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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第419話:エールとアウロラエル

「……やっぱり、嫌になるわね。如何してこうも反りが合わないのかしら?」


 はぁ、と溜息を零しつつ、スクーデリアは精神的な疲労を露わにする。

 ヒトの子とは根本的な精神構造が異なる為、人間の尺度でその疲労感を推し量る事は出来無い。何より彼女の立場は人間の常識の範疇から大きく逸脱した特殊なものである。その為、それを正確に理解する事は出来無い。あくまでもできあっ積もりになるだけであり、本質をつかみ取る事は出来無いのだ。

 故に、彼女の精神に掛かる諸々の負荷を。その場にいるヒトの子達は理解する事は出来無い。只でさえ魔王という得体の知れない敵である以上、これ迄それを知る事の出来る機会は存在しなかった為、仕方無い話ではあるのだが。

 兎も角、スクーデリアは現状に対して並々ならない苦痛を感じていた。それこそ、アルピナとジルニアの小競り合いを仲裁する為に彼是振り回されていた頃をも上回る疲労感だった。尤も、あれに関しては彼女自身なんだかんだ言って楽しんでいた素振りもあった為、一概に比較する事は出来無いのだが。

 一方、それに対してエールはというと、スクーデリアとは正に対照的な立ち振る舞いを維持していた。眼前に立つその美女が魔王であるという事実を忘れさせてしまう様な落ち着き様であり、将又彼女自身もまたそれを忘れているのではないかと不安にさせてしまう。

 しかし、エフェメラに次ぐ宗教階級の序列第二位として、彼女は自身のすべき仕事は決して忘れない。人類文明に恐怖の楔を打ち込んだ魔王という敵を決して許さず、心の拠り所を司る聖職者として平和と安寧を取り戻すのが彼女の仕事。その為にも、魔王という存在を決して忘れる事無く決して心許さず毅然とした対応をしなければならなかった。

 だが、そんあ表向きの仕事とは異なり、こうして相まみえた結果としての彼女の態度振る舞いは、そんな毅然とした対立とはまるで異なる様子。確かに馴れ合いの仲睦まじさは決して存在していなかったが、それでも何処か気心知れた間柄の様な微妙な距離感を常に維持していた。

 それを示す様に、その口調声色は何処か暢気であり、殺意や敵意といった戦闘意思はそれ程色濃く滲出されている訳では無かった。冷徹な牽制程度の睨み合いだけが存在し、まるで互いの隙を伺い合っているかの様にも感じられた。


「あら、何が言いたいのかしら?」


 だからこそ、エールはスクーデリアの溜息に対して、それを更に煽るかの如き視線を向ける。口調と声色も何処か湿り気を多分に含んだかの様な無機質なものであり、有情と対極に位置している事は誰の耳にも明らかだった。


「そうね。もう終わりにしないかしら? 東方地区を管轄する聖職者達の中に天使が多数含まれている時点でもう言い逃れ出来ないでしょう、エール・デイブレイク……いいえ、アウロラエル?」


 狼の如き妖艶さを含む金色に輝く不閉の魔眼で冷徹に見据えるスクーデリアは、静かにそう告げる。魂から魔力を湧出させ、臨戦態勢を整え、眼前に立つ敵の出方を窺う。どのタイミングでどんな行動を取られても対応できるように凡ゆる可能性を視野に入れ、凡ゆる対処を思考の裏で試行する。

 両者の間に、無言の時が流れる。嵐の前の静けさとでも形容すべきその無言は、決して平穏とは呼べない代物。それこそ、只の人間如きでは如何頑張っても再現出来無い様な苛烈さも内包しており、彼女らが理外の理で生きる存在である事を証明していた。


「あら、気付いていたのね?」


「当然よ。何年来の付き合いだと思っているのかしら? 貴女の事くらい、態々魂を見なくても直ぐに分かるわよ」


 暁闇色の聖力と黄昏色の魔力が静かに衝突する。或いは、其々の個体色である緑白色と鈍色が交差する。一触触発の雰囲気が周囲に満ち、嘗て各世界が創造される以前の全ての神の子が蒼穹で暮らしていた頃を彷彿とさせる色合いがそこに形成された。

 そして、フワリと音も無く身を翻したエール・デイブレイクは、その正体であるアウロラエルとしての姿を顕現させる。個体色である緑白色の御髪を靡かせ、聖職者としての法衣と余り変わらない天使がよく着ている衣装を身に纏い、金色の聖眼を燦然と輝かせて宙に浮かぶ。

 また、それに合わせる様に、彼女と行動を共にしていた一般聖職者達もまた其々同様に身を翻すと、其々天使としての姿を取り戻す。

 如何やら、全員天使だった様子。勿論、スクーデリアも魔眼が万全に機能しない乍らではあるものの朧気には気付いていた。だが、ラムエル及びアウロラエル並びセツナエルの様な脅威では無い事から、そこ迄気を張っていた訳では無かった。

 故に、スクーデリアの視線はそうして天使としての姿を露わにする他の大多数ではなく眼前のアウロラエルへと向けられていた。まるで初めから彼女一柱しか存在していないかのような持続的注意であり、それは他の天使達を雑兵として切り捨てられる程の実力を兼ね備えているが故の自信であって決して慢心ではなかった。

次回、第420話は12/15公開予定です。

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