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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第339話:戦局と対極した穏やかさ

此処ここが地界じゃなかったら結果は変わってたかもね。純粋な悪魔と龍装を組んだ悪魔とだったら、天魔の理で課せられる魔力の放出量の上限値が変わってくるからさ」


「それは随分と高い評価な事で。机上の話だとは言っても、智天使級からそう言ってもらえるのなら素直に喜んどこうかな?」


 穏やかで気迫の無い語気でヴェネーノは笑い、バルエルもまたそれに応える様に微笑みを返す。両者共に、アルピナやクィクィやジルニアの様に滾る様な殺気と戦闘意欲を常日頃から身に纏っている訳では無い。穏健派のバルエルは元より、ヴェネーノもまた一応は武闘派ではあるもののその中ではやや大人しい部類に数えられるのだ。

 その為、その態度振る舞いはまるでやる気の無い様にも感じられるが、しかし彼らなりに相応の務めは果たそうとしているのだ。其々《それぞれ》自身より上位に立つ存在から言い付けられた使命を果たすべく、最低限の義務と最大限の努力は忘れていなかった。

 だからこそ、そんな穏やかで気の抜けた会話劇の最中でも聖剣と龍剣は激しい衝突を繰り返している。取り分け、ヴェネーノが握る龍剣は龍装によってヴェネーノの肉体が一時的に変質したものであり、言ってしまえば龍そのもの。その為、他の神の子が握る聖剣や魔剣とは数段異なる覇気を内包している。それこそ、クオンが持つ遺剣に近しい状態を想像すれば分かり易かった。

 それでも、バルエルはそんな桁外れな力を内包する龍剣に真っ向から挑み続ける。年齢の差と実力の差と相性の差で武器性能の差を補い、むしろ凌駕する程の力を見せ付ける。暁闇色の聖力を迸らせ、上位階級としての意地を見せ付ける様にヴェネーノを翻弄する。

 その後も、適当な雑談を交わしつつも激しい戦いは間断無く続けられる。それこそ、最早目で追いかけるのも面倒になる程に何時いつまでも続けられていた。もっとも、アルピナ達による天使達の掃討がだ暫く終わりそうにない為、別に何ら問題は無かったが。

 しかし、戦闘が長引くという事は周辺環境の破壊がより悲惨な事に成っていくという事でもある。何より、そもそもとして地界には聖力も魔力も龍脈も存在しない。空間を満たすのはそれら超常の力では無くただの空気でしかない。

 そんな所に、聖力や魔力や龍魔力が余波となって迸るのだ。単純な周辺環境の破壊で片付けられる話では無いかも知れない。それこそ、理論上は地界という構造そのものをも変質させられるだけの力を孕んでいるのだ。

 しかし、そんな事が考慮されていない程地界は貧弱では無い。そもそも、地界は天界及び魔界と併せて龍脈の中で三界を構成している。つまり、聖力や魔力や龍脈が入り込む事は最初から織り込みの元で創造されている。

 その上、この戦いはかなり小規模。未だレインザード攻防戦の方が激しかったし、第二次神龍大戦を前にすれば比較する事も烏滸おこがましい程の雑事として切り捨てられる。故に、幾ら周囲に聖力や魔力や龍脈の残滓が雪の様に降り積もっていようとも、それはそこまで気にすべき問題では無かった。

 そして、それからどれだけ時間が経っただろうか? もっとも、誰も時計なんか持っていないし、初めから時間の経過は考えていなかった。その為、果たして戦闘開始からどれくらい経ったかなんて一切不明だった。

 しかし、時間なんて彼彼女らからしてみれば如何どうでも良い。そもそも、時間の概念はヒトの子の特権概念。星が自転と公転を繰り返す事で生み出される相対的な評価でしかない。つまり、この星(どころ)か地界の外に住んでいる神の子にとって、時間とは本来存在しない概念。あくまでも話の都合や認識の擦り合わせにおいて分かり易いから利用しているだけに過ぎない。

