表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
381/511

第381話:龍王達の困惑②

 しかし、スクーデリアは本来穏健派。それは、悪魔達のみならず他の神の子達からも良く知られている事実。何より、龍達にとってみれば彼女は神龍大戦で共に戦った仲間であり、そうでなくとも色々とお世話になっている間柄である。

 加えて、そんな神龍大戦時ですら、彼女は必要に駆られた時にしか戦おうとはせず、つその際も必要最低限の量だけしか魔力を放出していなかった。

 だからこそ、そんな彼女がこれ程(まで)に強い力を放出しているという事実には、驚き以外の感情が浮かばない。

 果たして、一体何が起こっているというのだろうか? あのアルピナが、あのスクーデリアが、これ程迄に平穏とは程遠い荒れ模様を見せている。

 その背景には何が隠されているのか? 余りにも遠く離れたこの地では、何も見通す事が出来無い。かといって、そう気楽に地界へ乗り込む訳にもいかない。如何どうしようも無いもどかしさが、彼彼女らの心を燻って止まなかった。

 そんな時、二柱にたいがいた龍王の間——ジルニアの生前は皇龍の間と呼称していた——にシンクレアが顔を覗かせる。もっとも、人間社会でいう玉座の間の様に、関係者以外必要の際を除き立ち入り禁止だったりする訳でも無いし、そもそも龍王という役職だって殆ど名誉職の様なものへと形骸化している為、別段おかしい訳でも無いのだが。

 兎も角、顔を覗かせたシンクレアを、ログホーツとノーレイティアは快く迎え入れる。それは、地界の状況に動乱している心を落ち着かせる為の格好の気分転換にもなるし、何より彼はつい先日(まで)地界にいてアルピナと会っていた。つまり、何かを知っている可能性が極めて高いという事だ。


「シンクレア。地界の動静はもう見た?」


 ノーレイティアは、優しく問い掛ける。しかし、その優しくお淑やかで気品ある声色とは裏腹に、その内奥には微かな緊張感が隠し切れずに溢出していた。


「あぁ。アルピナもスクーデリアも、天魔の理を逸脱している様だな。その原因は恐らく————」


 そう言い掛けた所で、しかしシンクレアは言い淀む。

 決して、言ってはならない事柄故に何処どこまで言っても良いのか分からずに言葉を濁している訳ではない。如何どう伝えたら良いか分からずに困惑する事しか出来無かったのだ。

 というのも、如何どうやらアルピナ達は色々と秘密を持っている様子。それも相まって、表面的な事実こそは理解出来るのだが、その真相がイマイチ掴み切れないのだ。


如何どうした? 原因は恐らく何だ?」


 だが、そんな彼の心中環境などまるでお構い無しに、ログホーツは彼に問い掛ける。もっとも、読心術でその内奥を読み取っているのならばいざ知らず、そうでも無いのに、言わなくても察しろ、というのは烏滸がましいにも程がある。言ってない事は思ってない事の同義なのだ。それ以上を求めてはならない。

 だからこそ、シンクレアは、ログホーツからのそんな問い掛けに気分を害される様な事は無い。彼の言っている事は妥当であり、立場が逆になれば自分もそうするであろう事は容易に想像出来る。

 故に、彼は如何どうにか脳裏で言葉を構築し、途切れ途切れに成りつつも無理矢理思う所を伝えようとする。


「あー……、俺も良く知らない事だが、如何どうやらアルピナ達が行動を共にしていた人間に原因がある様だ。果たしてあの青年が何者で、何故アルピナ達があそこまで肩入れするのかは定かでは無いが、彼の魂がつい先程消失した。恐らく、それで取り乱しているのだろう」


「人間? そういえば、先日見た時には近くにいたが……確かに今は見えないな。だが、一体何故?」


 ログホーツは、喉ををゴロゴロと鳴らしつつ考えに耽る。果たしてあの人間が何者なのかはサッパリ不明。如何どうやら契約を結んでいるのだと思われるが、しかし契約の目的や切っ掛けもまた不明。何より、ヒトの子に何ら興味を示さないあのアルピナが積極的に契約を結んでいるという事実が、その疑問をより強固()つ複雑なものへと押し上げている。


