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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
338/511

第338話:後半戦突入

『好きにしろ』


 対して、そんなスクーデリアの態度振る舞いを受けたアルピナは、それを鼻で笑い飛ばす。別に侮辱している訳では無い。ただ、これまで数え切れないくらい受けてきた感情だった為に、もうお腹一杯だっただけだ。あるいは、飽きる程の嫉妬の眼差しを経た先に到来した現在を前にして、一周回った頼もしさすら抱いている始末だった。

 さて、とアルピナはワザとらしく大きな溜息を零し、改めて周囲の状況を把握する様に眺める。それなりに数は減って来たものの、いまだ数えるのも億劫になる程の天使が今尚上空で群居している。其々《それぞれ》が暁闇色の聖力を妖しく零落させ、種族色と個体色を綯交させた魂を燦然と輝かせる。

 金色に輝く聖眼から迸る眼光が雨の様に降り注ぎ、アルピナとスクーデリアとクオンの魂を束縛する。所詮は下位階級な為に一つ一つは大した事の無い矮小なそれでしか無いが、それでも、足し算の基本原理に基づき数が質を補強する事だって十分に有り得る。

 つまり、幾らアルピナやスクーデリアが悪魔(どころ)か全神の子の中でも上位10本指に入る上位格だとは言っても、この眼差しを前にして到底無視出来兼ねる状態だった。勿論、生命の危機に直結する様な大々的な問題にまでは及ばないが、しかし心中に曇天が陰る程度には居心地悪い状態に置かされていた。

 また、アルピナやスクーデリアでさえそれなのだから、クオンにとってはもっと悲惨とも言える。幾らアルピナとスクーデリアとクィクィの魔力を契約によって授かり、ジルニアの龍脈を遺剣を介して利用しているとは言っても、それを受け止める器は未だヒトの子として分類される。これまでの経験を通して多少は神の子寄りに身体が造り替えられている様だが、しかしあくまでもその程度でしか無かった。

 その為、複数(にん)の天使を同時に相手取りつつも、その顔色は余り喜ばしいものではなかった。疲労とはまた異なる、聖力に当てられた事による気持ち悪さと言った方が良いだろう。さながら、決して重篤とは言えない家庭的な病気に掛かったかの様だった。

 それでも、クオンは気力と理性で如何どうにか踏ん張りつつ天使達を相手にして戦う。そもそもとして、彼自身がこの境遇に置かれたのは天使達が指揮する聖獣が彼の故郷であるマソムラを襲撃し彼の養父を殺害した事に起因するのだ。

 つまり、直接的原因では無いとはいえ天使こそが元凶なのだ。眼前の天使はその元凶では無いが、しかし元を正せば種族単位へと収斂するのだ。やや八つ当たり気味かもしれないが、復讐としては申し分無い相手だった。

 勿論、復讐した所で養父たる師匠が生き返る訳では無い。魂が霧散し、輪廻の理乃至(ないし)転生の理からも零れ落ち、自然へと還元してしまったのは、アルピナから伝えられた通り。それでも、個人的な清算の為にも、取り止めたくは無かった。

 だからこそ、彼は聖力と聖眼によって害されている気分を理性と根性で無理矢理昂らせる。そして、今尚全身及び遺剣に纏わせている龍魔力を、天使に対して相性上不利な魔力よりも有利な龍脈が多めになる様に調整する。そして、龍脈の保護膜で自身の心身及び魂を聖力や聖眼から守る事で、多少の自己解決を図るのだった。

 そして、改めて大きく息を吐き零すと、彼は眼前(どころ)か周囲全体に隈無く満ちる天使達へと果敢に突撃する。金色の龍魔眼を輝かせ、龍魔力が滾る遺剣を握り締めて、眼前の天使達に過去の怒りを押し付ける積もりで挑み掛かるのだった。

 そんな彼の背中を、アルピナとスクーデリアは微笑ましく見つめる。それこそ、我が子の成長を見届ける親の様な気持ちを胸に秘め、戦場の直中にあるとは思えない穏やかで平和的な眼差しを浮かべる。小柄で可憐なアルピナも長身で美麗なスクーデリアも、其々《それぞれ》そんな非悪魔的微笑ましさと共に天使達を挑発する。そして、それに乗って歯向かってくる天使達を、羽虫をあしらうかの様に蹴散らしてゆくのだった。



