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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第397話:聖職者と天使②

 その後も、アルピナとスクーデリアは、手分けして聖職者基天使達に死を贈り続ける。隣町ではクィクィとヴェネーノも同様に聖職者達を手当たり次第恫喝してクオンとワインボルトの所在を明らかにしようとしている。

 だが、どれだけ無慈悲に残虐な死を贈り続けても、一向に目欲しい情報が得られる気配は無い。只徒に天使達の数が減る一方であり、或いは人間から見れば聖職者達が魔王によって狩られている。

 果たして、こんな事をして本当に意味があるのだろうか? 実は一部の天使だけがクオンとワインボルトに関する情報を与えられており、雑多な天使達を幾ら恫喝しても意味無いのではないだろうか? 或いは、抑として場所が違うのではないのか?

 凡ゆる仮定が、彼女らの思考を混濁させる。確固たる自信を以て事に当たっている訳では無い為にそれは仕方無い事なのだが、クオンの安否を思えば思う程、その焦燥はより色濃くなってしまう。

 また、それに加えて、人間達による反撃がアルピナ達にとっては邪魔な事この上無い。というのも、アルピナ達から見ればこの一連の行動は人間社会に潜伏する天使達の掃討なのだが、しかし人間達から見れば地域社会に根付く聖職者達の殺戮でしかないのだ。

 とはいえ、一つ一つを見れば、所詮はたかが人間よる反逆でしかない為、アルピナ達に傷一つ負わせる事は出来無い。聖力も魔力も龍脈も持たない一介のヒトの子では、如何頑張っても神の子に敵う筈が無いのだ。

 それでも、本来の目的を遂行する上での障害でしかない上に、余り無闇矢鱈に人間達を殺してしまっては、後でクオンに怒られ兼ねない。身も心も本質的には只の人間の儘でしかないクオンの為にも、彼を不快にさせる可能性のある行動だけは慎みたい所だった。

 そうして時が経つにつれ、魔王の襲撃を受けた町の数は着実に増えていく。最早各町に駐在している王立軍だけでは対処し切れない程の規模と数であり、人間社会は混乱の一途を辿っていく。

 だが、それでも、彼彼女ら人間達の心は未だ敗北していない。仮令最後の一人になろうとも決して諦めない不屈の心を身に纏い、残虐非道な魔王をこの世から駆逐する覚悟を胸に掲げ、臆する事無く彼女らの進撃を食い止めようとする。

 しかし、そんな人間達の闘志を一蹴する様に、アルピナ達魔王の侵攻は止まる所を知らない。現存する人間の聖職者達は挙って恐怖に打ち震え、人間に擬態した天使の聖職者達は、自らの体が露呈しない様に人間らしい演技で自然に溶け込もうとする。

 だが、その心中では、アルピナ達悪魔に対する疑問を渦巻かせていた。態々人間社会に潜伏して迄事を為そうとする雑多な天使ともなれば、何れもそれ相応に下位階級。天使級や大天使級に区分される者が大半であり、だからこそ、寧ろアルピナ達とは殆ど面識が無かったりする。

 故に、アルピナ達に対する認識は、人間達とそこ迄変わらなかったりする。神の子という種族故の優位性こそあれども、しかし各個体そのものに関する知識に関しては無知にも等しいのだ。

 それでも、天使の基本は上意下達。仮令敵の事を知らないとは雖も、上がそれを命じる限りに於いて、下はそれをしなければならないのだ。

 その為、表面上は人間らしい振る舞いを模索しつつも、内面ではアルピナ達に対して確固たる敵意を燃え上がらせる。勝てる勝てないは別として、命令を最大限忠実に実行する為にも、凡ゆる手段を行使する覚悟を決めるのだった。

 軈て、それから程無くして、天使達の抵抗も空しく、アルピナ達によって東方地区の聖職者達はそれなりに殲滅が完了した。町単位で見ても、東方地区に区分けされている約半数は既に攻略済みと言った所だろうか。

