表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
431/511

第431話:状況打破の手は……?

新年あけましておめでとうございます! 2024年も引き続き、どうぞよろしくお願いします!

 その為、だからこそ、如何にかしてこの状況を打破出来る手段を確立しよう、とクオンは思考を働かせる。憖、これ迄の旅路は基本的にアルピナ達に振り回されるかアルピナ達に従うかばかりだった。これ程迄に主体的な思考を要求されたのは久し振りかも知れない。

 だが、現実として、抑としての上下関係が如何しようも無い程に強固である。神の子とヒトの子という絶対的な上下関係がこの世の理として不変的に存在している手前、どれだけ考えてどれだけ複雑な手練手管を張り巡らせようとも、その全ては容赦無く叩き潰される未来しか見えなかった。


 ……だが、如何する? アルピナ達に全て丸投げするのは確実だが……かといって此方から何もしないというのもな……。何か、この状況を少しでも揺さ振れる方法があれば……。


 声に出さず、ワインボルトとの精神感応に乗せず、ラムエルの読心術に悟られない様に、クオンは魂の深奥で思案する。だが、どれだけ悩んで悶えようとも、だからといって天啓が与えられる訳では無い。アルピナ達の話によれば神は実在する様だが、如何やらそう簡単に手を差し伸べてくれる訳では無い様だ。実際、そんな簡単に手を差し伸べてくれるならこんな状況に陥る事は無かっただろうし、抑として天使と悪魔が対立する事もそれに人間が巻き込まれる事も無かっただろうが。

 それに、確かにクオンは初めから神を信じていない訳では無いが、かと言って妄信乃至偏信している訳でも無い。いれば良いな、程度の信仰心しかなく、だからこそ、天啓が降り下りてこなくとも絶望の色香を覗かせる事は無かった。

 務めて冷静に、能力を過大にも過少にも評価せず、客観的視座を維持し、微かな切っ掛けを皮切りに微かな変化を確実に手繰り寄せる事のみに意識を集中させる。それは、身と心がヒトの子でしかない彼には非常に難しい事。それでも、それをしなければ、その先に待つのは死だけである。

 というのも、神の子は復活の理により、死後一定期間が経過すれば多少の力を犠牲にして生き返る事が出来る。しかし、ヒトの子の場合、介入したのが天使か悪魔かで変わるものの、その魂は輪廻乃至転生の理に流される。しかも、その際、記憶は全て消去するのがルールである。

 その為、若し死を迎えてしまった場合、これ迄の旅路が全て泡沫の夢へと弾けてしまうのだ。つまり、神の子ならまたもう一度やり直せば済む程度でしかないそれも、ヒトの子である彼にとっても見れば死活問題といって差し支え無いのだ。

 憖、現在クオン・アルフェインと名乗っているこの魂は、アルピナにとって非常に大切な個体。一見して何処にでもある普通の一個体でしかないそれも、彼女にとってみればこの世に存在する凡ゆる宝物よりも貴重であり重要なのだ。

 その為、如何なる事情があっても、この魂を輪廻乃至転生の理に流す事による行方不明状態に陥らせてはならないのだ。若しそうなってしまっては、次何時何処で肉体を与えられるかは誰にも予想が付かず、果たして何万年後になるか皆目見当が付かない。

 しかし、クオンは、自身の立場上の理由だったり種族上の無知故だったりの為に、その事実には気付いていない。ちょっと悪魔達が執心深く自分に関与してくれるな、という程度の認識であり、或いは朧気に、何か事情があるのだろう、と予想する事しか出来ていない。

 それでも、幾ら輪廻乃至転生毎に記憶が消去され様とも、魂に刻まれた記憶迄は消されない。抑、そうした魂に刻まれた本能的徳を積み重ねる事によってより崇高な魂へと押し上げる事が、輪廻及び転生の本来の目的なのだ。

 故に、強ち彼の思考は間違ってなかったのだ。無意識の内に、極自然な流れで、魂に刻まれた記憶が彼の思考を正解へと導いてくれていたのだ。

 一方、そんなクオンの思考回路を朧気に掴み取ったワインボルトはというと、彼は彼でこの状況を打破する方策を練っていた。それは、クオンの事を、同じ状況を共有する仲間として、同種と契約を結んだ同胞として、そしてアルピナの執着心の要因となる彼の魂の記憶に対する信頼としての覚悟であり、だからこそ尚の事、決して彼をこの場で死なせてはならないと決心するのだった。


『そうだな。だったら、少しくらい暴れてみるのも悪くは無いだろうな。徒に時間を浪費する愚行に比べたら、選択肢を広げるという目的に於いてはこれ以上の手段は無い』


 ワインボルトは、冷たく猟奇的な笑みを微かに浮かべ乍ら精神感応上でそう呟く。同時に、その葡萄酒色の瞳を静かにクオンの方へと向ける。

 彼に悟られない様に、しかし大胆に、その瞳は彼の心身を舐め回す様に見据え続ける。本当なら、魔眼を開いて彼の魂を深奥迄詳らかにしたいのだが、機能しない以上は仕方無い事。少々心細さというか心許無さがあるものの、肉眼で我慢するしか無かった。

 それでも、神の全体としては短い乍らも、しかし経験を積むには十分過ぎる程の時を、彼は生きてきた。その為、これ迄得てきた経験を踏まえつつ、彼は何か神妙深い面持ちを内包する肉眼を、薄暗く陰鬱とした地下牢の中で鈍く輝かせるのだった。

次回、第432話は1/2公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