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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第392話:幽閉

 そんな彼女、智天使級天使ラムエルは、自然光が一切齎されない陰鬱としたその場所を一柱静かに歩く。コツコツ、という環境と倒錯した優雅で重厚な靴音が幾重にも反響し、彼女が持つ立場相応の雰囲気が、歩いた軌跡にしっかりと残されていた。

 彼女が目指しているのは、その空間の最奥部。陰鬱とした空気がより一層色濃くなるその場所に、彼女は如何しても赴かなければならない訳があった。環境的に余り近寄りたくは無いが、しかしそれも全て自分で拵えたもの。故に、今更文句を垂れる事は出来無い。その為、仕方無い、と割り切る事で、彼女は黙然と足を進める。


 さて、と……。直ぐに音を上げてくれれば良いんだけど……多分無理だよねぇ、あの感じだと。


 はぁ、と分かり易く大きな溜息を零し乍ら、彼女は思考を回す。これから行おうとしている彼是がきっと上手くいかないであろう事は容易に目に浮かぶ為、だからこそ余計にそれが面倒に感じてしまう。

 だが、必要が必要であるが故に、彼女は心を律して事に当たろうと気持ちを切り替える。彼女が我が君と呼び付き従う天使長セツナエルからの御下命を果たす為にも、彼女はそれを為さねばならないのだ。

 そんな彼女は、徐に榛摺色の瞳を金色の聖眼に染め替える。魂から湧出される聖力を瞳に宿し、同時にそれを外部に悟られない様に徹底的に秘匿する。そして、その特殊な瞳で、彼女はこの場所の最奥部を見据える。


 ……状況は変わらず……か。まぁ、一晩経過したくらいでそんなに変わる訳も無いか。……それにしても、本当にこの子が皇龍の魂を持ってるのかな? 俄には信じがたいけど、我が君がそう言ってるんだし、きっとそうなんだろうねぇ。


 天使の目的は、龍魂の欠片を集める事。果たしてそれが如何いう目的の下に行われているのかは実行している天使達自身さえも知らないが、しかし我が君事天使長セツナエルがそうせよと命じている限りに於いて、彼彼女らはそれを為さねばならない。明確な上意下達が徹底されている天使としての宿命であり、そこには如何なる主観も入る余地は残されていないのだ。

 だからこそ、この通路の最奥部に閉じ込めた人間クオン・アルフェイン皇龍の魂を所持している、という非現実的な現実に対しても、仮令どれだけその真実が疑わしくても、一介の智天使でしかないラムエルにはその命令を拒絶する処か疑う事すら許されないのだ。

 故に、彼女は、その半信半疑な思考を適当な所で放棄する。許されていないとは雖も行為そのものに対して何か罰則がある訳では無い為、そこ迄徹底的に妄信する必要は無いのだが、そんな微かな疑問が時として大きな隙や油断を生む切っ掛けに成り得る事を、彼女は知っている。だからこそ、彼女は敢えてその思考を放棄したのだった。


***   ***


「ここは……?」


 クオン・アルフェインは、目覚めと共に周囲を見渡す。

 薄汚れた狭い空間。ジメジメとした陰鬱な空気。そこは、決して過ごし易いとは言えない劣悪な環境だけで構築された牢獄。果たして今の時代にこんな時代錯誤的な場所が存在していても良いのだろうか、とすら思ってしまう。憖、アルピナと出会う迄は比較的平和で長閑な生活を送っていたが為に、余計にこういう劣悪な環境には嫌悪感を抱いてしまうのだ。

 そして何より腹立たしいのは、現在の身体状況。取り分けて身体や精神に傷を与えられているという訳では無いし、精々この劣悪な環境のせいで服が薄汚れてしまっている程度。しかし、その四肢には暁闇色の鎖が幾重にも巻き付けられ、シッカリと固定されているのだった。


