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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
429/511

第429話:朗報

 一方、そんなラムエルの直ぐ傍で蹲るクオンとワインボルトは、其々ラムエルの相好から外で何が起きているのかを読み取ろうとしていた

 聖力の障壁により魔眼も龍魔眼も正常に機能しない今、この閉鎖空間下に於いて外部の状況を知れる手段といえばそれしか無い。外部の状況を詳らかに出来る天使から間接的に情報を得るというその唯一の手段だけが、彼らの希望を繋ぎ止める最後の希望の星だったのだ。


 ……外では何が起きてるんだ? ラムエルの態度振る舞いからして何かが起こった事は確実なんだが……。


 クオンは、ラムエルの瞳を見据え乍ら思案する。果たして何が起きているのか、と持ち得る知識と経験を総動員して思案し、如何にかして尤もらしい仮定を引っ張りだそうとする。

 しかし、どれだけ考えても、それらしい考えが出て来る事は無い。単純に、知識も経験も不足していたのだ。抑、クオンは元々只の一般人。魔獣基聖獣に襲われていた所をアルピナに助けられて初めて神の子を中心として彼是の知識を得たのであり、それ以外は何処にでもいる一般人と大差無い。

 その為、彼の思考の土台は未だに人間としての域から逸脱していない。その力や周囲の環境から人間としての枠組みを逸脱した上位存在の容易に誤認してしまいそうになるが、彼は未だ未だ人間でしかないのだ。

 故に、天使である彼女の思考を人間である彼が推し量る事は出来無い。抑としての思考回路が異なる上に、前提としての知識や思考の癖が異なるのだ。こうなってしまうのは仕方無い事だろう。

 それでも、彼は諦める事は無い。如何にかして僅かばかりでも情報を得られたら、そこからこの状況を打破出来る何かが見つかるかも知れない。それならば、仮令どれだけ確率が低くてもそれを試すに損は無いだろう。

 一方、そんなクオンに対して、ワインボルトはというと何処か達観した様な相好をしていた。或いは、安堵や信頼と形容した方が良いかも知れない相好だった。

 果たして、それは如何いう意図の基に作られた相好だというのか? この危機的且つ絶望的な状況下に於いて作られる相好では無い事は、悪魔である彼と異なり人間であるクオンでも確信で驪う。だからこそ、余計に、この状況下に於いて彼の相好及び態度は正しく異様と言った差し支え無い代物だった。


『その表情、何か気付いたのか、ワインボルト?』


 精神感応を繋ぎつつ、クオンはワインボルトに尋ねる。聖力の障壁に辺り一帯を包まれたかの状況下に於いても、障壁内部同士であり且つ相互の存在を認識出来る距離感であれば精神感応を繋ぐことは可能だった。

 尤も、この聖力の障壁がある種の探知機の役割を果たしているのか、どれだけ魔力を秘匿しようとも直ぐにバレてしまう様だが。それでも、具体的に何を話しているか迄は認識できない様なので、そこに関しては安心だった。

 それに、ラムエルの態度振る舞いを見る限り、これを制止する様な余裕は無い様子。果たして何が彼女の心からこれ程迄に余裕を排除しているのかはクオンには皆目見当が付かなかったが、しかし幸いであるのならそれを幸いとして受け取る事に躊躇いは無かった。

 尚、勿論、若しかしたらアルピナ達が助けに来たのでは、という期待が無かった訳では無い。確かに彼女らとは短い付き合いでしか無いが、しかし薄い付き合いでは無い。それなりに死に掛けたとはいえ、だからこそ濃密で綿密な関係性を構築出来たという自覚さえある。

 だが、この状況下でそんな都合良く助けが来るとはとても思えなかった。というのも、此方から外部の情報が得られないという事は、言い換えれば外部から此方の情報も得られないという事である。果たしてアルピナ達がこの聖力の障壁の影響を受けるのかはクオンにも分からないが、しかし決して彼女らを侮辱している訳でも無い事は事実である。それでも、最悪は想定して損は無い筈だった。


『恐らくだが……アルピナ達が来たのかも知れないな』


 だからこそ、ワインボルトから齎される朗報には、思わず相好を綻ばせてしまいたくなる。それ程感情豊かで明るい性格をしている自負は無いが、それでもこの殺伐とした状況下に於いて、アルピナ達が来たかも知れないという情報は、その前提を破壊出来るだけの希望の力が込められていたのだ。

 それでも、だからこそ、その気付きを表面化させてはならない。現状、ラムエルは、此方は聖力の障壁に阻まれて何も気づいていない、という前提に基づいて行動しているのだ。

 それは詰まる所、油断であり、慢心であり、認識の相違である。言い換えれば、彼女の虚を突ける唯一かつ絶対の弱点であり、この状況を打破出来る唯一の突破口でもあるのだ。

 その為、この気付きは決して気付かれてはならないのだ。この状況を逆転出来る時が訪れた際に然るべき行動と然るべき反撃が出来る様に、その瞬間迄は何が何でも秘匿しておかなければならないのだ。

 だからこそ、クオンは理性でその相好を無理矢理押し込んで平常心を保つ。ラムエルから受けた種々の拷問乃至尋問に苦しみ倒れている振りをしつつ、ワインボルトの精神感応に対して真っ当且つ素直な感想を露わにするのだった。

次回、第430話は12/3029公開予定です。

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