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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
425/511

第425話:地下通路

 そうしてスクーデリアがアウロラエルとの戦いを開始した頃、アルピナは一柱で敷地の地下を探検していた。とは言っても、そんな心躍り胸高鳴る事柄では無く、あくまでもクオン——といるのか不明だがワインボルトも——の救出を目的としたもの。その為、決して感情的には喜ばしいものではなく、警戒と不安が常に渦巻く薄暗いものだったが。


 ……やれやれ。予想通り、余り良い環境とは言えないか。


 その地下通路は非常に暗い。それこそ、仄かな灯火の欠片さえも存在せず、自分の身体が何処にあるのかすら全く以て認識出来無い程の暗闇だった。地価という構造上こうなる事は当然であり、アルピナとしてもそれは想定内だった為、特に意外性は無いが、それでも溜息が出てしまうものではある。

 とはいえ、彼女は神の子である。ヒトの子という軟弱な下位存在とは根本的な面で大きく異なっている。その為、ヒトの子では何も見えない一欠片の光も無い漆黒の空間だったとしても、彼女の瞳には昼間と同程度の視界が確保されている。

 しかも、それは魔眼を使用した場合に限った話ではなく、肉眼での話である。抑、この聖力の影響下ではスクーデリアの不閉の魔眼でも無い限り魔眼を機能させる事は出来無い。それは、アルピナ程の魔力量を以てしても同様であり、量ではなく質の問題である事を突き付けられる。

 兎も角、そんな訳で、アルピナは一寸先すらも見えない暗闇の中を平然と歩んでいく。魔眼による周囲の状況把握が出来無い事から、常に警戒心の糸を張り詰め、何時何が起きても良い様に魔力を全身に循環させる。

 しかし、やはり、魔眼が機能しないというのは何とも心細いものなのだろうか。憖、常日頃を魔眼による状況把握に頼り切っていた上に、この地下通路がそれなりに狭い事もあり、如何しても視界が狭まってしまう。だからこそ、不意な遭遇が仮にあった場合、どうしても聖眼を使える天使に対して一歩出遅れてしまうのだ。

 それに、屋外の様に天井が開けている訳でも無いし、空気も沈殿している。一応、紙の子であるが故に呼吸は必ずしも必要な訳では無い為、どれだけ空気が沈殿して酸素が欠乏していようが抑として空気が存在していなかろうが関係は無い。実際、地界に存在する生命が存在可能な惑星にしか空気は存在せず、天界にしろ魔界にしろ神界にしろそれ以外の凡ゆる領域に空気は存在していない。

 それでも、やはり淀んだ空気というのは如何にも気分を重くする。クオンを助ける為にならこの程度の事で弱音を吐いている暇など何処にも存在しないのだが、しかし気分と活動は密接な関係性がある以上、戦闘行為のパフォーマンスにも少なからず影響を及ぼす事は確実。

 勿論、そんな事でたかが天使如きに敗北を喫する事など如何なる情況であろうとも対セツナエル以外なら有り得ない。だからこそ、そんな心情とは裏腹に、彼女の相好は何時もと変わらない傲慢さと冷徹さと可憐さが入り混じるものが浮かんでいた。


 ……予想通りというか……やはり、広いな、この地下空間は。とても、あの敷地内に広がっているだけとは到底思えない。


 尤も、広いとは言っても、それはヒトの子の文化文明や生活環境に照らし合わせた場合の話である。純粋な神の子としての価値観や生活環境を基準にすれば、寧ろ狭すぎる。蒼穹や神界といった広大な空間を知っているからこそ、それに適応する為の身体構造を有している為、この程度であれば殆ど時間を掛けずに調べ尽くせる。

 それでも、アルピナは敢えてのんびりと歩いて散策する。それは彼女の気紛れであり、好奇心であり、享楽である。大して面白味も無い陰鬱とした地下通路に無理矢理楽しみを見出し、何時かしら何処かしらから襲撃してくるであろう天使達に対して勝手都合な楽しみを見出していた。

 クオンの事が心配じゃないのか、と言われた、勿論心配である。それこそ、今直ぐにでも昨日の様に魔力を垂れ流しにして暴れ散らかしたい程には焦燥しているし、押しつぶされそうな不安が常に魂に渦巻いている。

 それでも、焦ってばかりいては好機を失するのは何もヒトの子に限った話ではない。神の子であろうともそれは同様であり、アルピナだってそれは長い長い時の中で嫌という程に実感している。

 だからこそ、クオンなら大丈夫だろう、という勝手な信頼の基、アルピナは焦る事無く着実に進んでいく。決して立ち止まっている訳では無い。歩けるなら進めるし、進めるなら辿り着くのだ。それに、のんびりとは言っても一日二日と要する訳でも無い。そう遠くない内に目的へと手が届く事は確実だった。

 何より、外ではエフェメラとシャフリエルが対峙している。あれも、もう少ししたら大きな動きを生み出すであろう。加えて、スクーデリアとアウロラエルも戦闘を開始した。クィクィとヴェネーノも、其々天使と対面した様子。つまり、事態は確実に前進しているのだ。何も問題は無いし、気に病む必要も無い。寧ろ、そうするだけ余計な精神的疲労を徒に受けるだけでしかなかった。

次回、第426話は12/25公開予定です。

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