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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第409話:襲撃の正体

 だが、勿論、エフェメラだけは例外である。彼女だけは、相も変わらず至って平然とした姿勢振る舞いを維持している。そして、自身の直ぐ横に降り立ったアルピナをチラリと一瞥すると、しかし直ぐ様その視線は眼前の土煙へと戻される。

 彼女の茜色の瞳が燦然と輝く。それは宛ら宝石箱の様であり、或いはそれをも上回る美しさを抱いている様にも感じられる。それは猫の様に大きく、その優しい性格をその儘は寧したかの様に微かに垂れ、しかしそれでも眼前の土埃を生み出した正体を決して見逃さない鋭利さも兼ね備えている。


「君は随分と落ち着いているな。それとも……初めからこうなる事を知っていた、というものだろうか?」


 おやおや、とワザとらしく疑って掛かる様に、アルピナは意地悪さの滲み出る声色と口調でエフェメラに対して口を開く。また、その相好は彼女の本質的な傲慢さと我儘さが暗に透けており、宛らこの状況下を楽しんでいる素振りにも感じられる。

 だが、それに対してエフェメラは決して不快感を抱く事は無い。或いは、不快感を示す事は即ちアルピナの思い通りになる事でありそれは即ち敗北である、と悟っているかの様でもあった。若しくは、彼女のそういう態度振る舞いを予め知っていたのかも知れない。


「まさか、そんな筈ありませんよ。予知能力者ではないのですから」


 何れにせよ、少なくともエフェメラの精神的動揺を誘う事は全く以て出来ていなかった事だけは確実だろう。だからこそ、それを示す様に、エフェメラはアルピナの言葉に対して軽やかに返答する。ふふっ、とお淑やかで優しい笑みを零しつつ、聖職者としてのステレオタイプをその儘身に纏っているかの如き包容力を醸し出すのだった。

 一方、それに対して、アルピナもまた苦笑を漏らす。元々、エフェメラがそんな回答を投げ返してくる事は想定内だったし、何ならもっと適当に遇われる事すら考えていた。魔王という人類の敵に対して仲良く御喋りする必要は無い、という尤もらしい理由で突き放される方が、人間側としては非常に真面ですらあるのだから。

 だからこそ、さぁどうだか、とアルピナは独り言ちつつ、改めてエフェメラの態度振る舞いを探る。魔眼が機能を失っている今、視覚的情報だけが頼みの綱だが、それでも何もしないよりは幾分かマシだろうという諦観に似た境地に由来するものだった。

 だが、そんな行動とは裏腹に彼女の心中としては、現状エフェメラの事は如何でも良かった。いや、正しくは、引き続き最も注意警戒をしておかなければならない対象である事に変わりはない。しかし、だからこそ、却って眼前で舞い上がる正体不明の土煙という不確定要素よりもある意味では信用出来るのだ。

 軈て、そんな土煙だが、それは徐々にではあるが晴れ上がりを見せつつある。余り風が吹いていない為に如何しても遅々としているが、しかし焦ってばかりいては好機を逃し兼ねない。寧ろこういう時こそ、敢えて一度冷静さを思い出しつつ改めて客観的に状況を把握し直す方が良いのだ。その方が、くだらないミスを潰せるし、何より後腐れしなくても済む。あの時しておけば良かった、で済む様な話では無いのだ。

 だからこそ、アルピナは改めて息を吐き零す。役にも立たない金色の魔眼を発露させる事で自身の臨戦態勢のスイッチを入れ直し、魂の深奥に存在する魔力の生成機関をより高出力で稼動させる。

 尤も、彼女が此処迄用意しなくてはならない敵というのはそれ程多くない。それこそ、彼女と同じ草創の108柱であり且つその中でも序列が比較的上位の者でもない限り、彼女と真面に戦える筈もないのだ。

 実際、クィクィは例外として彼女と同世代の神の子ですら、アルピナには手も足も出ない。それこそ、相性上彼女に対して優位性を確保している天使であろうとも例外では無い。実際、クィクィよりほんの少しばかり年上のレムリエルですら、ベリーズでの攻防戦では殆ど真面に相手をしてもらえていなかった事から、それは疑いようの無い事実として存在する。

 だが、それでも、アルピナは警戒を怠らない。魔眼が機能しない事を利用した如何なる不意打ちにでも対処出来る様に、凡ゆる角度凡ゆる手法での攻撃に対して警戒の意図を張り巡らせるのだった。

 そして、遂にその土煙は完全に晴れ上がる。

 そこから現れたのは複数柱の天使だった。それも一柱や二柱といった優しいものでは無く、両手の手指では数えきれない程の数が、まるで空を埋める様に次々と地面の大穴から飛び上がってきていたのだ。

 彼彼女らの背中からは、其々一対二枚乃至二対四枚の翼が伸びている。それは即ち座天使級を除く智天使級以下の天使によって構成されているという事。勿論、アルピナと比較すればほぼ間違い無く年下である事は疑いようも無い。

 また、同時に、彼彼女らは総じて純白色の法衣を身に纏っている。それはまるで聖職者を髣髴とさせるものであり、或いは今現在アルピナ達魔王が協力体制を敷いているエフェメラ達聖職者集団と同等かそれ以上には聖職者らしくも感じられる。

 それは、彼女ら聖職者集団の中にも天使が紛れ込んでいた為なのか、或いはこの東方地区で生きる聖職者達の中に未だ天使達が残っていたのか。勿論、天使という種族上の特性で聖職者然とした見た目に成っているというのもあるのだが、それ以上にそういった理由が紛れ込んでいる様な気がした。

次回、第410話は12/1公開予定です。

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