「魔拘鎖……いや、聖拘鎖か」


 魔拘鎖は魔力で構築された鎖を生み出す魔法。しかし、それはその性質上の理由から黄昏色にしかならない。しかし、今現在クオンの身体を拘束しているのは、鈍い暁闇色に輝く鎖。つまりそれは、悪魔を悪魔足らしめる魔力では無く、天使を天使足らしめる聖力によって構築された聖法の産物。その為、魔拘鎖に対して聖拘鎖と呼称出来得るのだ。

 そんな腹立たしい拘束具を忌々しく睥睨しつつ、同時に彼はその実行者について思いを馳せる。それは、つい昨日——尤も、クオン自身には日数の経過を確認する術は無い為、果たして何日経過したのかは全く以て不明なのだが——に王都で受けたあの襲撃事件の実行者達についてであり、加えてその目的とこれから行われるであろう事に関しての予測だった。


 ……あの襲撃から一体どれくらい経った? それに、ナナとレイスとアルテアは無事なのか?


 クオンは、必要最低限の龍脈を異空収納の深奥に隠した遺剣から拝借しつつ、魂から極少量の魔力を湧出させて、それを綯交しつつ瞳に流す。そうして龍魔眼を微かに発露させる事で、琥珀色の瞳を金色に染め替え、彼は周囲一帯を探る。果たして王都がどの方角にあるのかが分からない上に、抑此処が何処か分からない為に、完全な手探りと虱潰しでしか無かったが、しかし他に手段が無い為に如何しようも無かった。


 ……やっぱり、上手く見えない儘か。


 しかし、如何しても王都の様子は探れない。それ処か、今現在彼がいるこの狭い空間より外の様子が一切感じられなかった。

 その代わりに感じられるのは、強烈な聖力の膜。まるで盾の様に周囲一帯を取り囲む形で展開されるそれは、それより外の様子を一切探知させてくれなかったのだ。

 これは、馬車の中で感じたものと完全に同一。それも、只性質が同じというだけの話では無く、それを構築及び維持をしている聖力の波長すらも完全に一致指していた。

 それはつまり、これが同一天使によって構築されたものだろうという事、だがしかし、彼はこの聖力の波長には何ら心当たりが無かった。

 尤も、神の子なる存在を知ってからそれ程時間が経っていない為、彼がそれに心当たりが無くても無理は無い話なのだが。

 それに、神の子の数は非常に膨大。星の数程いる、という表現がこれ程当て嵌る事はそう多くないだろう、と感心してしまいたくなる程には、神の子の数は非常に多いのだ。やはり、〝産めよ・増えよ・地に満ちよ〟を本能的基本原則とする彼彼女らヒトの子の魂を適切に管理する為にも、必然的に管理者である神の子の数はそれに従って多くなってしまうのだろう。

 そんな話は兎も角、クオンはその波長に全く以て心当たりは無いものの、それでも大方の予測は付いていた。

 彼が現状の理解度とこれ迄得てきた知識から導き出したその予測、つまりこの障壁を生み出した聖力の正体に関する推察は、昨日の襲撃でクオンを眠らせた例の女性形智天使級天使だった。

 果たして彼女は誰なのか? 

 背中から二対四枚の翼を伸ばしていた事から、恐らくあれは智天使級天使で間違い無いだろう、とクオンは自分なりに予測する。というのも、彼がこれ迄会って来た天使達の中で、二対四枚の翼を持っていたのはシャルエル、ルシエル、バルエルの三柱だけ。その三柱が何れも智天使級だった事はアルピナ達から聞かされている。その為、言い換えれば、それ以外の可能性を選択肢として持てなかった。

 しかし、髪の色と瞳の色はこれ迄一度も見た事が無い。アルピナ達曰く、髪と瞳の色は基本的に個体色に準ずる、という事を聞いてはいたものの、だからこそ、これ迄見た事も無い色を見せられたら尚の事その正体は不明瞭になってしまう。

 加えて、肝心の魂はベリーズでの一件と同じく不明瞭であり、或いは不安定であり、その詳細を掴ませてくれなかった。まるで雲を掴んでいるかの様な感覚が脳裏を渦巻いてしまい、そのお陰もあって欠片たりともその正体を探る事が出来無かったのだ。

次回、第393は11/8公開予定です。

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