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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第426話:地下通路②

 ……あの子達も漸く戦いを始めたか。やれやれ、ワタシに影響を及ぼす事は無いとはいえ、この地下通路を崩落させなければ良いのだが……。それにしても天使達がこれ程迄に抵抗を見せるという事は……やはり、此処が正解とみて間違い無い様だな。


 だとすれば、アルピナの心に巣食う不安は一つ消え失せた事になる。その不安とは即ち、此処がハズレの場所だったという仮定である。

 抑、神の子全体で見ても最上位階級に君臨する彼女にとってみれば、天使との闘いそのものに関しては何ら問題として見做せない。それこそ、セツナエルが相手でも無いかぎり、基本的に負ける事は無いのだ。或いは、同じ草創の108柱だったらそれ相応の苦戦は強いられるだろうが、しかし言い換えればそこ迄突き詰めなければアルピナにとっての脅威には成り得無いのだ。

 それに対して、ハズレを掴まされるという結果に対しては、アルピナをしても如何しようも無い。只でさえ魔眼を出し抜く奇妙な聖力が至る所に充満しているのだから、寧ろそうなる可能性の方が余程高いだろう。

 悪魔としてのプライド、或いは最古の存在としてのプライド。それらが彼女の心を無意識の内に土台しているからこそ、それらに傷を付ける様な結果が齎されるかもしれないという恐怖乃至不安は常に付きまというのだ。

 しかし、兎も角として、如何やら幸いにもそんな悪い結果が齎される事は無かった様子。勿論、未だ確定情報では無い為に決して安心も安堵も出来無いのだが、それでも、宙ぶらりんな不安にさいなまれ続けるよりは幾分かマシだろう。仮令極僅かでも安心方向に天秤が傾いたのだから、それだけで十分儲けものだった。

 だからこそ、それを示す様に、アルピナの足取りは軽やかになってゆく。それは宛らピクニックの様に。しかし、それでいて、長き時を生きてきた上位存在としての威厳や彼女を彼女足らしめる根源的な冷徹さを感じさせる強かさも併せ含んでいる。

 コツコツ、と靴音がその地下通路に反響する。宵闇に溶けて萎むその音は、耳に五月蠅い程の静けさとなってアルピナの元へ帰ってくる。果たしてこの道が何処迄続いているのか。そんな距離感を失調させる静寂は、重く冷たい圧となって彼女を包み込んでいた。


 やれやれ、つまらない道のりだ。せめて、天使と迄は言わずとも聖獣の一柱でも襲撃してきてくれれば、少しは暇潰しにもなるのだが……。


 徒に魔力を零れ落とし、ワザとらしく挑発的な覇気を垂れ流し、アルピナは大きな溜息を零す。無機質で変わり映えのしない壁を眺め、染みや罅割れをなぞり、何も変わらない事に対して只無言で呆れるだけだった。

 だが、そんな事は分かり切っていた。まさか彼彼女ら天使がそんな大々的なお出迎えをしてくれるなんて期待はこれっぽっちも抱いていなかった。そんな事をするのは精々バルエルの様な変わり者だけだろう。

 だからこそ、アルピナはそんな心情を溜息と共に吐き捨て、改めて道を進む。角を曲がり、階段を上下し、分岐を気紛れで曲がり、果たして道が合っているのか間違っているのかすら確認する事も無く、直感だけを頼りに進んでいく。


 やはり、魔眼が使えないというのが何とも惜しい。若し魔眼が正常に機能するのなら、地下通路全体に隈無く満ちる様に魔力を放出すれば、後はそれを魔眼で浮かび上がらせるだけで全ての構造を丸裸に出来た。しかし、魔眼が使えないからこそ、どれだけ魔力を垂れ流してもそれを観測する事は出来無い。

 それに、抑として魔力を放出出来ているのかすらもあやふやになっている。若しかしたら放出した途端に周囲に満ちる不可視の聖力で上書きされているのかも知れない、という仮定だって立てられる。一応、理論上は可能である。態々それをして迄得られる価値が無い為にする者がいないだけだ。

 それでも、結果がどうであれ、その結果がアルピナに影響を及ぼす事は基本的にあり得ない。余程類稀な才能でアルピナの予想も想定も上回るのであれば、場合によっては困惑するだろうが、攻略出来無いなんて事には成り得ない。

 しかし、何方にせよ、それがこのくだらない散歩を劇的に変える劇的な刺激になるのだとしたら、アルピナとしては喜んで受け入れるだろう。勿論、クオンに悪影響を及ぼさない事が必要指定減の条件だが、それはそれとして悪魔としての本能が騒いでいるのだった。

 だからこそ、アルピナは気分を昂らせてその地下通路を闊歩する。その戦闘意欲が無意識の内に魔眼を発露させ、臨戦態勢を本能的に整える。魂が魔力を産生し、血液に乗せて全身に満ち、悪魔を悪魔足らしめる凶悪的な殺気を全身から迸らせる。

 肩の長さの髪を靡かせ、猫の様に大きな瞳を輝かせ、アルピナはその地下をより深くより深く進んでいく。遥か彼方の過去に彼女自身を戒める事となったとある約束を果たす為に、そして天使との闘いの終止符を打つべく、何処かに囚われているクオンを宛ら犬の様に本能と欲望で探り出す。

次回、第427話は12/26公開予定です。

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