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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
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第375話:微かな希望の灯火

 その為、この場にいる悪魔アルピナ、スクーデリア、クィクィ、ヴェネーノ、アルテア、ルルシエの中で智天使級天使と真面に渡り合えるのは、現状アルピナとスクーデリアしかいない。後は精々、クィクィが相手次第では戦えるだろう、という程度。アルテアとルルシエに至っては、智天使級(どころ)か座天使級ですら真面に相手にさせてもらえない程に隔絶された実力差が存在する。

 それでも、やらなければならないのだ。幸いにして、これまで戦ってきたシャルエル、ルシエル、バルエルもまたその智天使級に属する。彼彼女ら程度と考えれば、だ多少は精神的に楽だった。


「それに、連れ去った場所も不明なままだ。せめてこの地界の中なら如何どうにでもなるが、天界に連れ去られていたら面倒だ」


 せめてこの国の中で、とは成らない辺り、実に神の子らしい。地界とは即ち宇宙空間の事。今尚人間では踏み出した事の無い極地をその程度で済ませられるのは、それより外の領域を知っているからこそ出来る発言だった。

 だよねぇ~、とクィクィは溜息を零す。いとけない少女の様にしか見えない彼女も、その実ヴェネーノより遥かに年上。故に、あらゆる側面にいて経験には恵まれている。その為、天界に逃げられるという面倒具合を知識としてではなく実体験として嫌がるのだった。


「そうね。でも何より、魂を追えないのが厄介だわ。これもベリーズの時と同じかしら?」


 スクーデリアは自身だけが持つ唯一無二の瞳である不閉の魔眼を凝らす。

 それは、あらゆる悪魔の頂点に立つアルピナの魔眼よりも精度と出力の双方にいて秀でた代物であり、聖眼及び龍眼を比較対象に加えても並び立つものは無いとされている。それこそ、これより上となればエロヒムが持つ神眼しかないだろう。

 そんな彼女の魔眼で見通せる範囲は非常に広い。それこそ、この国を飛び出し、この星を飛び出し、この地界を飛び出し、更には天界と魔界を加え、それらを内包する龍脈全体を捉えられる。詰まる所、この世界丸ごとが彼女の掌中に収まっている様なものだ。

 しかし、そんな彼女の魔眼ですら、肝心のクオンを含め、その彼を攫ったと目される天使の魂もまた、捕捉する事は出来無かった。映るのは精々雑多なヒトの子か、あるいは自身らを始めとする他の神の子だけだった。

 それはつまり、彼女の魔眼で捕捉出来る範囲内に対象が存在しないという事。生憎、龍脈の外縁——つまり世界と蒼穹を隔てる外膜——は非常に堅牢()つ特殊であり、中から外を観測する事は出来無いのだ。その為、対象が存在しないという事は世界の外に出てしまった事と本来であればイコールで結ばれる関係にある筈だった。

 しかし、ベリーズでの一件が、その本来それしか考えられなかった筈の可能性に新たな一ページを刻ませてくれた。

 それこそ、バルエルを始めとする一部天使達の魂が観測出来無かった問題だ。あれこそ正しく、同じ世界にいながらも魂を観測させてくれなかった良い例外だった。

 そして、その経験があったからこそ、スクーデリアにしろクィクィら他の悪魔達にしろ、魂を観測出来無かった=この世界にはいない、と早合点する事が無かった。

 だがそれは、詰まる所の話として、何も分からないという事でもある。これまで通りなら、対象の魂が観測出来るまであらゆる世界を虱潰しに渡り歩けばそれで良かった。しかし、その限りでは無い、という事を知ってしまったが為に、何方どちらの可能性も考慮しなければならなくなってしまったのだ。


「多分そうなんじゃないかな? 今(まで)ずっとこの国の中で済んでたのに、今更国(どころ)か世界を移るなんて考え辛いし」


 そんな中、ルルシエは彼女なりの予測を静かに呟く。それは、決して客観的な根拠を伴う訳では無い単なる予測だが、しかし決して荒唐無稽な夢物語という訳でも無い無難なもの。もっとも、こういう状況だからこそ、客観性に乏しい予想は却って判断を歪ませる要因になり兼ねないのだが。