 とはいえ、本来ならもっと手早く終えられただろう。一国の約四半分を満たす広大な土地に点在する中規模な町とはいえ、しかしそれはあくまでも人間の価値観や機能上の観点での区分けに過ぎない。もっと大規模な価値観と生息空間を持つ神の子にしてみれば、それは然程広いとは言えないのだ。

 それでもやはり、人間達を徒に傷付けない様にする、という配慮が、その行動を遅延化してしまっていた。

 だが、とはいえ、僅か半日足らずで半数を殲滅出来たのだから、十分過ぎる成果だろう。やはり、クオンの無事を願う心が、彼女の迅速な対応を促しているのかも知れない。

 しかし、一方で、それでも尚、新たな情報は一向に得られない。アルピナとスクーデリア、クィクィとヴェネーノで其々二柱二組に行動しているが、それでも相変わらずの有様だった。


「手掛かりなし、か」


「そうね。魔眼が頼りにならないだけでこんなにも面倒になるとは思わなかったわ」


 如何したものか、と二柱は揃って溜息を零し、しかし如何しようも無い現実に動きを止める。抑として人間に擬態した天使だって、手当たり次第恫喝しつつ魔法による力業で無理矢理魂の秘匿を剥ぎ取っているだけに過ぎないのだ。真面な情報が得られなくても仕方無いだろう。


『アルピナお姉ちゃん、スクーデリアお姉ちゃん、聞こえる?』


 そんな時、アルピナとスクーデリアの脳裏に精神感応が突如として齎される。まるで心に直接語り掛けているかの様なそれは、状況と対極する程に陽気で明朗で華やかな代物であり、その余りの乖離具合に変な笑みが零れてしまいそうだった。

 だが、そんな笑いそうになる相好を無理矢理理性で抑え込みつつ、アルピナは至って冷静沈着な態度振る舞いを維持しつつ、その精神感応に答える。クィクィに対して此方からも精神感応を構築し、心の中で言語を構築していく。


『あぁ、問題無い』


『私も聞こえるわ。それで、一体如何したのかしら?』


 問題無い、と意思表示する二柱。そしてスクーデリアは、クィクィに対して精神感応を繋いだ意図を問い掛ける。

 というのも、状況からして、態々精神感応を繋いだという事は、それ相応に何らかの理由が込められているに違いないのだ。加えて、クィクィはこういう時に無駄な事をする性格ではない。それは、億を超す年月の中で培われた信頼関係によって土台されるものであり、決して疑う事の無い心理として彼女の心には刻み込まれていた。


『えっとね、何かそれっぽいもの見つけたよ』


 陽気な、そしてなにより嬉しそうな声色と口調で、クィクィは誰もが願っていた答えを精神感応に乗せる。それは、彼女が持つ稚さとあどけなさが前面に押し出されたものであり、姿が見えなくてもその可愛らしい姿形や態度振る舞いが容易に想像出来た。

 だからこそ、それに釣られる様に、アルピナもスクーデリアも其々顔を綻ばせる。しかしそれでも、決して糞みたいな驕りや慢心に思考を支配されない様に、極めて冷静を保つ事で、クィクィが見つけた者の詳細を窺う。


『そうか。それで、場所と状態は?』


『う~ん……状況は良く分かんないかなぁ。というか、魔眼に何も映らないから却って怪しいなってかんじ。それと、場所はサバトって町だよ』


 成る程、とアルピナはクィクィの言葉を噛み締めつつ、魔眼で周囲を見渡す。あくまでも見えないのは天使達の魂と聖力であり、クィクィ及びヴェネーノの魂は通常通り見えるのだ。

 だからこそ、サバトという町の詳細場所は知らなくても、その居場所に関しては直ぐに掴む事が出来た。尤も、周辺の地理状況に関しては、天使達を恫喝する過程で自然と手に入るし、そうでなくても全て知識として頭に入っている為、何も問題は無いのだが。

次回、第398話は11/15公開予定です。

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