 そうしてアルピナとスクーデリアとクオンが其々《それぞれ》の想いを胸に天使達の群れを蹴散らしていく隣では、シンクレアと龍装を組んだヴェネーノ対バルエルの戦闘が後半戦へと差し掛かりつつある様だった。両者とも、魂からは天魔の理に抵触しない範囲で最大限の龍魔力乃至(ないし)聖力を放出させ、それらによって具現化された武器を衝突させ合っていた。

 その不可視の衝撃は、微かに減衰しつつも遥か彼方かなたへと吹き荒ぶ。陸を揺らし海を割り空を破り、周囲への影響などまるで気にする素振りは無かった。それどころか、これが周囲一帯(どころ)かこの星全体に波及するであろう事を認識した上で同様の態度振る舞いだった。。

 もっとも、彼らを含む天使も悪魔も龍も、そもそもとして地界には存在しない筈の存在。本来は天界乃至(ないし)魔界乃至(ないし)龍の都(タナーニィーン)に暮らしている筈の異邦人であり、だからこそその程度の杜撰な関心しか抱かなかった。何より、彼らは地界に住むヒトの子の魂の管理が仕事であり地界そのものは管理の対象外なのだ。

 その上、管理とは言っても積極的な繁栄や保護の必要は無く、生きようが死のうが彼らとしては如何どうでも良い。それこそ言ってしまえば、仮令たとえ全滅してもそれはそれで構わないし仕方無い程度の認識しかない。その時はその時で、この世界を捨てて他の世界に行くなりヒトの子のいなくなった世界を生きるかすれば良いだけの話でしかない。

 その為、ヴェネーノもバルエルも周囲の状況を観察しようなどと言う気は一切生じていなかった。実力差的に余裕の無いヴェネーノは兎も角、実力差的にも経験差的にも多少は余裕がある上にそもそもとして武闘派ですらないバルエルでさえも、最早その有様だった。さながら天災を擬人化したかの様であり、只々《ただただ》被害者として逃げ惑うしかないヒトの子としては良い迷惑でしか無かった。


「はぁ……はぁ……やっぱり、そう一筋縄にはいかないかぁ……」


 頬を伝う血とも汗とも付かない液体を服の袖で拭いつつ、ヴェネーノは相手に問い掛ける訳でも無く独り言ちる。身体の彼方此方あちこちは血と傷で塗れ、着用する衣服もまたそれ相応程度には汚れてしまっていた。

 それでも、この程度なら大した消耗には数えられない。神龍大戦当時を思えば、この程度なら掠り傷にも満たないものとして切り捨てられる。何より、身体的損傷は龍魔力を用いれば内部から修復が利くのだ。魂そのものが傷付けられたり、あるいは龍魔力自体が尽きてしまう事に比べたら如何どうという事は無かった。


「いやいや、龍装込みとはいえ伯爵級悪魔が智天使級天使に敵う様な事があったら僕の立つ瀬が無くなるから。そんなに高望みされたらこっちとしても示しが付かないよ」


 悔しさを噛み締める様に心情を吐き零すヴェネーノの言葉を、バルエルは笑いつつ拒絶する。そもそも、幾ら龍装があるとはいえ伯爵級悪魔が智天使級天使に敵う筈が無い。事実、ヴェネーノより年上のセナとアルテアがバルエルより年下のレムリエル相手に手も足も出ていないのだから、それは明らかな事。

 それにも関わらず、してや彼は勝つ積もりでいるのだ。侮辱と捉えても怒られる事は無いだろう。それでも、上に立つ者として感情任せに一蹴するのは申し訳無いし、何よりバルエル自体が性格的に穏健派寄り。アルピナやクィクィの様な典型的武闘派気質では無い事から、手より先に口が動いてしまった。

 まぁでも、とバルエルは話を転換させる。穏健派を自負する手前、余り過激な殺傷行為はしたくない所だが、しかし状況からしてそんな事を言っていられる訳が無い事は明確。億を超す年月を掛けて命の取り合いを行っているのだ。今更言葉で解決出来る筈が無い事は分かり切っていた。

次回、第339話は9/1公開予定です。

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