナと同じ悪魔種の中だと、その話題に触れられるのはスクーデリアとクィクィ程度だろう。ワインボルトには未だ若すぎた。

 それに、ワインボルトとしては今更それに口を挟もうとは思わない。それよりも、今は只彼女らの同行を観察し、この状況を打破出来る切っ掛けを見つけ出し、それを逃さない様に備えるだけだった。

 そんな事を考えているワインボルトの視線の先では、アルピナがラムエルの言葉に対して舌打ちを吐き零している様だった。真実を穿つラムエルの言葉を前にして、やはりアルピナと雖も思う所があるのか、その全てを否定する事は出来無かった。かといって、その現実をそのまま全て真実だと公表出来るだけの柔軟さもまた持ち合わせてはいなかった


「これだから天使というのは面倒なのだが……まぁいい。済んだ話だ。幸いにして最悪は回避出来た。早速だが続きを始めるとしようか?」


「へぇ、まだやるつもりなんだ。相変わらずそういうの好きだねぇ、アルピナ公は?」


 改めて、ラムエルとアルピナは其々聖力乃至魔力を魂から湧出させる。片や暁闇色の波を流し、片や黄昏色の風を送る。何方も一進一退の押し合いへし合いを繰り広げており、今正にでも崩落してしまいそうな程のにこの地下通路全体が激しく鳴いている。

 一応、階級や経験の都合上から、アルピナの方がラムエルより力は強い。それこそ、全く以て相手にならない程の隔絶された開きという訳では無いのだが、それでもそれ相応に大きな開きである事には相違ない。

 それでも、ラムエルの努力の末なのか、或いはただ単にアルピナが遊んでいるだけなのか、決して絶望的な迄の開きだとは言い切れない。未だ多少ばかりとは言え鬩ぎ合えるだけの可能性は如何にか秘めている様子だった。

 だからこそだろうか、或いはそれ以外の理由でもあるのだろうか? 何処と無くアルピナの相好が明るい。それこそ、玩具を前にした子供の様な純朴さであり、或いは贈り物を受け取った恋する乙女の様な純粋さでもあった。クオンという、彼女を彼女足らしめる凡ゆる価値観で今現在最も大切な存在がこうして無事に手元に戻ってきた事が、彼女の心を何よりも楽しく刺激しているのかも知れない。

 何れにせよ、昨日クオンが攫われた直後の様な、あんな不安定さは既に鳴りを潜めていた。ただ只管に、眼前の敵に対して溢れんばかりの殺気を指し続けるだけだった。彼女を悪魔足らしめる様な、そんな冷徹さと傲慢さだけが、今の彼女の心を土台していた。

次回、第448話は1/24公開予定です。

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