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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第416話:エフェメラの提案

 兎も角、突如として齎される彼女の呼び声によって、アルピナの戦闘意欲が急制動を掛けられた事だけは確実だった。そして、だからこそ、アルピナはそれに対して分かり易く不快感を滲ませる事となってしまったのだ。

 一方、それに対してエフェメラはというと、そんなアルピナの思いなどまるで知る由も無いと言った具合でシャフリエル達を見上げていた。

 聖職者と天使。それは、全く以て類似性の無い者同士。片や只の人間であり、片やそれを管理する上位存在。その成り立ちや歴史的経緯に何ら関連性は無く、欠片程の共通部分を持たない別存在。

 それにも関わらず、両者の出で立ちは何処と無く似ていた。それは何も衣装という観点に限った話ではない。確かに、何方も純白の法衣を身に纏ってはいるものの、しかしそんな視覚的な話をしているのではない。

 何と言うべきか、それと無く感じられる両者の雰囲気が、その類似性を暗に示していたのだ。清廉潔白な様でその背後に何らかの思惑を隠し持っている。そんなビジネスライクな神聖さが、両者から共通して感じられる印象だった。

 とはいえ、そんな事は当人達の知った事ではない。何より、エフェメラからして見れば魔獣及び魔王に次ぐ新たなる存在であり、言い換えれば新たな脅威の台頭である。人類文明の存亡を懸けた一大場面に振り下ろされる新たなる一撃を前にして、彼女の心は完全に囚われていた。

 天巫女として、或いは四騎士として、将又人間として、彼女は上空に浮かぶその存在に目を奪われていた。人間社会の常識に当て嵌めると本来であれば存在しない筈の存在である天使とやらに対して、果たしてどんな心情を維持すれば良いのかがイマイチ分からなくなってしまった。

 だからこそ、或いはそうでなくとも、彼女の態度振る舞いは非常にワザとらしい。或いは白々しいとでも形容すれば良いのだろうか? 緊張感に包まれたこの状況下に於いて、その言葉とは裏腹に彼女の心は非常に波打っていた。

 だが、彼女はそんな心を理性で無理矢理押し留める事で、聖職者然とした相応しい相好を作り出す。そして、アルピナの不満げな言葉に対して柔らに微笑み返しつつ、それに答えるのだった。


「いえ、如何やら今から戦われる御積もりなのでしょうが、此処は一つ私にこの場を譲っていただけないでしょうか?」


 ほぅ、とアルピナは眉をピクリと反応させてエフェメラの言葉に驚く。まさかその様な提案をされるとは、とばかりなその反応は、正しく彼女の本心だった。確かに状況や立場の兼ね合いから有り得無い話ではないとは心の奥底の片隅でチラリと考えはしたが、まさか現実になるとは思いもしなかったのだ。だからこそ、意外性に虚を突かれたかの様に、彼女らしくも無い態度振る舞いを曝け出してしまったのだ。


「君があの子達の相手をする、と?」


 腰に手を当てつつ首を傾げて問い掛け返すアルピナ。しかし、その心中では、成る程、と小さな納得を抱いていた。この場所、天使達の目的、シャフリエル達の態度、そしてエフェメラの態度及びその秘密。それら全てを知った上でそれら全てを加味しつつ思考を回せば、自ずとその意味に理解は及ぶ。それこそ、それ以外の選択肢が軒並み排除されてしまう程には、至極当然な思考回路だった。

 だからこそ、その表面的な態度振る舞いに反して、しかしその心中では決して拒絶反応は抱いていなかった。勿論、この儘エフェメラの言い成りになっては、それはそれで面倒事が増える事は確実である。それでも、クオン及びワインボルトの無事を考えれば従わない訳にもいかない、という如何しようも無い現実的側面もまた同時に孕んでいた。


「はい。私達の目的はこの地に巣食う浮浪者の摘発。対して貴女の目的は此処の地下。此処で私に役割を譲る事は、双方にとって都合が宜しいかと」


 その為、多少不本意乍らも、アルピナとしてはその提案を受け入れざるを得なかった。その為、多少の魔量が混入した溜息を微かに零しつつ、仕方無い、とその提案を受け入れる。


「君の言う通り、この場は譲るとしよう」


 ……何より、ラムエルもアウロラエルも姿が見えていないからな。此処にいないという事は、スクーデリア達の方へ向かったか、或いはこの地下に未だ潜んでいるか。果たして、如何転ぶか。


 フッ、と笑みを零しつつ、アルピナは心中で思案する。その笑みは紛れも無く好戦的な意欲に由来する興奮であり、それなりに力を持つ天使と久し振りに力を交えられるであろう事に対する好奇心だった。

 アルピナは決してスクーデリアの様に穏健派ではない。極北に振り切った武闘派である。その為、それなりに実力が拮抗した神の子と戦う事が彼女にとっての至福である。

 しかし、ジルニア亡き今、彼女がそれ相応の力を出して戦える相手というのは非常に限られてしまう。それこそ、天使長セツナエルを始めとする草創の108柱かそれに近しい世代だけであり、それ未満では暇潰しにもならない。

 だが、神龍大戦で武闘派の大半が神界へ帰還してしまった現在、生き残った最古の世代はその殆どが穏健派に偏ってしまっている。例えば悪魔公代理を務めるスクーデリアや以前は皇龍補佐を務め現在は龍王補佐を務めるノーレイティアは何れも穏健派であり、ほぼ筆頭レベルに極北している。

 その為、単純に彼女は戦いに飢えていたのだ。とはいえ、悪魔公という事実上の中間管理職を担う様になってしまった現在、そんな我儘を言っていられない事もまた事実。神龍大戦という合理的理由でもなければ、自由意志で戦う事などほぼ不可能なのだ。

 だからこそ、神龍大戦ではないとはいえ、こういう尤もらしい詭弁を弄する事が出来る現状というのは、まさに願ったり叶ったりなのだ。勿論、実在する神を知っている立場上、神頼みという訳にはいかなかったのだが。

次回、第417話は12/12公開予定です。

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