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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第407話:中庭にて③

 また、魂からは魔力を湧出させつつその身に纏わせる事で、肉体を強固に保護している。あくまでも使用出来無いのは魔眼と魔法と簡単な物質創造だけであり、魔力そのものを身に纏わせる程度であれば問題無く使用出来るし機能も果たしている。

 そして、そうして身の守りも反撃の用意もシッカリと整えた上で、彼女はその悪魔公らしい雰囲気を携えた儘、漸くその不審な箇所へと接近するのだった。


「ほぅ」


 ピクリ、と元からやや吊り上がり気味な眉を更に少しばかり吊り上げる様に動かしつつ、アルピナは自らの興味関心に由来する声を漏らす。

 そんな彼女の瞳が漸く捉えたものとは、地下へと降る為の階段だった。それこそ、こんな屋外の中庭の一角に存在しているにしては不自然極まりない程に人工的であり、或いは無機質的。そんな階段が、これ見よがしに大きな口を開けて地下へ誘う様に冷たい空気を吐き零していた。


「成る程、地下か」


「はい。如何もこうした古い施設には、時折この様な地下通路が各所に建造されている事がある様でして。なんでも、緊急時に要人を速やかに避難させられる様にという目的で設けたものだとか。尤も、実際にこれらが有効活用された事例は少ないそうですし、何より使用する際は追撃を妨害する為に都度崩落させていたという研究論もありますので、これが今も貫通しているのかは私にも分かり兼ねますが」


 エフェメラは、この国の歴史背景に関わる地下通論存在を断片的且つ適当に説明する。勿論、アルピナがそれを今知った所で何の役にも立たせられる訳では無い。所謂完全な余談でしかないが、しかし聞いて損になる訳でもない。故に、アルピナもまたそんな彼女の説明を話半分で聞き流すのだった。

 そんな事より、アルピナの注意は依然としてその地下通路へと伸びる階段へと向けられていた。役に立たない金色の魔眼を無駄に開眼させ、やはり役に立たない事からまた彼女本来の蒼玉色へ戻しつつ、同時に心中で思案する。


 ……相変わらず、魔眼は依然として機能しない儘か。やはり、時間による慣れで解決出来る様な代物という訳にはいきそうもないな。しかし、何も見えないという事実自体は依然としてこの先の地下から見えている。ともなれば、この先に何かがあるとみて間違い無いだろう。


 それにしても、とアルピナは同時に苦笑する。とはいえ、急に何も無い場所で笑い出してしまうのは傍目から見て気味が悪い以外の何物でもない為、表立ってその感情を発露するのではなく、あくまでも心中に留めた程度でしかないが。


 まさかこの程度のものすら真面に見つけられないとは……やはりこれも、常日頃から魔眼に頼り過ぎた弊害か? だとすれば、ワタシも未だ未だ未熟者だな。


 それは、彼女自身に対する彼女なりの本心からの自虐的嘲笑だった。神の子という立場をこれ迄彼女は何とも思った事は無いし、それが当然だと思っていた。自身は神の子という生命としての上位存在であり下位存在であるヒトの子を管理する、という摂理は世の根幹であり、加えて自身が神の子の一角である悪魔という種を統括する悪魔公であるという事実に関しても、それと同様に見做していた。

 だからこそ、言い換えれば、自身のそんな立場に胡坐を掻いていたのかも知れない。慢心し、傲慢になり、堕落し、その結果がこの様なのでは無いだろうか? 果たしてこの聖力による阻害がどの天使に宿る聖力に由来するものなのかは観測出来無い以上不明な儘だが、少なくとも自身より格下の天使に手玉に取られている事だけは事実である。

 だが、不思議な事に、彼女の心には欠片程の怒りさえ湧出して来ない。普段の彼女なら、間違い無く舌打ちの一つや二つを零していた事だろう。そしてそれをスクーデリアかクィクィ辺りが背中越しに微笑む所迄が一連の流れと言った所。

