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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
445/511

第445話:脱獄⑥。そして再会

 しかし、そんな彼女に足で踏みつけられていたクオンの目には、決してそんな風には見えなかった。確かにその見た目こそはどんな人間よりも整っているとは思うが、しかし彼女は戦友であり相棒であり契約主であるという側面の方が大きかった。その為、彼女に足を退けてもらって漸く立ち上がっても、しかし彼女に対して明確な喜びを爆発させる事は無かった。


「我儘だな、君は」


 面倒くさそうに、しかし声色も口調も顔色も、その全てから喜びが隠し切れていない様が滲み出ているアルピナは、小さくそう呟いた。徐に起き上がるクオンの一挙手一投足を眺め、瞳に焼き付け、短くも待ち望んだ再会をしっかりと噛み締める。


「まさか。お前にだけは言われたくないな」


 対して、そんな猫の様に大きくやや吊り上がった蒼玉色の瞳に見つめられるクオンもまた、彼女の姿形に対して嘘偽りのない喜びと信頼を噛み締めていた。絶望の中でも決して失う事無く抱き続得kて来たその信用と信頼は、契約という形式的な紐帯を文字通り真実の紐帯へと変質させていたのだった。

 そうして、改めて二人は静かに視線を交わらせる。片や成人男性としては平均そこそこなクオン、片や神の子基準にしろ人間の女性体基準にしろそこそこ小柄なアルピナ。その絶妙な慎重さが生む独特の空気感は、この陰鬱とした半崩落状態の地下牢であっても特異なものとして存在している。或いは、契約によって結ばれた特殊な関係性がそれを構築しているのかも知れないし、将又アルピナ達悪魔が抱えている秘密がそれを形成しているのかも知れない?

 何れにせよ、クオンとアルピナとの間には、静かでありつつも何処か激しさを内包する感情が渦巻いていた。決して恋愛感情ではないと断言出来る、彼彼女だからこそ生み出せた唯一無二の世界観がそこには広がっていた。

「それより、如何やら一応は無事の様だな?」


「あぁ、多少の怪我はあるが、この程度なら魔力で補えば如何とでもなる。それに、遺剣の龍魂の欠片も無事だ。あれに関しては、何としても奪われる訳にはいかないだろう?」


「フッ、上出来だ。やはり最高だな、君は」


 アルピナの心配と、それに対するクオンの回答。まるで事務作業の様に飾り気も無ければ感情の波打ちも存在しない平坦な言葉と言葉の重なり合い。しかし、それでも、そんな表面に反して本心は真剣であり、それは両者ともに自覚している。

 だからこそ、尚の事、クオンのそんな回答に対してアルピナは素直に称賛する。決して彼の事を期待していなかったのではなく、期待し信用し信頼していたからこそ、そうした感情が生み出す希望的観測とそっくりその儘同じ結果が帰ってきたが故に、素直に素晴らしいと感じただけである。

 過剰でも無く、過少でも無く、契約者と被契約者としての関係性やその上位に君臨する秘密に則った、現実的且つ真実の言葉だった。

 とはいえ、何時迄も暢気に見つめ合っていられる訳では無い。何より、そんな惚気られる間柄ではない。確かに只の友人同士とは言えない親密な信頼で繋がれているが、それは契約に基づいた業務的な間柄でしか無いし、旅が終わればそれでお終いな一時的なものでしかない。今更何か個人的な情動に駆られる筈も無い。只でさえ種族が異なるのだ。言わずもがなだろう。

 そういう訳で、アルピナもクオンも早速とばかりに本題へと意識を戻そうとする。何方かが強引に話を戻そうとしなくとも、極自然な認識の疎通でそれが為されるのは、これ迄の旅路で培った経験と両者の性格故だろう。


「それで、状況は如何なってる? 此処だと魔眼も龍魔眼も機能しないからな。抑としてあれから何日経過したかすら良く分かって無いんだが」


「君がラムエルとアウロラエルに襲われたのは昨日の事だ。此処は国の東方地区の町。確かサバトと呼ばれている町だったな。現在は丁度、そのラムエルと交戦中だった所だ。一応地上では、スクーデリアもクィクィもヴェネーノも、其々天使達と戦闘中の様だ」


 相変わらず魔眼も龍魔眼も機能しない事を改めて確認する様に瞳を金色に染めつつ、クオンは問いかける。一方、アルピナもまた、片手を自身の腰に当てつつ、彼と同じ様に機能しない魔眼を瞳に宿し、地上の様子をそれと無く予測する。


「それは本当か?」


 そこへ不意に射し込まれたその疑問符は、しかしクオンのものでは無かった。ガラガラという瓦礫が崩れ落ちる音と共に齎されるその声はクオンと異なる男性のもの。それでも、その声色を耳にしたら、クオンだけでなくアルピナもまたその声の主には直ぐに合点がいった。


「やはり、君も此処にいたか、ワインボルト。随分と無様にやられた様だな」


 大きな溜息を吐き零しつつ、アルピナはその声の主に呼びかける。怒りの感情が込められている様にも失意に感情が込められている様にも諦観の感情が込められている様にも感じられるその声色と口調は、非常に恐ろしく冷たいもの。改めて、彼女が悪魔である事を再認識させられるものであり、或いはそんな悪魔をも統括する悪魔公故のものだと言うべきかも知れない。

次回、第446話は1/22公開予定です。

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