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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第329話:レムリエルの観察

 その間も、ナナとレイスは限られた時間内で最大限の成果を勝ち取るべく、レムリエルと剣を交わらせ続ける。アルバートもまたそれに参加し、三対一の変則的で偏重した戦闘の火花を幾度と無く苛烈に散らし続ける。

 それに対しレムリエルは、決して全力では無いものの、しかしそれなりに手を抜いて三人の剣を捌き続ける。無翼の天使故に翼を見せる事は叶わないが、それでも天使としての権威を存分に見せつける覇気だけは、そこにしっかりと表れていた。

 そんな彼女は、一見して軽やかに見える態度振る舞いの背後でナナとレイスという二人の龍人を観察している。金色に燦然と輝く聖眼を可憐に開き、肉体の深奥に鎮座する彼彼女の根源たる魂を静かにひもといていく。

 それは、彼彼女二人の力の本質を見極める為。大した事の無い雑多な存在として切り捨てても構わない、と天使長から言い付けられていたにも関わらずこれだけの力を発揮しているのだ。放置するなどという愚行を如何どうして選択出来るだろうか。

 むしろ、こうしてつぶさに観察する事により新たな発見だってあるかも知れないのだ。果たしてセツナエルの真の目的は聞かされていない為に推測する事しか出来無いが、それでも何かもっともらしい手掛かりを提供する事だって出来るだろう。それが真に役立つかはさて置き、彼女個人の自己判断でそれを決める訳にはいかないのだ。

 だからこそ、その態度振る舞いに反して彼女の魔眼は真剣そのものだった。魂を最小単位に分割し、その上でそれら一つ一つを一切の取り零しも無く評価していく。果たしてそれが元々彼女の知る龍人と大差無いのか、将又はたまた別の何かへと変質しているのか、あるいは外部からの助力を得ているのか。あらゆる可能性を考慮しあらゆる可能性を排除する事で残るたった一つの真相を明らかにする事が、今の彼女の為すべき事だった。

 勿論、その聖眼の範囲にアルバートの魂は存在していない。彼の存在や正体及びそれの切っ掛けとなったレインザード攻防戦での彼是あれこれは全て聞き届いている為、今更それに兎や角言う様な事は無かった。それに、契約自体は特別珍しい事でも無い。

 確かに、スクーデリアによる、という前置詞が付く事は珍しいが、しかしだからと言って特別何かが変わる訳では無い。それに、あくまでも珍しいだけであって初めてという訳では無い。事実、何時いつだったかは忘れたものの、その場面に遭遇した事だってあった様な気がする。

 その上、スクーデリアの力という点こそ脅威だが、しかし如何どうしようも無い警戒心を纏わなければならない程では無い。言い換えれば、レイスやナナの魂に匹敵する様な脅威やそれに勝る様な優先順位を付ける必要は無かったのだ。

 しこれがアルピナによる契約だったら、また話は変わっていただろう。スクーデリアと異なり、アルピナによる契約を彼女はいまかつて見た事無いし、聞いた事も無い。より正確に言えば、そんな前例は存在しないのだ。

 加えて、彼女は二代目とはいえ悪魔公である。つまり、悪魔ではあるものの他の悪魔とは根本的な性質が異なる。幾ら前悪魔公がいた時代は一般悪魔だったとはいえ、就任以降新たに特権的な力を得ていても何ら不思議では無いし、むしろその筈なのだ。

 また、そもそも論として彼女は草創の108柱である。つまり、この世にたった108柱しかいない神の直接的寵愛を受けた申し子なのだ。レムリエル自身は御話にならないとして、最初期の智天使級天使や侯爵級悪魔と比較しても隔絶された力を持っている事は確実なのだ。

 それらの点を考慮すれば、そんな彼女との契約によって彼女の力の一端を授かった者という存在は、幾らそれがただのヒトの子とはいえ警戒しない訳にはいかない。それこそ、ヒトの子では無く神の子として扱っても臆病者と罵られる心配は無い程だ。

