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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第394話:ワインボルト②

「人間……あぁ、成る程。そういう事か。まったく、アイツが考えそうな事だ」


 如何いう事だ、とクオンは首を傾げてワインボルトに尋ねる。最早、聖拘鎖を破壊しようという気持ちは何処かへと霧散しており、彼は完全にワインボルトとの会話劇へと意識を集中させていた。

 だが、それは兎も角、そんな彼の疑問は尤もだろう。一柱勝手に理解し、名得し、面白可笑しく笑みを零している彼の態度振る舞いは、傍目から見て正直な所気味が悪い。憖、そんな感情と振る舞いを向けられる張本人だからこそ、クオンにはそれが得体の知れない不信感を一層募らせる要因にしかならなかった。

 だからこそ、そんなクオンの疑問符に対して、ワインボルトは素直に謝罪する。悪いな、と一言加える彼の態度振る舞いは一見して非常に軽いものだが、しかし実際の所は彼の本心からの言葉だった。決して蒙昧無知ではないからこそ、彼は直ぐ様その事実に気が付き、素直に非を認める事が出来たのだ。


「てっきり、アルピナから聞かされているものかと思ってな。だが、その様子だと、本当に何も聞かされてない様だな。……だったら、俺から話せる事は何も無いな。アイツの事だ、どうせ自分から直接話したがるだろうからな」


 それにしても、と同時にワインボルトは心中で吐露する。表面上に提示する対外的な態度振る舞いとは倒錯的なそれは、彼の率直な感想。此処10,000程顔を見ていない同胞に対する信頼と、倒錯的に抱いてしまう違和感乃至不信感によるものだった。


 あれから10,000年、幾ら龍魂の欠片があるとはいえ半信半疑だったが、まさか本当にあんな計画が実現するとはな……。


 何時だったか全ての真相を知らされた時、ワインボルトには如何してもそれが信じられなかった。幾らその発案者が悪魔公アルピナ及び皇龍ジルニアだったとはいえ、しかしそれが世の中の理に反する行為だったが為に、如何しても理性が理解と納得を拒絶してしまっていたのだ。

 勿論それは、龍魂の欠片という明確な成功の手掛かりが直接手元に齎されてからも同様。若しかしたら手の込んだ悪戯なのではないか、と思ったのは一度や二度では済まない。

 だが、こうしてクオン・アルフェインなる人間が眼前に現れた時、そしてその魂を魔眼を介して詳らかにした時、その不信と疑惑の霧は一気に晴れ上がったのだった。

 だからこそ、ワインボルトは、眼前で自身と同様に囚われている初対面の人間に対して、最大限の信頼と信用を素直に預けたのだ。

 そして、そんなワインボルトの言葉に対して、クオンは何処か納得いかない相好を浮かべ乍らも、しかしそれを無理矢理理性で抑え込む事によって強引に納得する。

 というのも、こうして話をはぐらかされたのは今回が初めてではないのだ。ヴェネーノと初めて会った時も、クィクィと初めて会った時も、スクーデリアと初めて会った時も、そして何よりアルピナと初めて会った時も、何れも同様に話をはぐらかされた。今は未だその時ではない、とばかりに雑な言い訳を重ねられ、煮え切らない思いを無理矢理飲み込まざるを得なかった。

 果たして、自分は悪魔達にとって如何いう存在なのか? 皇龍ジルニアの魂を元にした龍魂の欠片を集める旅に、果たして自分がどんな役割を果たすのだろうか?

 どれだけ考えても、しかしクオンが今現在持つ情報だけでは決して答えには辿り着けなかった。

 抑、龍魂の欠片自体、その内の一つはクオンが元から持っていた。そして、その欠片と共に、欠片を納める為の台座もまたクオンが持っていた。

 一体、これは如何いう事だろうか? 何故、一介の人間でしかなかった筈の当時のクオンが、神の子に由来するものを持っていたのだろうか? 

