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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
437/511

第437話:対面②

 抑、アルピナという存在は悪魔種のみならず神の子全体に於いて非常に有名。そして、有名だからこそ、種族を問わず大勢から尊敬と羨望を受けるのであり、それはラムエルをして例外ではない。

 だからこそ、アルピナから零れるその魔力や威圧は、それこそ世界的アスリートと直に対面した時の純朴な少年少女の様な感動や畏怖をラムエルに与えるのである。

 軈て、漸くとでも言いたくなる様な時間の果てに、アルピナは口を開いた。或いは、体感時間上に於いてのみそう感じるだけであって、現実時間に於いては然程の時間すら経過していないかも知れない。陽の光は疎か人工光源すら存在しない暗黒闇に包まれたこの地下通路に於いて、時の流れを把握する術は存在しなかった。

 その為、時の流れを把握する術はと言えば、精々が両者の体内時計だけ。しかも、直線的時間概念と循環的時間概念の両方を歴史の中で育んできた人間と異なり、神の子である彼女らにとって時の流れに対しする感覚は非常に希薄。確かに一応は年齢による階級差が存在するが、それも数万年から数億年単位。そんな数秒乃至数十秒に左右される様な正確さは持ち合わせていなかった。

 それに、抑として、ヒトの子と異なり、神の子の文化文明には時の流れこそあっても時間という概念は存在しない。暦がある訳でも無いし、時計だって存在しない。年齢だって、あくまでも何処かの世界の何処かの星の暦をその都度参照しているに過ぎない。

 だからこそ、尚の事、そんな些細な無言の一時だって、彼女らからしたら何という事も無い一幕として片付けられるのだ。ちょっとした遣り取り、ちょっとした取り引き、ちょっとした駆け引き。そんなちょっとした感情は、軈て静かに萌芽する。


「態々聞かずとも、君なら既に分かっているだろう? それとも、ワタシの思い違いだろうか?」


「かも知れないね。だったら、この儘引き返した方が良いよ。この先には何も無いからさ」


 あっけらかんと、ある意味では分かり易く、ある意味ではわざとらしい態度振る舞いで以て、ラムエルはアルピナに言葉を返す。朗らかで、陽気で、それでいて何処か不自然な程に可愛らしさを欠片も感じさせられないそれは、寧ろ清々しい程の腹立たしさすら抱かせてくれる。

 だからこそ、それに引き摺られる様に、アルピナは思わずムッとしてしまう。それは、この程度の事柄に一々感情を揺さ振られていては未熟者が過ぎるだろう、と誰もが口を揃えて警告したくなる程の一幕。アルピナとしても、よく他者に対して屡々そう警告している自覚はある。

 だが、それでも、如何しても、それを抑える事が出来無かった。無意識の内に感情が膨れ上がり、そんな分かり易い挑発に対して分かり易く反応してしまう。

 悪魔公ともあろう者が何とも単純だな、という批判が幻聴となって彼女の脳内に反響する。だが、それは否定出来無い事実であり、事実だからこそ、より一層深く彼女の心に突き刺さる。

 それでも、何時迄もそんな精神状況に左右されてばかりではいられない。ラムエルの発言が嘘であり、それがアルピナの心を揺さ振る為の適当な嘘である事は、彼女からしてみても一目瞭然である。数十億年の付き合いなのだ。今更読心術を使う迄も無く、瞳を見れば大体読み取れた。

 だからこそ、倒錯的に、彼女が立ち塞がる道の先に目的としているものが存在する、という事を、アルピナは直感的に把握する。何の根拠も証拠も無い適当な予測でしかないが、それでも今回ばかりはそれで十分だった。

 今更引き返して位置から探し出す訳にもいかないし、何より証拠が無いとはいえ、これだけの大戦力を集結させているのだ。今更此処がハズレだとはどう考えても理解し兼ねた。如何考えても此処がアタリだ、と魂が信号を慣らしてくれていたのだ。


「そうか、それは失礼したな……などと言える筈も無いだろう。これだけの戦力を集めた上に、君だっている。それに加えて、あの天巫女とその側近。今更隠し事をして誤魔化せる訳がない」


 そう言いながら、アルピナは魂から湧出する魔力を手掌に集め、魔法陣を描く。黄昏色に染まるそれは悪魔を悪魔足らしめるに相応しい固有の力を存分に撒き散らし、この暗闇に慣れた瞳の直ぐ目の前で眩い程に輝く。


〈魔弾射手〉


 そんな魔法陣から放たれたのは一発の魔弾。アルピナが持つ彼女の根幹を成す彼女固有の魔力のみによって構築された純粋なそれは、音よりも早く、しかも一切の音や衝撃波を発生させず、溢れんばかりの殺気と殺意に塗れ乍ら、空間を穿つようにして飛ぶ。

 それは、聖獣は当然として、最下級の天使ならその一撃だけで肉体を亡ぼせられ得る程の力込められている。或いは、相性上不利とは言え種族上矢鱈と頑丈な龍が相手であろうとも、それが新生龍ならそれなりの深手を負わせられるかも知れない。そんな力だった。

 とはいえ、アルピナとしてはそれなりに力を抜いた一撃でしかない。ほんのあいさつ程度の戯れ的な一撃を目的としていたし、何より此処が地下だというのが大きい。別に崩落した所で傷一つ負う事は無いが、地上に住まう人間の事を考慮したら、安全が保障出来無いにも関わらず危険を招く訳にはいかなかった。

次回、第438話は1/10公開予定です。

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