 詰まる所、それ程の存在なのが他でも無いクオンなのだ。そんな得体の知れないアルピナによる契約を一手に受け入れた上でジルニアの遺剣に認められ、尚()つスクーデリアやクィクィとも契約を結んでいるのが彼なのだ。現存する全悪魔の上位三本指の力に全龍で頂点に立つ唯一無二な存在の力を扱う彼こそ、真に警戒すべき相手なのだ。

 それ故、アルバート程度であればクオンに比べれば赤子にも満たない些末な相手として見()す事が可能なのだ。幾ら本体が天然物の逸脱者であり契約によって英雄の領域にまで至っていたとしても、それは変わらない。

 だからこそ、聖眼で映る特異な視界の隅に映るアルバートの存在は適当にあしらい、レムリエルは眼前の龍人に対して改めて意識を向ける。どれだけ時間が掛かっても確実にその真相を突き止めてやろう、という今(まで)に無いやる気(まで)見せて、彼女は深く息を吐き零す。

 そんな彼女に対して抜群のコンビネーションと共に攻め掛かるレイスとナナは、其々《それぞれ》厳しい戦いを強いられている事を自覚していた。姿形はまるで龍と人間を足して割った様な姿。額からは琥珀色に淡く輝く角を可愛らしく伸ばし、背中からは身体を包み込める程に大きな翼が勇々しく羽ばたいている。

 加えて、魂で産生される龍脈が全身を駆け巡ると共に手にした剣へと注ぎ込まれ、両のまなこに宿る龍眼が猛獣の様に鋭利に輝いている。額の角もまた身体内部へ抑え込み切れていない龍脈を迸らせており、それら龍脈は何処どこかジルニアを彷彿とさせる懐かしさを感じさせられる。

 また、そんな龍脈の影響なのか将又はたまた単純に血の繋がりのお陰なのかは定かでは無いが、二人とも何処どこかジルニアに似ている様な気がする。取り分け、翼の骨格部分を覆う白銀色の鱗ややや龍っぽくなった顔立ちなどに至ってはジルニアそっくりだった。

 しこの姿をアルピナに見せたら、果たして如何どうなるだろうか。レムリエルは心中で面白半分に予想する。感動に涙するだろうか? それとも、中途半端なそっくり具合を前にもどかしさを覚えるだろうか? 血の繋がりがある事を考慮すれば受け入れこそするだろうが、しかしだからこそ余計に気になってしまう。

 あるいは、それが目的でアルテアは二人を此処ここまで連れて来たのだろうか? しそうだとすれば何とも性格の悪い悪戯な気がしてならないが、しかし悪魔達の階級差や年齢差を気にしない対等な付き合いを考慮すればそれもまた有り得る話だった。

 天使としては珍しく階級や年齢差による上下関係を重要視しないレムリエルとしては、ちょっとばかし嫉妬してしまう羨ましい光景。長年付き従ってきたバルエルだけにしかそういう事が出来無いからこそ、等しくそういった事が出来る環境には憧憬の念すら抱いてしまう。

 兎も角、レムリエルはレイスとナナの魂の分析を続ける。事実してこれだけの力が彼彼女には備わっているのだ。つまり、そこには何らかの原因乃至(ないし)要因が付帯していなければならない。人間の行動に全て何らかの目的やそれに伴う理由が存在しているのと同様に、あらゆる結果にはそれを保証する為の何らかの過程が備わっていなければならないのだ。

 それをつまびらかにするべく、レムリエルは聖眼を凝らし続ける。たかがヒトの子如きにこれだけ苦労させられるのは癪でしか無いが、しかし龍人の町には此処ここ最近屡々(しばしば)悪魔達が出入りしているのだ。神の子による何らかの介入があると考慮すれば、それもまた止む無しだと諦めが付く。

 対して、そんな彼女の聖眼の矛先を痛い程感じ取るレイスとナナは、しかしだからといって如何どうしようも無かった。現状を維持するのに手一杯であり、そこから更にレムリエルの聖眼を妨害する様な余裕は存在していなかった。

次回、第330話は8/23公開予定です。

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