 それにも関わらず、不思議と彼女の心は平然とした儘だった。穏やかな凪が戦いでいるかの様に穏やかであり、剰えある種の感心に似た感情さえ湧出している始末。一体何故こうなってしまったのか、彼女自身でさえ皆目見当が付かなかったが、しかし偶にはこういう時もあるのだろう、という事で適当に受け流し、それ以上の追及はされる事が無かった。

 兎も角、そういう訳で、アルピナはその余りにも分かり易過ぎる隠し階段を見つけられなかった自身の愚かさを嘲笑しつつ、同時にふと気が付いた様に顔を上げる。そしてその儘、彼女はチラリとエフェメラの方を一瞥しつつ、何やら意地悪心が滲む少女らしい相好を浮かべつつ彼女に問い掛ける。


「そう言えば、君は良くこれが見つけられたな。ワタシには見つけられなかったが……?」


 その問い掛けは、一種の揺さ振りとも言うべきか、或いはある種の鎌掛けとも言うべきか? 何方にせよ、彼女なりの含みがある問い掛けである事だけは確実。

 その真意は即ち、彼女が天使に与しているか否か。それを確認する為の問い掛けである。尤も、彼女が果たして天使に与しているのか、或いは天使による天羽の楔で心身を囚われているのか、将又天使そのものか、というそれは既に全て知り尽くしている為、この質問はアルピナにとって完全な余興でしかないのだが。

 そして勿論の事、エフェメラにとってもそれは殆ど同義。果たして魔王アルピナが何を考え、何を狙い、何を為そうとしているのか、その背景に何かしらの企みがある事は容易に想像が付くし、何より相好からして分かり易過ぎる為、決してその揺さぶりに乗せられる事は無い。余興なら余興らしく、彼女は彼女なりの楽しみを抱きつつ、その企みに乗じる様に、彼女はのらりくらりと微笑み乍ら彼女の問い掛けに対して口を開く。


「ふふっ、この施設の構造は、予め全て把握しております。これでも指揮官ですから。その程度の事も出来無ければ、仕事にならないでしょう?」


 何て事無い様に、エフェメラはサラリと言ってのける。確かに、彼女は天巫女という宗教のトップでありつつ四騎士という政治の最上位格も兼ねる特殊な立場。つまり、政教分離の原則の中で唯一、政治と宗教の両方の頂点を兼ねる事を許された特異な存在ともいえる。

 その為、言い換えれば、それを許されるだけの優秀さを兼ね備えているという事。未だ未成年の身であり乍らもそれが許されるだけの聡明さを持ち合わせているのは彼女最大の武器であり、だからこそ、極当然の様にそういう発言も出来るのだろう。

 尚、それに対して、アルピナは適当に相槌を打ちつつ話を受け流す事しか出来無かった。自分から聞いておき乍ら何とも不愛想な態度振る舞いだと言われ兼ねない程の雑な対応だが、しかし彼女としてもエフェメラの言には納得できる部分もまたあったのだ。

 というのも、彼女は彼女で悪魔公として全悪魔の頂点に君臨する存在。ヒトの子の魂の転生を司る上位生命の指揮官として、やはりエフェメラの言う通り、必要な情報は全て把握しておかなければ仕事にならないのは同じなのだ。

 実際、アルピナはその兼ね合いから、ほぼ全ての神の子の顔と名前と色と魂の波長は覚えている。直近10,000年以内に生まれた神の子に関しては未だ完璧とは言えないが、しかし粗方把握は出来ている。

 だからこそ、基本的な施設構造や隠し通路に至る迄を把握しているというエフェメラの主張には同意と共に納得の意を表出せざるを得なかったのだ。

 しかし、だからといって表立って分かり易く同意するのは、それはそれで少々恥ずかしい。なにより敵対している立場上、その印象から大きく逸脱する態度振る舞いというのは得てして奇妙にしか映らないものである。

次回、第408話は11/29公開予定です。

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