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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
424/511

第424話:アウロラエルとスクーデリア⑤

「余所見だなんて、随分と余裕みたいね、スクーデリア卿?」

「ふふっ、何を今更。当り前じゃない。幾らシャルエルに封印されていたとは言っても、そこ迄落魄れたりはしていなわ」

 やれやれ、とばかりにため息を零し、或いは嘲笑の意図を込めた微笑みを零し、スクーデリアはアウロラエルを見つめ返す。金色の魔眼が妖艶に輝き、鈍色の長髪が上品に靡く。とてもこの殺伐とした戦場にいるには似つかわしくない気品だが、しかし同時に何処か様になっている様な気さえも感じてしまう。

 一方、そんな眼差しに魂を刺されるアウロラエルはというと、流石の彼女と雖も完全に受け流す事は出来無かったのか、分かり易くムッとする。頬を膨らませ、魂を露骨に動揺させ、放出する聖力を無意識的に乱す。

 それは、彼女の天使としての矜持によるもの。数十億年を生きた智天使級天使としての自負や、抑として凡ゆるヒトの子を管理する上位存在であるとい誇りに糊塗された彼女の自我は、自身という立ち位置を無意識的に高く見積もっていたのだ。だからこそ、それを貶す様な言動を前にしては、当然の様に不快感を滲ませてしまう。

 とは雖も、相手はあのスクーデリアである。神の子三種族間の相性差があるとはいえ、実力的には相手の方が上。つまり、年齢的にも相手の方が上。その為、スクーデリアが彼女より上位であることは当然だし、それは彼女自身が最も良く理解している事。

 言い換えれば、その不平不満は完全なお門違いでしか無く、或いは八つ当たりと形容した方が良いものでしかない。現実に対して盲目となり、己の勝手解釈で都合の良い怒りを発露させるその様は、何処から如何見ても生命としての上位存在がして良い行動とは言えない。

 勿論、神の子も万能ではない。ヒトの子の様な三大欲求こそ存在しないが、しかし生命としての自我は殆ど変わり無く存在するし、相応の情緒だって有している。故に、何時でも何処でも誰でも聖人君主でいられる訳は無いし、いる必要も無い。

 その為、それをぶつけられるスクーデリアとしても、そんな不条理に対する苛立ちや不満というのは特別抱いたりする事は無い。良くある事だ、とばかりに一蹴し、或いは、寧ろそういう反応が返ってくるのを待っていた、とばかりに内心で喜ぶ。これ迄幾度と無くアルピナやクィクィに振り回されてきたからこそ、アウロラエルのそんな態度振る舞いを前にしても宛ら母性の様な微笑ましさが優先されてしまうのだった。

 そうして、スクーデリアとアウロラエルの戦いは、苛烈さと過激さを維持した儘続いていく。周囲の天使達を気に掛ける事も無く、或いは参戦される事も無く、彼彼女らを単なる傍観者として仕立て上げ、純粋な一対一の戦闘を繰り広げる。

 土煙が舞い、瓦礫が音を立てて崩れ、空気では無く空間そのものが激しく揺さ振られる。此処は本来ヒトの子の住む領域であり、神の子は本来存在しない筈の存在でしかない。つまり、神の子の力が暴流する事は本来想定されておらず、だからこそ余計にちょとした衝撃で大きな影響を及ぼしてしまうのだ。

 とは言っても、魂の管理で多少なりとも神の子の力が介入される事から、神の子の力が流入する事は初めから想定されているし、何よりある程度の不測にも備えて幾分か頑丈さにゆとりを持たされてはいる。

 実際、アルピナとセツナエルが対面した時だって壊れはしなかったのだ。そんな二柱より明確に下位である二柱がどれだけ衝突した所で、壊せる筈も無いのが当然の解釈である。

 だからこそ、スクーデリアもアウロラエルも、天魔の理だけは最低限遵守し続けてはいるものの、それでも心には驕りも侮りも存在していない。互いの力を正確に見極め、自身の力に決して溺れず、互いの実力差に嘘をつかず、持ち前の性格と本能と知恵を駆使し、自身のすべき事に対して真っ当に取り組む。

 それこそつまり、眼前の天使乃至悪魔の相手をする事であり、決して馴れ合いと戯れ合いに現を抜かす事ではない。アウロラエルはラムエルとセツナエルの為に、スクーデリアはクオンとワインボルトとアルピナの為に、其々自身の役目を最後まで勤めようと思考を回し続けるのだった。

 頼んだわよ、ラム。

 頼んだわよ、アルピナ。

 だからこそ、スクーデリアとアウロラエルは其々心中で同じ事を呟く。勿論、その言葉を掛ける相手は異なっているし、互いのそれに其々気付く事は無い。加えて、あくまでも心中に留めた独り言でしかない為に精神感応などで相手に届く事も無い。

 それでも、なんとなくではあるものの、大体同じ事を思っているのであろう事は朧気乍らに想像が付いた。それは相好の変化や魂の輝きなどから察せられる予測によるものだったが、若しくは同じ神の子としての誼かも知れない。同族故の類似性が、無意識の内に微かな紐帯を形成していたのかも知れなかった。

 何れにせよ、戦局には何も影響は無い。影響は無いからこそ、二柱は戦う事に対して何ら躊躇いは無かったし、遠慮も無かった。一応、穏健派故の気まずさだけは少なからず存在したが、しかし必要が必要であるが故に、そんな些末事は戦いの彼方へと消え去っていた。

次回、第425話は12/13公開予定です。

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