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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第411話:羨望と挑発

「ほぅ、随分と久し振りに見る顔も幾つかいる様だな。やれやれ、君達は数が豊富な様で、相変わらず羨ましい限りだ。せめてその半分でも、此方側に来てくれるのであれば、喜んで歓迎をする所なのだが……」


 とはいえ、そんな言葉とは裏腹に、天使が悪魔に鞍替えする様な事態がそう簡単にあっても困る話ではある。出来るか出来無いかはこの際放置しておくとして、そんな裏切り者を快く迎え入れられるかと言われたら、どうしても心が拒絶してしまう。天使が天使としての庶務を果たせないのに、悪魔になったからと言ってその職務を全うに果たせる訳が無いだろう。役割自体は殆ど変わらないのだから、それは尚の事だった。

 だからこそ、アルピナは適当に溜息を吐き零しつつ、羨ましさと疎ましさが両立する言葉を漏らしたのだった。それが果たして本心からの羨望が軸なのか、或いは彼彼女ら天使達を貶す為に吐いた安い挑発が軸なのか? それはアルピナ自身をして何方とも断言出来ない曖昧なものだったが、しかし何方にせよ眼前の天使に対してそれなりの思いがある事だけは確実だった。

 というのも、一時期とはいえ僅か五柱に迄その数が減少した事がある悪魔としては、これだけ惜しみなく人材——人間ではない為、この表現が適切なのかは疑わしいが——を用意出来るのは、それこそ夢物語と言っても決して過言では無い程の境地なのだ。

 とはいえ、一応、魔界にはそれなりの数の悪魔を待機させ、何時でも地界に来られる様な備えだけはさせている。しかし、それでも、その数は神の子的価値観を基準にすると非常に心許無く、地界で天使との戦闘行為を実現させる為に派遣しようとするにはそれなりに惜しんでしまう程度の数しか用意出来ていなかったりする。


 ……せめて魔界に待機させているあの子達が、嘗て肉体的死を贈られた上で無事に復活の理に流された子達なら良いのだが……。


 現状、アルピナがそうして魔界に待機させている悪魔達は、基本的に全て新生悪魔。つまり、第二次神龍大戦後である直近10,000年以内に生まれた悪魔達である。それはつまり、戦いを知らない者達という事であり、只でさえ年齢と力が比例する種族特性がある事も相まって、その実力はお世辞にも高いとは言えない。

 その為、そんな新生悪魔ではなく、仮令肉体的死からの復活により力が多少低下していようとも、二つの大戦やそれ以前の神の子三種族が蒼穹及び神界で共生していた時期を知っている旧時代の悪魔の方が何倍もマシなのだ。

 しかし、どれだけそれを希おうとも、無理なものは無理なのだ。それは悪魔公として凡ゆる悪魔の頂点に立ちつつ全て神の子の中でも限りなく最上位に君臨するアルピナによる願望であろうとも同様である。

 というのも、天使長セツナエルによって天魔の理を部分的に破壊され、且つ復活の理にも何やら細工を施された結果、殆ど全くと言っても良い程に、悪魔達の復活が異様な程に遅延しているのだ。しかし、それはアルピナの魔眼を以てしても全く以て不明であり、その原理はおろか目的すら理解出来無い。

 勿論、それはアルピナの魔眼が年齢及び階級相応でしかない為というのもある。それを為したセツナエルは只でさえ種族的にアルピナに対して優位性を確保できている上に、単純にアルピナより年上なのだ。その為、彼女の企みを前にしてはアルピナであろうとも手が届かないのだ。

 また、実の所、それを見通せないのは何もアルピナに限った話ではない。彼女より優れた魔眼である不閉の魔眼を持つスクーデリアであっても、現実としてはセツナエルの計画を看破する事は出来ていないのだ。

 だからこそ、そんな如何しようも無い現状を前にして、アルピナを始めとした悪魔達は、挙って諦めざるを得なかったのだ。将又、何れ来るであろうセツナエルとの決着の時迄の辛抱だ、と自身らの心に言い聞かせるだけだった。

 尚、勿論の事だが、そうして何らかの事情で復活待ちを強いられている悪魔達は兎も角として、地齋の所多くの悪魔がそうした復活の理に乗せられる事すらなく肉体的死に伴って魂を霧散させてしまっている、という事は、アルピナだって重々承知している。

 何と言っても、彼女は全悪魔を統括する立場にあるのだ。どんな個体が何時何処で生まれ、どの個体が生き、どの個体が死に、どの個体が復活の理に乗せられ、どの個体が復活を果たし、どの個体がそうして復活の理に乗せられる事無く魂を霧散させてしまったのかに関しては、当然の様に全て把握しているに決まっている。

 だからこそ、セナを始めとして極僅かな同胞しか復活していない現状は、彼女の思考を強く悩ませる。自分の管理不足なのではないか、という批判的幻聴が木霊し、しかしそれを否定出来無いからこそ、余計にそれが胸に刺さる。

 憖、その傲岸不遜で冷酷無慈悲な性格に反して思いの外生真面目で責任感の強い性格をしているからこそ、アルピナはその現実をより深刻なものとして捉えてしまうのだ。

次回、第412話は12/5公開予定です。

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