 あれは、クオンが実の両親と離れ離れになる前、つまり師匠こと養父に拾われる前に、その両親から渡されたものらしい——尤も、それは物心つく以前の頃の為、クオン自身は全く覚えていない——。つまり、手に入れたのがアルピナと出会って以降だというのであれば兎も角、決してそうではないという事だ。

 その為、言い換えれば、クオンはアルピナと出会う遥か以前からジルニアと何らかの関係性があったという事、それこそ即ち、アルピナ達が挙って隠そうとしている秘密であり、全ての根幹に関わりそうな重要事項とも言えるのだ。

 だが、どれだけクオンがその秘密を知ろうと策を弄しても、その秘密を能動的に知る事は出来無い。仮令どれだけ強力な力を付けようとも、所詮は借り物の魔力と借り物の龍脈で存在を誇張しているに過ぎず、本来の持ち主である悪魔達に敵う筈が無いのだ。

 その為、クオンに出来る事は、アルピナ達が自主的にその秘密を打ち明ける時を待つ事だけ。何れ来るであろうアルピナが待ち焦がれている〝その時〟とやらを、首を長くして待ち呆ける事しか彼には出来無かった。

 故にクオンは、少々納得いかない気持ちを心中に燻らせども、しかし理性で無理矢理それを抑え込む事で、気持ちに整理を付ける。ワインボルトのはぐらかしに適当な生返事を零しつつ、そんな感情を放棄するかの様に大きな溜息を零すのだった。

 それで、とそんな居心地悪い微妙な空気感を吹き飛ばす様に言葉を発したのは、ワインボルトだった。外見年齢上は少々程度しか変わらないとはいえ、立場や種族上は彼の方が圧倒的クオンより上。同時に、経験もそれ相応に豊富だし、何より知識面に関しても彼の方が圧倒的に深い。その為、主導権を握るのならば、クオンよりもワインボルトの方が圧倒的に適任だったのだ。


「クオンは誰に攫われて此処に連れてこられたんだ?」


「生憎、天使の名前は殆ど知らないからな。只、分かっている事とすれば、最初は〝邪悪なる異端の審問者〟とかいう団体を名乗っていた事、その内の一柱が此処の周囲を覆っている聖力の障壁と同じ波長を持っていた事、その天使の翼が二対四枚だった事だな。意識を奪われる直前の一瞬だけしか知覚出来無かったが、間違いない」


 改めて龍魔眼を開きつつ、クオンは再度確認する様に周囲の障壁を見据える。やはり、何度繰り返し確認しても、障壁を構築する聖力の波長は、自身の意識を奪い誘拐した犯人集団の内の一柱が持つ魂の波長と同一であり、それは間違いようの無い事実だと確信出来る。

 そして、そんな彼の言葉及び振る舞いに呼応する様に、ワインボルトもまた魔眼を開いて周囲の障壁を確認する。金色の魔眼を暗闇の牢獄の中でも煌びやかに輝かせ、その障壁の構造を詳細に分析する。


「だとしたら、そいつは智天使級天使ラムエルだな。俺を此処に幽閉した奴だ」


 しかし、名前を言われても、クオンにはまるで心当たりがない。だが、顔も名前も知らない天使が襲ってくるのは此処最近の日常茶飯事に成っている為、別に今更困惑する事は無い。

 それでも、智天使級天使といえば彼一人では如何頑張っても勝てない相手である事には相違無い。ルシエルの様な穏健派だったら辛うじて暫くの間鍔迫り合えるが、しかしそれでも殺し切る事は出来無いのが現実。

 加えて、それが若しシャルエルの様な武闘派だったら、魔力に加えて龍脈を使い熟せる様になり、龍魔力として合成出来る様になった今でも到底勝ち目は無い。寧ろ、殆どアルピナの力だったとはいえ良くあの時は勝てたな、とすら今でも思ってしまう程。

 故に、その智天使級天使ラムエルとやらが武闘派なのか穏健派なのかは知らないが、それでも相応の警戒心を抱いてしまうのが現実的な感想だった。

次回、第395話は11/10公開予定です。

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