表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
435/511

第435話:希望の光

 そして、扉を開けたアルピナは、躊躇無くその先へと足を踏み込んだ。一体何が待ち受けているのか、何を企んでいるのか、誰がいるのか? 確信を穿つ確証を持たない迄も、しかしそんな些末事で二の足を踏む訳にもいかない。

 何より、アルピナは凡ゆる神の子の中でも最上位に君臨しているのだ。多少の強襲があろうとも、そんんな事で何か不都合が生じる筈も無い。それに、クオンを助ける為ともなれば、多少の不利益は致し方無いと諦められる。綺麗清純な儘で彼を助けられる程、彼の存在は神の子という社会構造に於いて低い重要度を持っている訳では無いのだ。

 そうして彼女が扉を抜けた先、そこは相変わらず陰鬱とした空間だった。湿度が高く、苔が生し、何処か黴臭さも感じさせられる。余り長時間留まっていたら、何処かしら身体に悪影響を及ぼすであろう事は容易に想像が付く。ヒトの子の様に貧弱な身体を有していない神の子であるアルピナですら、思わず不快感を相好に滲ませてしまう程には、そこは劣悪な環境だった。

 とはいえ、それでも、背に腹は代えられない。この劣悪な環境は、最早仕方無い事なのだ。幾らラムエル達天使が根城にしているとはいえ、元は古い時代に投棄された遺構。誰かしらの手によって維持管理が為されてきた訳では無い。寧ろ、こうして形だけでも残っているだけでも上出来な迄あるだろう。

 それに、何より、確かに劣悪な環境故に不快感を抱いてしまうのは如何しようも無い事実ではある。しかしヒトの子と異なり本質的に心身が頑丈な神の子であるが故に、あくまでも不快感を抱くだけに留まっていた。

 要するに、あくまでも気持ちの問題であり何かしら目に見える障害を生じる事は無い、という事。その為、その不快な感情にさえ目を瞑れば、後は如何とでもなる。クオンを助ける為、という大義名分がある限り、それは決して無理難題には成り得なかった。

 よって、アルピナはその劣悪な環境に対して盲目となり、黙々と足を進ませ続ける。漸く手の届く範囲に迄到来した希望の兆し。決してこの好機を逃す訳にはいかないだろう。だからこそ、彼女の魂はそれ相応の昂りを奏でて周囲環境を威圧していた。


 ……地下牢か。まさに、この状況には御誂え向きな環境といった所だな。やれやれ、よくこうも都合良くこの様な場所が見つけられたものだ。


 羨ましそうに、同時に呆れる様に、アルピナは心中で呟く。クオンを攫い、幽閉し、何かを企てるに於いて、これ程迄に恵まれた環境はそうないだろう。それ処か、この為だけに用意されたかの様な都合の良さすら抱いてしまう。

 憖、人手不足を原因とする様々な苦労や不都合に悩まされている悪魔種を統括する身の上としては、純粋な羨望すら抱いてしまう。仮令それが偶然だろうとも、結果としてそうした好都合が与えられているともなれば、そこに至る迄の過程や偶然など目に留まらなくなるものなのだ。

 尤も、そんな原因である人手不足、更にそれの原因は何かと問われると、それは神龍大戦による年配層の大量死別へと集約される。そして、更に、それの根本的原因へと視線を移せば、それはセツナエルとアルピナの対立へと帰結する。

 つまり、アルピナが原因——より正確を求めるならセツナエルが諸々の原因なのだが、最早此処迄くるとアルピナにも全く以て原因が無いとは言い切れない——なのだ。よって、そんな原因因子である彼女には、それを羨んでいられるだけの権利など、何処にも存在しない。寧ろ、神の子という種族全体をこの状況に追い込んだ原因としての責任問題を背負わなければならない立場にあるといえる。

 それでも、今は眼前の問題に集中すべきであり、そうした根本に宿る大元の責任問題は、何れある程度喫緊の課題が解決してからにすべきである。だかこそ、アルピナは、そうした羨望や呆れの感情を適当な所で消し去る。そして、寧ろこれからが真に警戒すべき状況だ、という事を改めて肝に銘じ、もう間も無く開講するであろうラムエルに対して、それ相応の警戒心を浮かべる。

 やはり、魔眼が機能しないというのは面倒なのだ。何時何処から誰がどの様に襲撃してくるのかが全く以て予想出来ず、或いはどう待ち構えているのかすらも不明瞭なのだ。何処からどの様にどの程度警戒すべきなのかも分からず、適当に矢鱈滅多らに警戒と防御を張り巡らせるしか無かった。


 ほぅ。


 とはいえ、それでも、如何やら希望の光とは実際に見えるものの様だ。アルピナが歩く道の先、つまり彼女の視線の先。これ迄一寸先すらヒトの子の肉眼なら決して見通せない程の漆黒に塗れていたそこに、微小乍らも確実に光が灯されていた。決して嘘偽りや希望的観測に引っ張られた妄想的願望や幻視などではなく、明らかな人工的光源が、アルピナを手招きしていたのだ。

 だからこそ、アルピナは思わず頬を綻ばせる。温かさの欠片も無い、何方かと言えば冷笑とでも形容すべきそれは、冷徹で、傲慢で、猟奇的な色香が漂っている。彼女を彼女足らしめるそれは、クオンを助け出すという唯一絶対な夢を眼前に捉えた、彼女なりの喜びなのかも知れない。

次回、第436話は1/8公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