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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
442/511

第442話:脱獄③

 それ処か、寧ろ、そういう状況下であっても互いに信頼し合っているという状況が、その信頼をより強固なものへと変質させてくれている始末だった。純粋な人間通しでは決して為せない歪な関係性だからこそ、より特異でより強固な新しい信頼関係を創造しているのだ。


 やれやれ、姿形が変われども、というやつか? まったく、上位階級が為す事はどれもこれもが規格外ばかりだな。


 だからこそ、ワインボルトは、そんな態度振る舞いを覗かせるクオンに対して、並々ならぬ驚愕と称賛を浮かべる。それは、嘗て神龍大戦終戦時に秘密裏にて行われたとある出来事に由来する感情。限られた悪魔と龍のみが知っているとされる、アルピナが今最も大切にしている秘密そのもの。

 故に、仮令この場に居合わせているのがワインボルトとクオン自身のみしかいないとはいえ、それを表立て口にする事は出来無い。何時何処で誰がどの様にこの会話を聞いているか知れず、しかもこの不可視の聖力がそういった情報を媒介するかもしれない。ともなれば、本音としては仮令これが心中の吐露であったとしても露わにすべきでは無いかも知れない。

 だからこそ、ワインボルトは必要最低限に留めつつ、それを自身の心中で保管する程度に留めるのだった。それに、今ここでクオンに言ったって何の意味も無い。加えて、どうせアルピナが何か裏で手を引いているだろう事は確実。だとすれば、そういう細かい一切合切は全て彼女に任せて、後は当たり障り悪遣り過ごす方が断然都合が良い。


「そうか。だったら、早速始めるとするか」


 ワインボルトは、自身の内奥に意識を集中させる。周囲に漂う聖力の気配も、クオンという存在も、そしてアルピナとラムエルが繰り広げる戦いの喧騒も、その全てを意識の範疇から脱落させる事で、己一柱だけの認識領域を生み出す。

 それは、彼が今から為そうとしている事に対する準備。天魔の理から逸脱し、魔力を最大限暴流させ、それによりラムエルが生み出したこの聖拘鎖を破壊する為には、最低でもそれだけの覚悟と準備が必要不可欠だった。

 抑として、生まれた時代が違い過ぎるのだ。片や草創期から旧時代へ移行する時代、片や旧時代が終焉し新たな時代へと移り変わろうとする時代。歴史の根底からしてその土台が異なるのだ。普通が通用する筈も無い事は誰の目からも明らかだろう。

 それに加え、単純に天魔の理が未だ機能を果たしているというのも大きい。確かに、天魔の理は、嘗て第二次神龍大戦勃発時に天使長セツナエルによってその概念を破壊された。神によって各神の子の魂へと刻まれたその不文律を如何やったら破壊出来るのかはワインボルトにも良く分からないが、しかし破壊された事だけは事実である。

 しかし、それは完全に破壊された訳では無い。部分的に破壊されただけであり、そのお陰もあってかある程度の機能は残されている。

 その為、実はこうして地界に居乍ら聖力や魔力や龍脈を最大出力で放出するというのは案外難しかったりする。如何しても理が定める上限付近で抑制が掛かり、自然と逸脱しない様な仕組みが構築されているのだ。

 それでも、部分的に破壊されているからこそ、意識すれば逸脱出来るのだ。それ相応に意識しなければつい理に引っ張られて抑制を受けてしまうが、抑これを施したのが神なのだから、それは致し方無いだろう。

 寧ろ、神が施した理にも関わらず、それをいとも簡単に破壊するセツナエルや、破壊される以前からでも簡単に逸脱しまくっていたアルピナやそれらに影響を受けた一部の強者が異常なのだ。神の力は絶対上位であり、それが仮令最上位階級であろうとも神の子であれば不可逆的な力関係の筈なのだ。

 とはいえ、最早それも慣れたもの。ジルニアやセツナエルやアルピナやスクーデリアといった草創の108柱が好き勝手の跳梁跋扈するのは、何も今に始まった事ではない。ワインボルトが生まれた直後の時代だってそうだったし、何なら彼が生まれる遥か以前の時代からそれは変わらない。クィクィが生まれた時代だって既にそうだったし、ラムエルが生まれた頃だってそうだった。

 だからこそ、そんな一部の例外からは目を逸らしつつ、ワインボルトはワインボルトが出来る範囲で出来る事を出来る様に為すだけだった。中途半端に背伸びをするよりも、地に足を付けた着実な前進こそが、この状況下に於ける最適解なのだ。

 そして、それを体現する様に、ワインボルトは自身の深奥に宿る魂から魔力を湧出させる。悪魔を悪魔たらしめる黄昏色と、彼を彼たらしめる葡萄酒色が綯交ぜされ、人間社会では決して味わう事の出来無い独特の緊張感が辺り一帯を支配する。

 これには、彼と同じくラムエルの聖拘鎖に囚われているクオンも注視せざるを得なかった。それは決して彼の事を信用も信頼もしていないからこそ抱かれる不安によってなるものではなく、単純且つ素直な驚愕と感心によるものだった。

 彼はこれ迄多くの神の子の力を目の当たりにしてきた。最初に契約を結んだアルピナを筆頭に、沢山の天使や悪魔の力をその身で感じてきた。特にアルピナ、スクーデリア、クィクィの三者が持つ力は筆頭であり、四六時中味わい続けてきた。

次回、第443話は1/17公開予定です。

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