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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第412話:アルピナの心情と愚痴

 或いは、抑としてのそうした神の子の死が一般的となる天使-悪魔間の抗争が生じる事となってしまった切っ掛けが彼女自身であるからこそ、真っ当な自罰的思考に走っているのかも知れない。

 とはいえ、どれだけ過去を悔いた所でその過去が変わる筈も無い。仮令神であろうとも、時間という概念に介入する事は不かのであり、ともすれば一介の神の子でしかないアルピナなら尚の事不可能である。尤も、仮に出来た所で今更そんな事をする気は全く以て存在しないのだが。

 兎も角、一方、そんなアルピナに対し天使達はというと、誰一柱として声を上げる事無くジッとアルピナを見据えていた。翼を羽ばたかせる事で上空に浮かび、魂から聖力を湧出させ、金色の聖眼を日輪の様に輝かせるだけだった。

 尤も、そうして迸出される聖力を、アルピナは観測する事は出来ない。翼と聖眼は肉眼でも視認出来るのに対し、聖力は基本的に不可視のエネルギーである事から、魔眼が機能しない現状に於いては想像と仮定の範疇から逸脱される事は無かった。

 また何より、彼彼女らに限らず神の子三種族が其々持つ翼は何れも基本的には飾り乃至権威的象徴であり、言ってしまえば孔雀の羽と同義。その為、天使を天使足らしめる権威の象徴たる天使の翼を幾ら羽ばたかせようとも、力を象徴する悪魔の翼や空気のある重力下に限ってのみ一応の機能性を持っているものの基本的には単なる飾りでしかない龍の翼と同じく、それは一切の役目を果たしてはいなかった。

 兎も角、両者の間には深い沈黙の糸が結ばれていた。一色触発と呼ぶに相応しい緊張感だけが中庭を幾重にも反響し、それによって増幅される緊張が彼彼女らに更なる緊張を齎していた。

 片や、大切なクオンを攫った魔眼に映らない天使達。片や、全神の子の中でも上位五本指に数えられる最上位格の悪魔。双方が相互に抱く緊張感は全く別の物事に由来するものなれども、しかしその深さは然程大差無い様にも見受けられる。

 或いは、人生経験——人間ではないが——の長さに差異がある分、アルピナの方が多少は冷静さを保っているのかもしれない。それとも、単なる各個体毎の性格の影響かも知れないが、何れにせよ、この状況下に於いてはそこ迄明確な違いを生み出している訳では無い様だった。

 そして、そんな彼彼女ら天使達の振る舞いに対し、アルピナは大きく息を吐き零す。別に他者の礼節に対して事細かに口を挟む趣味は持ち合わせていないし、何より抑論としてそれが出来る程に自身の態度振る舞いが立派だと思った事も無い。これ迄散々スクーデリア達に迷惑をかけまくり、その都度怒られ続けてきたのだ。今尚頭が上がらない事からして、それを否定できる程の図々しさは流石のアルピナにも用意できなかったのだ。

 しかし、それでも、眼前の天使達の態度振る舞いは如何しても目に余る。これ迄の過去数十億年に亘って特別気にした事なんて一度も無いし、セツナエルという存在そのものと比較すればこの程度の事など些末事にも満たない筈なのだが、何故か不思議と癪に障るのだ。

 果たして、何が原因なのか? やはり、クオンの身が安全ではない、という現状が、彼女の心に焦燥感を燻らせているのだろうか? それにより冷静な思考回路を阻害し、心理的余裕を排し、結果としてこんなくだらない光景一つにさえも無性に腹立たしく感じてしまうのだろうか?

 結局の所、悪魔と雖も、本質的にはその見た目同様人間と大差ないのだ。実際、人間を創造するに当たって神が参考にしたのが天使と悪魔であり、それらから聖力及び魔力の生成機関を除きつつヒトの子レベルに迄余分を削ぎ落した結果が人間なのだ。だからこそ、そういう精神構造が大体同じになっていてもそれは当然の結果なのかも知れない。

 しかし、そんな事は今のアルピナにとっては非常に如何でも良い事。クオンを助ける、ワインボルトを助ける、龍魂の欠片を集める、という三つの目的だけが今の彼女の心には存在しており、それに直接的にしろ間接的にしろ影響を及ぼす事の無いくだらない思考ははっきり言って無駄でしか無かった。


 ……まったく、どうしてもこうも天使というのは面倒者ばかりなのだろうか?


 それでも、如何しても抑えきれなくなったその思いを無理矢理するかのように、アルピナは心中で呟く。別に天使という種族そのものに対しては特別恨みつらみは無いし、ヒトの子の魂を管理する同業者としての敬意に関しては持っているが、それでも、やはりその思いだけは如何しても拭えなかったのだ。

 だが、そうして一度心中とはいえ吐露してしまえば、彼女にはそれで十分だった。何時迄の心の中で悶々と燻らせるくらいなら、すこし自己中心的とはいえ愚痴を零した方が時として気楽になる事の方が多いのは何も人間に限った話ではない。憖、感情を行動原理の最前線に置く彼女の性格上、ちょっとした心情の変化がパフォーマンスに直結する為、これは尚の事大きな事だった。

次回、第413話は12/6公開予定です。

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