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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
433/511

第433話:アルピナの思い

 そういう訳で、サバト一帯は、溢れ出る殺気と衝撃により恐怖と絶望に苛まれる事となってしまっていた。しかし、生憎とも言うべきか、仕方無いとも言うべきか、肝心の当事者達にそんな事情が伝わる事は無かった。そんな周囲事情には欠片たりとも気付く事無く、彼彼女らは神の子としての威厳を存分に撒き散らして激突するのだった。



 そんな中、敷地の外がそんな状況になっているとは全く以て認識していないアルピナは、相変わらず陰鬱とした地下通路を闊歩していた。尤も、彼女にとって大切なヒトの子はクオンだけであり、それ以外のヒトの子やその生活環境が如何なろうとも、転生の理に影響を及ぼさない限りは知った事では無かったのだが。


 ……やれやれ、地上は騒がしいな。ワタシも負けていられないな。


 それでも、地下という事もあってか、全く以て認識出来ていない訳では無かった。寧ろ、衝撃が地面を介してダイレクトに伝わってくるし、滲出する聖力や魔力が肌感覚で伝わってくる。

 聖力の障壁に疎外されている為に魔眼が使用出来無いのは相変わらずだが、それでも、認識出来るもものは出来る。加えて、長い時を生きた経験に土台された思考回路は、その衝撃や肌感覚だけで地上の様子を大雑把乍らも明るくする。どの個体がどの個体とどの様に争いどの様な結果が生じているか、というそれは、確証こそ無いものの、それでも決して誤りではないという確信だけは揺るがなかった。

 だからこそ、こうしてのんびりと歩いている自身の心に対して、彼女は多少乍らの焦燥感を抱き始めていた。未だ降り積もらせて爆発する程では無いものの、それでも到底無視出来得る許容量を超えている事は確実だった。

 安い石鹸の様に擦り減らす心、根雪の様に降り積もる焦り。それは、傲慢で冷酷な本質的性格を対外的には余程の事情が無い限り曝け出す事の無いアルピナの心にも着実に積もりつつある。微かに相好にすらも滲みつつあるそれは、それを見る者がこの場にいない事が何よりもの幸運だった。

 こんな表情、誰かに見られでもしたら堪ったものではない。見られて何かが減る訳では無いが、悪魔公としての尊厳や彼女という個体が持つ矜持が音を立てて崩れ落ちてしまいそうだった。尤も、既に昨日、王都であれだけ暴れたのだ。今更取り繕って本心を覆い隠そうとも、全てが無駄で終わる気も否めないのだが。

 それに、アルピナが今現在心に宿している本心は、ほぼ全ての悪魔と龍が認識している所。天使に至っても、昔からの事情を把握していて且つ今現在繰り広げている天使-悪魔間の抗争に深くかかわっている上位階級ならある程度の見通しが立ちつつある。

 その為、どれだけ取り繕っても、どれだけ覆い隠しても、知っている者の前では滑稽であり知らない者の前では違和感の種でしかないのだ。憖、普段が冷静沈着寄りな性格をしている事もあってか、それは尚の事だった。

 それでも、そんな事はアルピナ自身が一番深く理解している事である。自分の事なのだ。それは当然だろう。そして何より、こうなってしまったのは自分の責任なのだ。昨日の王都での一件だって、第二次神龍大戦の終戦を齎す事となったあの事件だって、第一次神龍大戦を勃発させる事となったあの対立だって、その全てにアルピナは関与している。

 だからこそ、今更そんな己の感情に対して盲目になる事など到底出来る筈も無い。どれだけ取り繕うとも、どれだけ誤魔化そうとも、そしてそれがどれだけ下手糞だろうとも、どれだけ無様だろうとも、引き返すという選択肢を取れる程の厚顔無恥さはアルピナをしても用意出来無かった。

 フッ、とアルピナの口元に、微かな笑みが浮かぶ。冷徹で、冷酷で、傲慢で、それでいて同時に何処か自嘲的なそれは、正しく彼女の本心だろう。クオンを助けたいという思い、クオンを攫った天使に対する怒り、それを防止出来無かった上に即時的な対処策も実行出来無かったのだ。そんな感情が浮かばない方が薄情というものだろう。

 アルピナは意外と繊細なのだ。加えて、思いの外真面目な性格をしている。対外的には強がった態度振る舞いを曝け出してはいるものの、その背後心理としては年頃の女の子みたいなハートを宿している。それこそ、スクーデリアがついその性格から親心にも似た慈しみだったりを抱いてしまう程には可愛らしい性格をしている。

 彼女自身がそんな本質を理解しているのかは不明だが、兎も角彼女は只管に地下通路を進む。時折聖獣や中位三隊及び下位三隊の天使達が襲ってくる以外は平穏そのもので相変わらず陰鬱としたその道を、彼女は只管に進み続ける。

 果たして、この道の先にクオンはいるのか? ワインボルトはいるのか? こうして天使と直接的な戦闘行為に発展したのだからそれ相応の何かが隠されている事は確実だろう、という勝手解釈に基づいた期待を胸に宿しつつ、彼女は聖獣及び天使を蹴散らしつつ足を進み続ける。

 幸い、この聖力による疎外の影響下に於いても、魔剣と魔眼は正常に機能している。加えて、聖獣や下位階級の天使なら、どれだけ多数で群れようともアルピナにとっては大した脅威に成り得ない。羽虫が群がる様な鬱陶しさを感じる程度であり、だからこそ彼女は臆する事も遠慮する事も容赦する事も無く、淡々と処理しつつ先へと進むのだった。

次回、第434話は1/4公開予定です。

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