 何より、有限の寿命に束縛されるヒトの子と異なり、神の子は無限の寿命に放牧されている。言い換えれば、時間の牢獄の中に住んでいるのがヒトの子であり、外に住んでいるのが神の子なのだ。その為、時間を考えるのは完全な野暮でしかなかった。

 それでもやがて、果てしなく何時いつまでも続くと思われていた戦局にも少しずつだが変化が訪れ始めていた。それは目に見えて分かる劇的で効果的な変化という訳では無く、非常に僅かな、しかし着実に進行している移り変わりだった。

 例えば天使の数。アルピナ達の手により、相当数の天使が神界アーラム・アル・イラーヒーへと送り飛ばされた様だった。依然として現存する悪魔の総数よりは多そうだが、しかしそれなりに減少しているのは明らかだった。何より、アルピナもスクーデリアも最上位格の神の子。幾ら相性上有利で数的優位性も確保しているとはいえ、下位階級の天使如きでは真面な時間稼ぎにすらなっていなかった。

 例えば疲労度。神の子としての価値観や過去二度の神龍大戦からしてみれば一瞬にも満たない短期間ではあるが、ヴェネーノもバルエルも少なからず疲労が溜まっていた。取り分けヴェネーノに至っては龍装を組んでいる上に相手が圧倒的格上という事もあって、相当な疲労を背負わされていた。

 また、バルエルも同様だった。幾ら相手が年下で隠したとはいえ、元々の性格が穏健派。その上、最近戦ったのは数千年前にヴェネーノとシンクレアを天羽の楔で封印して以来。つまり、真面に運動をしたのは久し振りだった。それが結果的に、ペース配分を見誤らされてしまっていた。

 それら要因により、戦局は少しずつだが終着駅へと近付きつつあった。果たしてどの様な結果になるのかは今更議論する必要は無いだろうが、しかしそれは、誰の視点で見るかによってどっちにでも転び得る曖昧な状況だった。

 だからこそ、己の勝利を確実なものにしようと死力を尽くするヴェネーノやバルエルに対して、おおよその結果が見えてきたアルピナとスクーデリアは何処どこか涼し気な顔色だった。それこそ、天使を相手に遊び始める程度には余裕が一杯だった。


「さて、そろそろ決着が付きそうな頃合いか?」


「えぇ。ヴェネーノが余程間抜けな事をしない限りはそうでしょうね。やれやれ、思ったより時間が掛かったわね」


 背中合わせになって相互をチラリと一瞥しつつ、アルピナとスクーデリアは其々《それぞれ》一息ついて言葉を零す。その声色は何処どこか元気無さげであり、しかしそれは肉体的疲労では無く精神的な疲労に基づくものだった。大して面白味の無い格下天使の相手ばかりをさせられた事に対する気だるさが、こうして如実に表出されていたのだ。

 しかし、アルピナもスクーデリアもこの状況を改善しようとは思わない。そもそも、やろうと思えばバルエル程度なら今この場で瞬殺する事だって出来るし、眼前に今尚密集する天使の群れを纏めて始末する事だって出来る。面倒だと思うのならそれ相応に対処する事は実際の所訳無い話なのだ。

 それでも、アルピナもスクーデリアもこの状況に対して敢えて最低限の関与に留めていた。最上位階級として積極的に介入する事で場を終結させるのではなく、若手の鍛錬の機会としてこの場を見出していた。

 要するに、ヴェネーノやクオンへの体の良い丸投げである。しかしそれは、決して彼らを虐めているのではない。あくまでも、今後を見越した事前措置の為。と言うのも、近い将来、天使長セツナエルとの直接戦闘が訪れるであろう事は必至。しかも、今回やレインザード攻防戦やカルス・アムラの抗争の様に神龍大戦の延長としての戦闘では無く、その本質的原因としての対立戦争だ。

 つまり、神龍大戦以上の苛烈さが訪れるであろう事は容易に目に見えている。そしてただでさえ神龍大戦で大量の犠牲者を出してしまい数が不足している悪魔をこれ以上減らさない為にも、比較的安全な場面を利用して戦力の増強を図りたかったのだ。

次回、第340話は9/2公開予定です。

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