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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第417話:天巫女の微笑み

 兎も角、そういう理由によって、彼女の心は非常に昂っていた。それこそ、戦場の直中にいるかの様に浮き足立っており、彼女本来の傲慢さが透けて見えているかの様だった。


「ありがとうございます。では、地下の事は宜しくお願いしますね。それとも、地図でもお渡しした方が宜しいでしょうか?」


「フッ、君は誰に対してものを言っている? そんなものなど無くとも、ワタシが迷う筈も無いだろう?」


 バカにするな、とでも言いたげな冷たい瞳を向けつつ、アルピナは笑う。それは、彼女の心に宿る上位存在としての尊厳に由来するものであり、下位存在であるヒトの子を無意識的に嘲笑してしまうもの。

 しかし、勿論の事、それはワザとでは無い。あくまでも種族故の本能の様あものであり、如何しようも無い無意識によるものだった。

 その為、決してその言葉に悪意の色は乗っていない。あくまでも彼女本来の純粋な傲慢さだけに塗られており、だからこそそれを聞いても誰一人として不快な感情を示す事は無い。

 その為、そんなアルピナの言葉を耳にしても、エフェメラはこれ迄と何も変わらない物静かな微笑みを携えるだけだった。猫の様に大きな茜色の瞳を宝石の様に輝かせ、上空に浮かぶ天使シャフリエル達とアルピナを其々注視するのだった。


「それは大変失礼いたしました。確かに、貴女には不要な心配でしたね」


 エフェメラは、腹立たしい程に素直な態度振る舞いで謝罪の言葉を口にする。果たしてそれは本心なのか、或いは立場故の体裁なのか、将又言外に含む嘲笑の意図か。どれも異なるようで、同時にその全てが正解の様にも感じられる独特の雰囲気を携えた彼女の様相は、アルピナの心を惑わせる。

 だからこそ、アルピナはそんな感情を如何にか放棄する為にも、ワザとらしく大きな溜息を零す。やれやれ、とばかりにその挑発を受け流し、改めてその地下階段の方へと足を向ける。


「では、此処は任せよう。尤も、君には不要な心配だろうがな」


 それだけ言うと、アルピナはその儘振り返る事も無く以下への階段を下りる。悠々と、そして大胆と、まるで傲慢な独裁王の様であり、或いは冷酷な我儘娘の様にも感じられる。

 だが、それ以上に不思議だったのは、シャフリエルを始めとするどの天使達も、そんなアルピナを止めようとしなかった事だ。今正に敵対し、戦闘行為を始めようとしていた間柄にも関わらず、極自然な所作でアルピナを送り出していたのだ。

 果たして、シャフリエル達は何を考えているのか? 地下に聖力の障壁を構築し、地下に突入しようとするアルピナの前に立ち塞がり、しかしそんな彼女を素直に見逃す。一見して相反する行為行動であり、端的に述べるなら矛盾している。

 そんなシャフリエル達は、アルピナから直ぐ様視線をエフェメラへと戻すと、彼女と静かに見つめ合う。煌びやかな宝石箱の様に、その複数個の煌びやかな瞳は燦然と輝き、複雑な意志と目的意識に由来する緊張感の糸を紡いでる。

 天使と人間。何も知らない者から見ても何方が上で何方が下かは一目瞭然。根本的な存在感が違うのだ。客観的な根拠が無くとも肌感覚でそれは認識出来てしまう。

 加えて、この国の国教が定める所による宗教的最上位格、詰まる所信仰の対象は、神では無く天使である。一応、神という概念自体も存在するが、それは信仰より上位に存在するこの世のシステムの様な扱いであり、信仰に関わる範疇には存在しない。

 言ってしまえば時間や空間の様な扱いである。他の凡ゆる宗教に於いても、時間や空間を司る何かが信仰の対象になる事言はあっても、それそのものが進行に対象になる事は無い。実際、空間に対しては神の子でも介入出来るが、時間に関しては神でさえも介入する事の能わない上位の概念なのだから、それは正しい思考回路だろう。

 そういう訳で、天使という存在は人間達の本能レベルに於いて最上位階の存在として刷り込まれている。決して手に触れる事の叶わない概念としての存在にまで昇華され、人々の心の拠り所として生活に溶け込んでさえいる。

 加えて、何より、当のエフェメラはそんな宗教に身を投じる聖職者であり、その最上位に君臨する最高位聖職者たる天巫女。言い換えれば宗教的首長に相当する。

 だからこそ、尚の事比較対象として分かり易い。一宗教の信仰者と被信仰者という絶対的な上下関係を前にして、本来あり得ない対等さを構築していたのだった。

 軈て、最初に口を開いたのはエフェメラだった。彼女は、相変わらずの優しさと可愛らしさを存分に孕む微笑みと共に猫の様に大きくやや垂れた茜色の瞳を輝かせ、そのお淑やかな雰囲気をそのまま投影したかのような優しい口調と声色で天使達に語り掛ける。


「さて。では皆さん、少しだけ私とお話ししましょうか?」


 エフェメラとシャフリエル達。両者の間に、不可視の糸が結ばれる。敵対とも友好とも異なる、きわめて絶対的な優劣の糸であり、それは人間と天使という両者の立場を崩し得る決定的な一撃でもある。

 だからこそ、シャフリエル達天使達の相好は其々緊張感に包まれる。それこそ、アルピナと対面し彼女の魂から放出される冷酷な魔力を全身で受け止めている時よりも一層の緊張感を抱いている始末だった。

次回、第418話は12/13公開予定です。

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