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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
443/511

第443話:脱獄④

 加えて、彼自身、契約によって齎されたものとはいえ、魔力をその魂に宿している。加えて、遺剣を介した借り物とはいえ、ジルニアの龍脈を利用している。詰まる所、多くの最上位階級の神の子の力を、まるで己の身体の様に振る舞い続けてきたのだ。

 それにも関わらず、やはりとも言うべきか、天魔の理から逸脱した力というのは筆舌し難い隔絶の圧を感じさせられる。自分が使用している彼是は所詮借り物に過ぎないのだ、という事を改めて自覚させられと共に、ヒトの子と神の子の根本的且つ本質的な枠組みの違いというのが明確化されるのだった。

 しかし、距離を取ろうにも、聖拘鎖によって拘束されている事もあって如何する事も出来無い。只無防備な体勢を曝け出した儘、ワインボルトの魔力を全身で浴び続ける事しか出来無かった。

 それでも、これ迄常にアルピナ達の魔力に曝され続けてきた上に自分自身もまた魔力を使いこなしている事もあってか、幾分かマシだったのは幸いした。或いは、ワインボルトが調整してくれているのかも知れない。あのアルピナが契約を結んだ相手なのだ。相応に大切にしなければならないのは嫌でも理解していた。

 それでも、最新の注意を払うべく、クオンはクオンなりに対策を施す。魂から魔力を産生し、それを全身へと循環させる。それにより、身体表面に魔力の被膜を生み出され、ワインボルトの魔力から自身の人間としての肉体を保護する。

 加えて、異空収納の中に秘匿しているジルニアの遺剣を無理矢理自身の魂と接続する。直接握らずに次元の壁を超越して連続性を構築するのはかなりの無理を強いられるものの、しかしラムエル達天使から遺剣を守り抜く為には致し方無い措置だった。

 そして、そこからジルニアの龍脈を魂へと逆流させ、全身に満ちる魔力と併せて龍魔力へと置換させていく。神の子三種族間の相性関係に則れば、龍脈は魔力に対して寧ろ弱いのだが、それでも、只単純に魔力を放出するよりも龍魔力の方が二つの力の騒擾となる為、クオンとしては頼もしかった。


〈龍魔防膜〉


 その上で、更に、龍魔法による防御膜を自身の周囲に展開し、最悪を備えた覚悟を決める。アルピナやスクーデリアやクィクィが普段天魔の理の影響を受けた状態で放出する魔力量よりも天魔の理から逸脱したワインボルトの全開魔力の方が小さいとはいえ、それでも彼があれ程不安視するのだから、これ程の過剰過ぎる防御展開も悪い事では無いだろう。

 実際、そんな過剰ともいえるクオンの態度振る舞いを横目で一瞥するワインボルトは、しかし決して不快な感情を抱いてはいなかった。状況次第によっては避けられている様な不快感を抱いても可笑しくは無いだろうが、ワインボルトの相好からそんな色は一欠片たりとも感じられなかった。

 それ処か、そんな過剰ともいえるクオンの態度振る舞いに対して、大きな信頼と安心すら抱いている様子でさえあった。保有する魔力量、借り受ける龍脈量、扱う龍魔力量、そして龍魔法の精度。それら全てを加味し、改めてクオンの実力の高さを再認識したのだ。

 だからこそ、ワインボルトは、改めて自身の魔力産生とその放出に意識を集中させる。只でさえ天魔の理を逸脱する事が難しい上に、抑としてする事自体が初めてなのだ。アルピナの様に勝手気儘に暴れまわれる様な性格はしていないし、そんな権限もまた持ち合わせていない。その為、ちょっとでも気を抜けば、直ぐにでも理に引っ張られて魔力量が抑制されてしまい兼ねなかった。

 改めて、アルピナ達一部の強者の規格外っぷりがより強く認識され、ワインボルトは微かな笑みを零す。これ迄生きてきた時間の中で、それを知る機会は嫌という程多く存在したし、その最たるものこそが他でも無い神龍大戦だったのだが、まさかこんな場面でそんな事を思い抱く事になるとは思いもしなかった。

 そして、ワインボルトが意識を集中させ始めてからどれくらい経っただろか? 数秒か? 或いは十数秒か? 時計も無い為にその正確な経過時間はクオンには分からず、神の子故にワイボルトにも分からなかった。

 それでも、大した時間は経過していない。それだけは確実だった。そして、そんな極僅かな時間が経過しただけで、ワインボルトの魂から溢れる魔力量が最大限に迄高められている事もまた確実だった。天魔の理を逸脱した、彼がこれ迄生きてきた時間と比例するだけの純粋な最大魔力量だった。

 そして、ワインボルトは、そんな魔力を巧みに操作する事で魔法陣を構築する。ラムエルの聖拘鎖を破壊し、この状況を打破出来るだけの魔法を放つ為の輝きを放つ。

 それを前にしたクオンは、思わず茫然としてしまう。確かにワインボルトは若年の悪魔であり、アルピナやスクーデリアは元より、何ならセナの方が断然年上であり格上の悪魔である。それにも関わらず、余りの圧倒具合に何も言う事も出来無ければ何も為す事すら出来無かった。ヒトの子と神の子が改めて生命としての根本から隔絶された存在である事を、彼は改めて認識したのだった。

次回、第444話は1/18公開予定です。

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