表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第4章:Inquisitores Haereticae Pravitatis
366/511

第366話:王城の反応と対応

 そうしてアルピナが王都上空で悪魔としての力を顕現させて理性を亡失させている頃、それは同じ王都内に存在する王城からも観測されていた。果たして一体何事なのか、とばかりに誰も彼もが窓辺に寄り、視界の奥に浮かぶ恐怖の具現に意識を集中させていた。

 そして、その正体が今現在人間社会を恐怖に陥れている魔王そのものである事を、彼彼女らは理性では無く本能で理解した。同時に、彼彼女らの心はかつて無い絶望のどん底に叩き落され、あるいはその本能すらも失調した完全なる恐慌状態へと陥ってしまっている様だった。

 勿論、それは四騎士も同様である。彼彼女らもまた並み居る多くの人々と肩を並べる様にして窓辺に寄り、硝子の向こうに広がる城下町を覆い尽くす絶望の象徴に並々ならぬ敵意を向ける。拳を握り締め、鋭利な視線を滾る様に輝かせ、其々《それぞれ》の心中で其々《それぞれ》の思いを目まぐるしく湧出させていた。

 しかし、他の者共と四騎士とで異なるのは、その精神状況。一介の文官でしかない雑多な彼彼女らは、魔王アルピナの出現に対して全くの無力である事も相まって、完全に戦意を失っていた。あるいは、生を諦観して死を待ち受けている者(まで)いる始末だった。

 それに対して、四騎士は文官でありつつも武官としての側面も併せ持っている。それもあってか、将又はたまた実際に魔王と邂逅した経験がある者も含まれている為か、戦意は今(なお)喪失していない様だった。それどころか、民草の安全を今度こそ取り戻してやろう、という気概すら感じさせられる程だった。

 だからこそ、彼彼女らは決して茫然と魔王アルピナの姿を眺めているだけに留まらなかった。彼彼女らは、自身の管理下に存在するあらゆる組織人員を動員し、民草の安全を守る為にあらゆる手の限りを尽くすべく行動を開始したのだ。

 果たしてそれは本当に意味のある行動なのだろうか? そんな自問に対して彼彼女ら自身確信を持つ事は出来無かった。しかしそれでも、何もせずただ座して滅亡を受け入れるくらいなら多少なりとも足掻いて見せた方が幾分マシだろう、という希望に基づく事で、彼彼女らはその行動を正当化するのだった。

 取り分けて颯爽と動き出したのは、ガリアノット・マクスウェルとアエラ・キィスの二人。彼彼女二人は共に魔王との邂逅経験があり、中でもアエラに関しては直接剣を交えた数少ない存在。つまり、魔王という存在の強大さ乃至ないし異次元さを誰よりも詳しくその肌感覚で直接認識している。だからこそ、誰よりも現状にける自分達の置かれている不利状況を認識する事が出来、同時に誰よりも早く対処の一手を打つ事が出来たのだ。

 ガリアノットは王城内に駐留していた王立軍及び自身とガリアノットが其々保有している直属の部隊を率いて王城の外へと向かう。どれだけ数を率いても多数に無勢で大きな効果は見込めないかも知れないが、しかし中途半端に少ない数に絞って徒に人命を浪費するくらいなら、この方が士気の向上に一役買える分効果的だった。

 また、アエラは自身の直属部隊及び動ける文官を率いて同じく王城の外へと向かう。彼女の役割は民草の保護。それなりに戦える者は皆ガリアノットに連れていかれた為、彼女が採れる最善手は必然的にこれになってしまったのだ。もっとも、武官としての側面が強いガリアノットと異なりアエラは四騎士の中では比較的文官寄りという事もある為、全く以て采配ミスとは言えないのだが。

 そして、一拍遅れた様にグルーリアスも動き出す。しかし彼の直属部隊は全員ガリアノットに率いられて王城の外へと向かっていった。その為、必然的に彼は単独での行動を強いられる。加えて、彼は年齢の兼ね合いもあってガリアノットの様な大立ち回りを自他共に期待出来無い。

