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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
421/511

第421話:アウロラエルとスクーデリア②

それでも、スクーデリアは決してアルピナに対して不信を貫いている訳では無い。寧ろ、誰よりも彼女の事を信用しているし、信頼もしている。加えて、誰よりも信用されているし、信頼もされている。

それは、ヒトの子は当然として神の子の価値観に於いても長いと感じられる程の過去から紡がれてきた友情の紐帯。同じ草創の108柱として、同じ悪魔として、彼女らは誰よりも深く濃い時を共に過ごしてきた。

だからこそ、表層の心情ではアルピナの事を不安視してい乍らも、深層の心情では全幅の安心に則って身を委ねていた。彼女ならきっと大丈夫、という微笑みと共に、彼女の言う事為す事全てを信頼していたのだった。

「所で、クオンは何処かしら? 貴女達が連れ去ったのでしょう?」

そういえば、とばかりに、スクーデリアは話を転換する。無駄話を続けても良かったのだが、しかしそれで稼げる時間にも軈て限界は訪れるし、何よりそこ迄話を続けられる様な話題も無い。それだったら、少しでも自身の心に巣食う疑問の種を払拭する方が幾分か生産性に富むだろう。憖、ヴェネーノは兎も角、アルピナもクィクィもそういう詳細な真相にはこだわらない性格をしているだけに、彼女自ら率先して情報は探っておくべきだった。

「さぁ、何処かしら? それとも、力づくで聞き出してみる?」

「あら、それも良いわね。貴女が相手なら、少しは楽しそうだわ」

スクーデリアは、金色に輝いている不閉の魔眼をより一層に燦然と輝かせてアウロラエルを睥睨する。それは、この世に存在する凡ゆる宝石細工よりも美しく、或いは満点の星々よりも輝かしい。また、同時に、魂の奥底迄凍り付きそうな冷徹さもそこからは滲み出ており、アウロラエルの魂を容赦なく穿つ。

しかし、アウロラエルは決してその瞳に怯む事は無かった。

確かに、スクーデリアの眼光は非常に冷徹であり、且つ狼の様な妖艶さも孕んでいる。それでも、彼女の事は遥か過去から知悉している。それこそ、現存する神の子の大半が未だ生まれていなかった時代からの付き合いなのだ。

つまり、単純に慣れていたのだ。飽きる程に見慣れた瞳、浴び続けた魔力。最早、緊張感を抱けという方が難しい話。憖、彼女が神の子全体の中でも名の知れた穏健派だという事もあり、それが心の安堵に一役買っていたのだ。

同時に、スクーデリアの手掌には黄昏色の魔力が着実に集約されつつある。一応魔剣は実力相応に使えない事も無いのだが、しかしその性格的理由により余り得意ではないし好きではない。何分、既存の魔法の大部分を生み出した程に魔法技術や魔力操作に秀でているからこそ、剣より魔法の方を得手としていた。

無風にも関わらず、彼女の鈍色の長髪が威圧的に靡く。また、淡色のドレスワンピースの裾もまた同様に靡き、令嬢の如き気品と見た目相応の妖艶さを雪色の肌から醸し出す。それは、非常に悪魔らしくある妖しさであり、同時に非常に悪魔らしくない美しさ。良くも悪くも彼女を彼女足らしめる本質的要素だった。

一方、それに対して、アウロラエルもまた魂から聖力を迸らせてスクーデリアの魔力に対抗する。それは相変わらずスクーデリアの魔眼であっても認識し辛いものだったが、それでも、相応の力が込められている事は明白だった。

事実、それは天魔の理が定める聖力・魔力・龍脈の放出上限に辛うじて抵触しない程度は確保されている。尚、地界の崩壊を招かない為に定められたその上限値は、各個体が持つ最大量の六割迄であり、それでも相応の負荷が掛かっているのか、辺り一帯は空間そのものが軋音を奏でていた。

アウロラエルの金色の聖眼が眩い程に輝く。その視線は地上に立つスクーデリアの魔眼を真っ直ぐに捉え、同時に、彼女の手に構築されている魔法に対しる最大限の警戒を生み出す。

そして、彼女は自身の魂から産生される聖力を自身の手に集約させる事で、一振りの聖剣を生み出す。天使としての種族色を表す暁闇色に輝くそれは、スクーデリアの手に集約される黄昏色の魔法に対抗するかの様に滾り、もう間も無く訪れるであろう衝突の瞬間を心待ちにしていた。

因みに、アウロラエルも何方かと言えば聖剣よりも聖法の方を得手としている。全く剣が使えない訳では無いという点も同様である。しかし、やはりスクーデリアの魔法技術は相当なものであり、それに対抗出来る程彼女は聖法に秀でている訳では無い。その事から、如何しても聖法に頼りっ切りになる訳にはいかなかったのだ。

両者の間に、無言の凪が流れる。一触触発の緊張感がその場を支配し、場を同じくする他の天使達でさえも、そんな彼女らが生む殺伐とした空気に怖気づいている様だった。尤も、余りにも大き過ぎる年齢差を考慮すれば、こうして意識を失う事無くその場に留まれているだけでも十分過ぎる精神力だとは思うが。

とはいえ、そんな事はこの際如何でも良かった。彼彼女らの様な格下は、アウロラエルにとっては頼りにならない見方でしか無く、スクーデリアにとっては取るに足らない敵にしかなり得ない。それよりも、眼前の最上位階級の方が圧倒的に重要だった。

次回、第422話は12/19公開予定です。

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