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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
408/511

第408話:中庭にて④

 だからこそ、アルピナは敢えて何時も通り振る舞ったのであり、決して彼女を蔑ろにしようという意図があった訳ではない。そして、エフェメラとしても、まさか魔王から直々に賛同されるとは露にも思っていない為、それ自体に対して何らかの不平不満を抱く事は無かった。

 そんな事は扨置いて、アルピナは早速とばかりに足を踏み出す。コートの裾を靡かせ、歩調に合わせて御髪を揺らし、快活な少女の如き相好を興味関心に由来する好奇心の色に染め乍ら、彼女はその階段を降りようとする。

 しかし、その階段が続く先は、正しく一寸先も見通せない宵闇が如き深淵。宛ら冥界が死を誘るかの様に手招きをしている姿を髣髴とさせ、只でさえこの施設が廃墟という事も相まってとても平穏無事とは思えなかった。

 その為、その先をジッと見つめるアルピナの心にも、その思念が齎す漠然とした恐怖や警戒や不安が微かに渦巻いていた。それは、基本的に怖いもの知らずな彼女の心にそんな概念が存在していたのか、と驚かされる様な、そんな漠然とした感情であり、彼女自身でさえ久し振りに知覚される感情でもあった。

 だがしかし、幾らその階段の先が光の届かない暗闇だとしても、彼女には何の問題にもならない。というのも彼女は純粋な神の子であり、神の子であるが故に、只の肉眼でも人間のそれを大きく上回っている。その為、仮令そこが一寸先も見通せない暗闇であり、見えないものをも見通す魔眼がまるで頼りにならないとは雖も、視覚的には何ら影響を及ぼす事無く昼間と同等に見通す事が出来るのだ。

 だからこそ、彼女のその不安や恐怖は魔眼が使い物にならないが故の心細さに由来するものであり、寧ろそれを上回る興味関心が彼女の心を土台するだけだった。

 だが、そうして今正にでも階段に足を掛けようとしたその時だった。突如として彼女が足を付けていた地面が大きく隆起し、彼女を足下から食らい付こうとするかの如き大口を開けたのだった。


「おっと」


 アルピナは、その隆起を知覚して咄嗟に身を翻して宙に浮かぶ。フワリ、と音も無く飛翔するその様は、まるで天空を舞う羽の如き軽やかさであり、何人足り砕く事は出来無いと思わされる様な優雅さを兼ね備えている。とても悪意を伴う攻撃かすら定かではない謎の隆起に襲撃されたとは思えない鮮やかさであり、決してその脅威を脅威と見做していない事が良く分かる態度振る舞いだった。

 そして、危ない危ない、とばかりに彼女は小さく息を吐き零す。同時に、魔眼が使い物にならない事は予想が付く為、初めから魔眼を開く事無く通常の蒼玉色の肉眼で、その真相を捉えようと目を凝らすのだった。


 何だ……一体……?


 果たして、その正体は何なのか? アルピナは空中で身を翻して臨戦態勢を取りつつ思案する。魂から魔力を湧出させ、魔弾や魔剣を何時でも発露させられる様に備える。

 しかし、どれだけ悩もうとも、どれだけ警戒しようとも、その答えが見つかる事は無い。地面の隆起に伴って発生した大規模で高濃度な砂埃が黙然と立ち上るその姿だけが、彼女の瞳に映るだけだった。

 一方、エフェメラはというと、幸いにして彼女はその階段の近くにはいなかった為に、全く以て無事な様子だった。傷一つ負う事無く、何なら土埃一つ被る事すら無く、至って平然とした態度振る舞いを維持しつつ、ジッとアルピナを喰らおうとする隆起と土埃を眺めていた。

 果たして、彼女の心中の空模様は如何なっているのだろうか? というのも、眼前で良く分からない現象が突如として発生し、人間社会で恐怖の具現化となっている魔王に回避運動を行わせたのだ。とても人間としての理性の範疇で理解出来る現象では無いだろう。それにも関わらず、彼女はこうして平然を保った儘なのだ。これはそれが然程驚くべき事柄ではないと見做している為なのだろうか? 或いは、驚くという感情を表出する余裕すら亡失してしまう程に驚愕している為なのだろうか?

 それは、誰にも分からない。抑この場はアルピナとエフェメラしかいない。その為、果たして彼女が何を考えようとも、それを知る者は初めから存在しないのだ。

 尚、尤も、果たして彼女がそれに何を思い何を企んでいるのかについて、アルピナとしては非常に如何でも良かった。知った所で何かが変わる訳では無い事は目に見えているし、何より単純に知りたくも無かったのだ。

 そして、そんな彼女と肩を並べる様に地面に降り立ったアルピナは、しかしエフェメラと視線を合わせる事も無く、依然として舞い上がった儘の土埃に視線を合わせ続けていた。魔力を体内で循環させ、猫の様に大きな瞳で力強く睥睨する事で、いるか如何かも分からない敵に対して威嚇の姿勢を向ける。

 身体表面からは抑え込み切れない魔力が滲出し、黄昏色のオーラとなって彼女の身体を包み込む。常日頃から身に纏っている身体保護用の魔力と異なるそれは、無際限且つ無差別に周囲を萎縮させる。有機物だろうが無機物だろうがお構い無しに威圧を与えられ、悪魔公という概念に対して恐怖を抱く。

次回、第409話は11/30公開予定です。

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