 そういう訳もあって、彼は王城内で出来る事に注力する。幸いにして彼は四騎士筆頭という事もあり、四騎士という派閥全体を統括する役割を担っている。その為、現場での大立ち回りは他の四騎士に一任し、彼は六大貴族達に声を掛けつつ国王陛下の許に集結し、現状の共有や今後の動きについての協議を行うのだった。

 そうしてグルーリアス、アエラ、ガリアノットは、其々《それぞれ》自分達の出来る最大限の事を模索し実行しているのだった。しかし一方、彼彼女らと同じく四騎士の内の一人、そして此処ここプレラハル王国の国教にける最高位聖職者たる天巫女を兼任するエフェメラ・イラーフだけは何処どこか雰囲気が異なっていた。

 彼女だけは、他の四騎士と異なりその場から積極的に動こうとしていなかった。彼女は、その猫の様に大きなやや垂れた茜色の瞳で以て窓越しに小さく映る魔王アルピナの姿形を捉え、ただ静かに見つめていたのだった。

 果たして彼女は何を考えているのか? しかし、それどころでは無い彼彼女ら文官達は、エフェメラのその奇妙な態度振る舞いを気に留める事は無かった。また彼女と派閥を同じくする他の四騎士達も、自分達の行動に注力していた為に、そんな彼女の動向はまるで目に入っていなかった。

 そのまま、彼女は微かに微笑む。決して声には出さず、微かに口元と眼差しだけを緩めるそれは、しかし誰の瞳にも映らない程に小さな変化。あるいは映っていても気のせいだと断じて無視してしまう程に状況から逸脱したものだった。

 そして、彼女はようやおもむろに動き出す。コツコツ、と靴音が王城の中に鳴り響き、しかしそれは決して軽やかとは言い難い重く低いもの。聖職者特有の神聖さの中に存在する威厳と尊厳を最大限表出した様なそれは、まるで彼女の心中に巣くう心情をそのまま体現しているかの様だった。

 やがて、彼女の姿は何処どこかへと消える。その姿を見て、恐らく自身の天巫女としての権威権限を最大限活かしつつこの状況を打破するべく行動を開始したのだろう、と誰もが信じて止まなかった。だからこそ、誰もその背中を引き留める事はしなかった。

 しかし、あくまでも声を掛けなかっただけで、そんな彼女の背中を眺めて何やら物思いに耽る者がいた。それは魔王出現に際して誰も彼もが慌ただしくする中でも平然としており、つ四騎士達が其々《それぞれ》独自の行動を取る中それに追従しなかった稀有な存在。

 詰まる所、巷で英雄と呼ばれ持て囃されているセナとアルバートの二人——正確にはアルバートの影の中に潜むルルシエを加えた三人——だった。彼彼女らもまた文官達に交じって窓の向こうで狂乱する魔王アルピナの姿をその目で捉えつつ、状況がまるで理解出来ずに困惑していた。


『ねぇ、あれってアルピナだよね? 一体何が起きているの?』


 アルバートの影に潜みつつ彼の視界を共有する事でアルピナの姿を捉えているルルシエは、精神感応テレパシーを繋いで二人に尋ねる。その声色は完全に困惑しており、顔は見えないもののきっと同じくらい困惑を露わにしているであろう事は容易に想像出来た。

 しかし、そんな彼女の問い掛けに対してアルバートは元よりセナもまた即答出来ない。アルピナと同じ悪魔であり、つルルシエと異なりアルピナとはそれなりに付き合いが長い彼でさえも、予測一つ立てる事すら叶わなかったのだ。

 あるいは、中途半端に相手の事を知っているが為に予測が付き難いのかも知れない。しこれが四騎士やその他人間の様にアルピナの事を全く知らなかったら、仮令たとえそれが全くの見当外れとはいえもっともらしい妄想的予測は立てられたのかも知れない。

 兎も角、セナもアルバートもルルシエも、現状の認識は他の人間達と何ら変わらなかった。あるいは、既知の情報に引っ張られるが余りより一層の困惑と不安と恐怖に駆られてしまっているのかも知れない。それでも、如何どうにかこうにかルルシエからの問い掛けに対してそれらしい答えを紡いでいく。

次回、第367話は10/3公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