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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
430/511

第430話:希望と期待

『アルピナが?』


 まさか、という困惑。或いは喜び。決して彼女の事を信じていない訳では無いが、しかし人間としての常識から逸脱した特異な存在であるが故に、未だについ不信を働いてしまう。彼女には申し訳無いが、これも人間としてのサガなのだ。如何する事も出来無い、と理解した上で諦めてもらう他無いだろう。

 とはいえ、彼女がそんな事で一々不貞腐れる程狭量な性格をしていない事もまた事実である。口でこそ自虐的に一言文句を吐き零すだろうが、それでもそれすらも適当に笑い飛ばし、何時もの様に傲慢で冷徹な相好を浮かべるでああろう事は様に想像が付く。

 それは、短くも濃密な旅路で得た経験に基づく確信的な信頼。人間と悪魔という本来であれば基本的に相互に認識し合いつつ交流する事の無い、抑としての枠組みが異なる異種族同士。だが、だからこそ、より印象的に、より情熱的に、互いの事を強く認識しつつ認め合う事が出来るのだ。

 故に、その困惑なのか喜びなのかそれ以外の感情なのかも良く分からない感情を湧出させるクオンは、しかしその直後に自身が明確な喜びの感情を心の奥底処か魂の深核から滲出させているのを自覚したのだった。

 それは、悪魔という異生物に対する確信であり、アルピナという一個体に対する友情であり、或いは彼女を始めとする仲間に対する信頼でもあった。人間としての常識から逸脱したこの世の中を動かす本来のシステムに則った、由緒正しい感情だった。

 そして、そういう感情を抱いていると自覚出来たからこそ、今この瞬間にこの絶望的で非滅的な状況下に於いて、たった一つ乍らも決して遮られる事の無い希望の光が天頂より降り注いだ事に気が付いたのだった。

 それは何とも大げさで何ともバカげていて何とも巫山戯た言い回しだろうか。しかし、身と心が人間でしかない彼にとって、天使に攫われて幽閉されているという現状は、実態以上の恐怖と絶望とを重く背負わなければならない。

 そして、だからこそ、信頼出来る相棒がこうして直ぐ近くに迄来てくれたという現実は、その真実以上の希望として熱く降り注いでくれるのだ。それこそ、死の川底から蘇ったかの様な希望であり、これ以上無いサプライズプレゼントだった。

 だが、現状クオンの魔眼には、アルピナ達が来ているという情報は齎されていない。異空収納の中に直隠しにしている遺剣を無理矢理身体と結び付けて弱々しい龍魔眼を開いてもそれは変わらない。その為、ワインボルトがそう予測しても、それを確信出来るだけの証拠も根拠も存在していない。

 それでも、クオンはその予測を信頼する。いや、正しくは、信じなければならなかった。そうでもしなければ、この状況下を耐えられるだけの心はもう殆ど存在していなかったのだ。勿論、最後の瞬間までは足掻くつもりだが、その最後の瞬間が直ぐにでも到来してしまいそうだったのだ。


『とは言っても、単なる予想に過ぎない、過度な期待はしない方が良いだろうがな』


 ワインボルトは、そんなクオンを嗜める様に諭す。上位存在として、或いは年長者として、将又同胞として、彼はクオンを導かなければならなかった。

 アルピナ、スクーデリア、クィクィ、ヴェネーノと其々同時に契約を結んでいる上に、更にはジルニアの力迄その身に宿しているのだ。そうしなければならない理由もあって当然だろう。取り分け、あのアルピナが魔力を譲渡しているのだ。そこにジルニアの力が介在しているともなれば、神龍大戦に関連する彼是との結び付けも考慮して動かなければならないだろう。

 尤も、仮令そうでなくとも、この状況を共有し合った仲間——仲間というのはちょっとばかし烏滸がましいかも知れないが、兎も角仲間だ——として、ワインボルトとしてはクオンの事を見捨てる積もりは無かった。

 それは、若しかしたら、神の子としての本能に由来するヒトの子への情けかも知れない。或いは、神の子同士の争いのヒトの子を巻き込んでしまった事に対する贖罪かも知れない。何れにせよ、体裁だけの恰好ではなく、心からそうしようとは思っていた。


『それでも、希望も何も無いよりはマシだ。その仮定があるだけで、選択肢は幾らでも広げられる』


 クオンは、アルピナ達が直ぐ傍迄来ているかも知れない、という期待を土台にした希望的観測を精神感応に乗せる。表向きこそラムエルからの拷問に苦痛してるかの様な印象を零しつつ、内面では希望に夢を見出していた。

 とはいえ、ラムエルからの拷問が全く以て苦痛になっていないかと言われれば、決してその限りではない。どれだけ悪魔や龍の寵愛を受けているとはいえ、本質的には人間、つまりヒトの子でしかないのだ。その上で、仮令逸脱者としての最上位階級である勇者の領域に至っているとは雖も、しかし神の子からの拷問に耐えられる様な心身を持っている訳では無い。

 しかも、ラムエルは天使の中でもほぼ最上位といって差し支え無い程の高位である智天使級天使である。且つ、クオンに与えられた寵愛のほぼ全部を占めるのは悪魔からの契約であり、神の子三種族間の相性差と照らし合わせれば非常に分が悪い。辛うじて、ジルニアの寵愛である遺剣のお陰で少しばかり中和されているとはいえ、それは殆ど出涸らしの様なものでしか無く、気持ち程度の際しかない。

 ともなれば、ラムエルの拷問はクオンにとって非常に大打撃であり、その表向きの表情以上に心身の状態は劣悪を極めている。それこそ、何時限界が来ても可笑しくは無く、一刻の猶予を争うと言っても差し支えは無いだろう。

次回、第431話は1/1公開予定です。

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