 それでも、悪くない考えでもある。故に、スクーデリアは彼女の言葉に対して静かに思考を深める。最年長として、或いは悪魔公を代行した事のある身の上として、他者より僅かながらに秀でている豊富な経験だけが頼りだった。


「予測で動くのは得策では無いわね。かといって、余りのんびりしていたら、それこそ手に負えないわ。如何どうにかして選択肢を絞らないと……」


 如何どうしたものか、と誰もが頭を悩ませる。一応は神の子として、あらゆるヒトの子より知能は高いのだが、それは敵である天使も同様。この状況下にいて、それは何らアドバンテージとは成り得なかった。

 そんな中、この重苦しい空気を吹き飛ばす様に声を発したのは、ナナだった。龍人という神の子ともヒトの子とも呼べない半端者である彼女は、龍の血を覚醒させたお陰か、今や神の子としての知識もヒトの子としての知識も何方どちらも有する交雑種へと変貌している。それでも、だ人生経験に乏しい為か、やや遠慮がちなか細い声色と口調だった。


「あの……龍の都(タナーニィーン)におられる龍達に尋ねてみるのは如何どうでしょうか? 先日シンクレア様がご帰還為さったそうですが、それに際してこの星の様子も適宜窺っておられるかも知れません」


 龍人にとって、龍とは自身の祖。あるいは創造主の片割れにも等しい。故に、直接対面している訳でも無くただ言葉の俎上に載せているだけにも関わらず、自然と言葉遣いが丁重になってしまう。

 尚、ナナもレイスも、龍とは直接会った事は無い。故に、龍というのが果たしてどの様な種族なのかは良く知らない。精々、自身らの体内を流れる龍の血が教えてくれる限りの認識に限られる。

 だからこそ、こうして提案したものの、果たしてその通りになっている保証は無い。龍がそんな興味関心に身を委ねて地界を観察する様な性格乃至(ないし)慣習を持っているとは限らないし、なんならそんな事が出来るのかすら不明。

 それでも、彼女の提案に対して、スクーデリアもクィクィもヴェネーノもアルテアもルルシエも、其々《それぞれ》ハッとする。成る程納得と言わんばかりにナナを見つめ、其々《それぞれ》その瞳には微かな希望の灯火が揺らめいている様な輝きすら感じさせてくれた。


「成る程、悪くない考えね。シンクレアの働き掛け次第でしょうけど、可能性は高いわね」


「それに、今龍を率いてるのってログホーツだよね? だったら色々と事情も知ってるしさ、きっと見てるんじゃないかな?」


 そういえば、とばかりにクィクィは思い出しつつ呟く。彼是かれこれ数千年程天使の天羽の楔に囚われていた為に、その間の神の子事情は全く把握していないが、しかし神龍大戦も終結しているこの時代にたかが数千年程度でそんな大きな変化が訪れるとも思えない。

 故に、多少古い知識だが、何も問題は無かった。それに、クィクィが把握していなくてもスクーデリアがその辺りの事は既に確認している。それに、この中ではルルシエがその辺りの事を全て経験している。何も不安になる必要は無かった。


「そうね。10,000年前から龍社会は何も変わって無いよ。スクーデリア達と連絡が取れなくなってからは多少慌ただしくしてたけど、それは龍に限らず神の子全体での話だったから」


 だからこそ、ルルシエが彼女らの空白期間を埋め合わせる様に付け加える。もっとも、態々補足しなければならない様な出来事など何も無かった為に、殆ど意味の無い余談でしか無かったのだが。

 それでも、何も聞かないよりはマシ。何も無かったという事が客観的に保証されただけでも、主観的予測に身を委ねるよりは何倍も有用なのだ。

次回、第376話は10/16公開予定です。

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