第432話:周囲への被害
そうして、クオンとワインボルトが其々自身の立場状況を明確に把握した上で、其々が出来る事を如何にかして実現しようと瞳を輝かせている頃、地上ではそれなりの規模で戦闘が繰り広げられていた。
一つは、スクーデリア対アウロラエル。一つは、クィクィ対雑多な天使達。一つはヴェネーノ対雑多な天使達。
何れも、この狭い敷地内で戦闘を完結させるのは少々無理がありそうな顔合わせであり、取り分けスクーデリア対アウロラエルの構図に至ってはその傾向が顕著だった。
何方も、神の子全体という枠組みで見た時に最上位に近い位階に数えられる存在なのだ。二つの神龍大戦はおろか、それ以前である原始の時代から——スクーデリアに関してはそれより更に以前である草創の時代から——生き続けているに相応しいだけの膨大な力を彼女らは無条件に有している。
その為、彼女らの価値観や力の基準は基本的に神界や蒼穹といった環境、人間の知識に照らし合わせると外宇宙と形容出来る環境に準拠している。よって、この程度の狭い範囲内で完結させるの最早不可能と言って差し支えないのだ。
また、クィクィ達の戦闘やヴェネーノ達の戦闘に関しても同様である。生まれた時代や生きた時間が彼女ら程古かったり長かったりする訳では無い為、スクーデリア達の戦いと異なり多少は大人しいが、それでも人間の価値観で定められた敷地範囲では狭過ぎるのは言わずもがな。
敷地内の各所からは激しい爆発や衝撃が吹き荒ぶ。嵐と呼ぶのも烏滸がましい程の苛烈さと過激さで吹き荒ぶそれは、何故周囲一帯が更地と化していないのかが不思議な程だった。
だが、それは、恐らくその力のお陰だろう。人間が人間の科学技術を用い人間の生活圏で人間レベルの争いをしているのとは異なり、彼彼女らは何方の陣営も総じて神の子である天使乃至悪魔であり、生命としての上位存在故にヒトの子とは根本的な枠組みが異なる。
言ってしまえば、上位存在が上位存在としての力を用い下位存在の生活圏で争いをしている様なものである。その為、周囲に破壊的影響を与える事無く力を放出する事が出来無い筈が無い。上位存在として、下位存在が主導する森羅万象に恣な介入が出来無い筈が無かったのだ。
それでも、全く以て無影響、というのは、流石の彼女らでも出来無かった。いや、正しく言えば、彼女らの様な存在だからこそ出来無かったのだ。
というのも、彼女らの中には神の子全体で見ても強大な力を有しているものがいる。その代表例がクィクィであり、彼女の実力は長い長い神の子の歴史で見ても上から数えた方がよっぽど早い程である。同種であればあのアルピナやスクーデリアにさえも追い縋れる程であり、神の子で彼女を知らない者はいないだろう程の有名者である。
その為、、そんな彼女の力は単純に強過ぎるのだ。それこそ、天魔の理で放出魔力量を制限した上でなるべく力を抑えても、天魔の理の影響下で好き勝手するヴェネーノより数倍上なのだ。決して冗談でも誇張でも無く、それはヴェネ―自身も認める所。
その結果、幾らヒトの子の文化文明に影響を及ぼさない様な介入を加えても、影響を抑えきれないのだ。結果として、進出する影響が段階的に大きな破壊を誘発し、それがこの敷地内を飛び出してサバトの街地全体に波及しつつあったのだ。
とはいえ、だからといって、今更そんな事を気にして何か対策を施す事は無い。確かにクィクィは自他共に認める程にヒトの子好きであり、取り分け人間種に対する好奇心と愛情は神の子一だとされている程。尤も、それはヒトの子同士が織り成す純愛というよりは、人間が愛玩動物を愛でる様な感情に近いのだが。
兎も角、それでも、言い換えればその程度でしかないという事である。あくまでもヒトの子は管理すべき対象の一欠片でしかないという前提条件までは揺ぎ無く、その魂が如何いう影響に曝され様とも転生の理が正常に機能する限りはそれで良いのだ。
だからこそ、その敷地内は嘗て無い動乱が間断無く反響する事となる。レインザード攻防戦やベリーズ近郊の争乱を彷彿とさせる激しさをより狭い規模に濃縮させ、サバトで暮らす無関係の人間達を恐怖に淵から叩き落す。
それでも、唯一幸いなのは、アルピナ達による聖職者狩りは別として、この天使達悪魔の争乱に於ける目に見えた人的及び物的損害が未だ生じていない事だろう。
とはいえ、それはヒトの子からしてみれば嬉しい事だろうが、悪魔からしてみれば余り嬉しくない、というのも、クィクィ達上位階級の神の子が持つ過剰な力が外部にそれ程漏れ出ていないのは、この敷地内に施されている聖力の障壁がそれを減衰させている為に他ならない。まさか自分達を貶める力に助けられるというのは何とも皮肉なものだが、しかし立場上ヒトの子に対して危害を加える事はクオンとの信頼に罅が入り兼ねないと危惧しているクィクィ達にとってみれば、完全遺拒絶出来無かったのだ。
次回、第433話は1/3公開予定です。