「魂の反応が消える直前、近くに天使の魂が微かに映った。波長からして、恐らくラムエルとアウロラエルだろう」


 ラムエルとアウロラエル。何方どちらも智天使級天使であり、しかもその階級中では最上位に限り無く近い存在。それこそ、ログホーツより遥かに年上であり、幾ら相性的優位性があるとはいえ、彼でも正面から真面に戦えば恐らく勝てないであろう程の強者である。

 そんな天使の中でも指折りの強者にして古参でもある彼女らが、一体何故人間を攫ったのだろうか? そもそも、神の子にとってヒトの子は管理すべき対象であり、業務上の数字に過ぎない。

 加えて、興味関心に基づいて契約を結ぶ事で対象の心に近付く悪魔とは異なり、天使は基本的にヒトの子に関わらない。精々、天羽の楔で支配する程度であり、あくまでも管理者と被管理者という絶対的な線引きを絶やさない。

 故に、その中のたった一粒に対して限定的に関与するという事は、それに相応する何らかの理由があると見做す方が適当だろう。同じ神の子として、ログホーツもノーレイティアもシンクレアも、同じ気持ちだった。


「あの二柱ふたりね……。そういえば、あの子達って何方どちらも今の天使長とはかなり近しい間柄だったわよね」


「そう言えばそうだったな。……だとすると、狙いは皇龍の魂か?」


 思考を整理しつつ、その先の解に漸く辿り着いた様に、シンクレアはおもむろに呟く。

 ジルニアの龍魂の欠片も、ジルニアの角を基にした遺剣も、何方どちらも現在はクオンの手元にある。そして、天使達が今欲しているものこそ、正しくそれ。実際、ベリーズでの攻防戦も、それが原因だった。実際に巻き込まれたからこそ、シンクレアは実体験としてそれを理解出来たのだ。

 しかし生憎ログホーツとノーレイティアは納得していない様子。正しくは、それが正解とも誤りとも判断出来ていなかった。そして、それがそもそもとして龍魂の欠片や遺剣に関する彼是あれこれを何ら知らないが故のものである事を、彼は理解した。


「皇龍の魂?」


 だからこそ、シンクレアは端的にそれを説明する。出来ればもっと本腰入れて仔細を叩き込みたい所なのだが、生憎そんな悠長に座学をしていられる状況ではない。加えて、シンクレア自身殆ど何も知らない。精々、そういうものが存在し、悪魔がそれを探し、天使が奪おうとしている、という程度。それ以外に関しては、眼前にいるこの二柱にたいと大差無かった。


「今、天使と悪魔が対立している原因だ。俺も詳しくは知らないが、アルピナ達はそれを集める為に旅をしていて、一緒にいるクオンという人間がそれを管理しているらしい」


 だからこそ、そんな彼が襲われたという事は、即ち彼が管理しているそれが狙われたという事。まさか、たかがヒトの子でしかない彼自身にそんな価値があるとは思えない以上、それ以外の理由は考えられなかった。


「そうなのね。でも、彼は死んだ筈よ。何で今頃魂だけが出て来るのかしら? しかも、それを管理しているのがあのアルピナでは無くてただの人間? ますます謎が増えるばかりね」


 ノーレイティアは大きく息を吐き零しながら静かに呟く。最早、これ以上考えても思考が堂々巡りするだけでしか無く、むしろ余計なリスクを増やし兼ねなかった。

 だからこそ、彼女は改めて龍眼で地界を観察しつつ、気が付けばアルピナ達の魔力が鳴りを潜めている事に安堵する。そして、兎に角、と彼女は気持ちを切り替える様に、ログホーツとシンクレアに言葉を掛ける。


「暫くは様子を見る事にしましょう。それと、必要に応じて何時いつでも地界に行ける様に準備も進めるべきね」

次回、第382話は10/24公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